第2話 あるよ!

 ある日、家に電話がかかってきた。親が出て、私の名前を言ったらしい。電話に出ると知らない男性だった。


「こんばんは。私は〇▽×商会のA田(仮)と申します。鴨居(仮)さんであってますか?」

「はい」


「あの、キムタクが出てるドラマ『HERO』って見てますか?」

「はぁ見てますよ」


「あのキムタクがよく通信販売で物を買ってますよね?」

「はぁ」


「あの中で三角のネックレスがあったの覚えてますか?松たか子さんが買ったネックレス!あれがうちの商品なんですよ」

「あぁ(あのダサイやつ)」


「で、明日もしよかったら是非うちの商品についてお話させていただくお時間をいただけたらと思うんですがいかがでしょう?」

「明日はバイトがあるんで…」


「バイトまでのお時間でいいので〇〇ホテルのロビーでいかがでしょう」

(〇〇ホテルのロビー…ちょっと入ってみたい…)

 ついホテルのロビーに魅かれて了承してしまった。バカである。


 バイトの2時間前。〇〇ホテルのロビーに着く。爽やかそうでありながら少しばかり濃い27歳くらいの男性が出迎えてくれた。もちろんバリッと革靴に中にベストがついているスリービース。


(〇〇ホテルでお茶飲めるかも♪)


 そんな期待とは裏腹にホテルの2階へと進み、ロビー吹き抜けの廊下にあるテーブルに着席させられた。そう、ただの席。お客様のただの席。カフェでもなんでもないただの席…


(なんでやねぇぇんっ!)


 名刺をいただく。私に名刺なんてものはない!出す気も無い!

「来ていただきありがとうございます」

「いえいえ」


「鴨居さんはキムタクはお好きですか?」

「いえ、別に」

 ガクッとなるA田。そうこの時は男も女もキムタク大好き!みんながキムタクのファッションを真似て皮製のダウンを来て少し髪を伸ばしてパーマネントさ当てて、真ん中分けをしていた。


「弊社は昨夜お話させていただいたドラマ『HERO』で使われたあのネックレスを作っている会社でして…それでですね、是非今回は購入していただきたいと思いまして…」

 ごそごそとバックを漁るA田!


(おぉ!あのドラマのやつの本物見れちゃう??!)


 スッと出されたのはなんと!!!

 3つ折りのカラーのA4サイズパンフレット…


(ズコォォォッ!)

 心の中で思いっきりコケた。とりあえず見る。うん、どれもダサい。さすがあのネックレスを作った会社。本当に作ったかどうかも怪しいけど。


「この中で欲しいと思う品はどれですか?」

「えぇぇっと、コレとコレとコレは絶対にイヤ」


「あ、あぁ、イヤっていう方から言われた方はアナタが初めてです」

「えぇっとちょっと目についてしまって…すいません」

(だってダサい!ハートのデカイのとかダサイ!)


「で、欲しいと思う品ありました?」

「いやぁ、これがちょっと魅かれる品が無くって…」


「そうなんですか?こういった貴金属は人の格をあげてくれると思うんですよねぇ。ほら、時計でも高いのを付けていると自信もつくって思いませんか?」

 とこれ見よがしに時計を見せてくるA田


「そうですねぇ…(敢えてロレックスですねぇとか言わない)」

「是非、付けていただいて鴨居様の格を上げていただけたらと…」


「う~ん、別に魅かれないかなぁ…」

「もし、もしもなんですけど、ご購入いただけたら東京のパーティにご招待してもいいと思っているんですよ」


「パーティ?」

「えぇ、ホテルのスイートを貸し切ってするんですけどね、この間なんてあのモデルの〇〇〇が大暴れしちゃって大変だったんですよ」


(いや、そんなの危険でしかねぇ!そんでもってそれはこの宝石類を販売した利益で飲み明かされてるやないの!)


「そうなんですねぇ…ちなみにコレおいくらなんですか?」

「コレ、これはですね100万です」


「は?」

「分割払いもできますよ?」


ゴールドていうのは資産にもなりますから」

「何金なんですか?」


「24金です」

「ほぉ…」

(本物だったら24Kって刻印されているだろうが、パンフレットじゃ分からない…)


「え~っと100万円もするものをこの紙一枚で購入するんですか?実物を見る事もなく?」

「本物を持ってくると警備を付けたりしないとなんで大変なんですよ」


「ふふっ、さすがに実物も見ないで100万円の買い物はできませんよ」

「いやいや、でもそれだけの物を身に付けたら本当にステキだと思いますよ?」


 そこから同じようなやりとりがずぅぅぅぅっと続く。何度かホテルマンの人が横を通る。目で『助けてぇ』と見るもきっと手を出せないのか伝わらない…


 時間を気にすると

「バイトの後でまた是非話をさせていただけたら…」

(まだ喰いつくかっ!)

「いやぁ、今日はブラジリアンパーティに行く予定なんで」


「ブラジリアンパーティ?」

「えぇ、この辺のブラジル人たちが浜辺に集まってパーティするんですよ。なんで無理です。」


「うわぁ、いいですねぇ。そこで是非この指輪とかね、付けていただいたら輝くと思いませんか?」

「そりゃ指切り落とされちゃうよ」

(平和ボケめ!)


「じゃ、すいません!時間なんで!失礼します!」


 逃げました。ハイ。

 A田が追ってくるんじゃないかってくらいしつこくて怖かったです。


ふふっ、買っていたら今頃はすごい金の価値が上がっているから儲かった?

本物だったらね…っていうか24金の指輪って100万円もするぅ?まずそこらへんの価値観も持ち合わせてなかった。豚に真珠ってそういう事。










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