私の背中にはネギがある?

Minc

第1話 リクルートスーツはいいカモ

 就職活動中…何社か回っていて、昼時に時間が空いた。そんなに都会の駅でもないけど何もないほど田舎でもない。そんな駅。


 時代は氷河期…といっても恐竜が絶滅したとかそういう時代ではない。日本の高度成長期のバブルがパッチーンと綺麗にはじけた後で新卒の採用なんて本当に無い氷河期。駅には多くのリクルートスーツを着た若者がゾンビの様にふらついていた。

 

 お昼ご飯を食べ終わったけど、ランチ時は忙しいのでその店で長居はできず外に出る。お茶をするっていっても食べたばっかりだし、何よりも貧乏学生の身。カフェに入るのもなぁって躊躇し私もゾンビになっていた。


「ねぇ、アナタ、就活生?」

 爽やかな笑顔の20代中頃のスーツ姿のお姉さんに声をかけられる。

「え、あ、ハイ。そうですけど…」

 いきなり見知らぬ人に声をかけられたらこれが普通の対応だと思う。


「あのね、私達今、就活生を支援する活動をしていて、すぐ近くにオフィスがあるんだけど、お茶とか飲み放題だし、就職に役立つ情報もあると思うからちょっと来ない?」

「あ、この後も会社訪問があって…」


「うんうん、時間まででいいから♪他の就活生もいっぱい来てるからおいでよ♪」

 ふと周りを見ると他の就活生も同じような人に声を掛けられていてついて行っていた。


「あぁ、じゃぁ時間までなら…」

 そういって駅の近くのオフィスビルに入る。オフィスでは会議室みたいな部屋に4人掛けのテーブルが点在していた。多くの就活生とそのオフィスの人と対面で話をしていた。


 勧められた席に座る。

「何飲む?」

「あ、じゃぁ紅茶で…」

 ティーパックの紅茶が紙コップで出て来た。


「ねぇ、鴨居さんは(仮名)自分の事ってどれくらい知ってる?」

 名前を聞かれて答えていたので私の事はここでは鴨居(仮)とする。

「自分の事ですか…」


「そうなの、自分の長所、短所って説明できる?」

「そうですね…どうですかね?」

 この時期、就活をしていると自分の長所、短所なんていろいろと聞かれるも何が正解で何が不正解かなんて分からなくなってきていた。

 それに不採用なんてもらうともう自分自身が全てダメなんじゃって思ってしまう。


「だよね?そういうのって難しいよね?だからね、ここでは自分の長所、短所を知って自分の事を良く知ろう!って言う事をやっているの?」

「はぁ…」

 周りを見ると皆同じような事を話しているようだ。「セミナー」という言葉が聞こえる。


「自分の強みや弱みを知って就職を有利にしようっていう事なのよ。鴨居さんは自分の弱みとか知りたくない?」


「いえ、知りたくないです」

「えっ?!なんで?」


「そうですね、毎日新しい自分との発見が楽しいからです。『あ、こんな自分もいたんだ』って…面白くないですか?」

「う~ん、でも前もって知っておいて分析したら有利にできると思わない?」


「う~ん、でも知ったからと言って就職が有利になるんでしょうか?そんな短期間で人って変わるのかなぁ?」

「えぇ?強みとか言えたら有利なんじゃない?」


「『長所は短所、短所は長所』なんでも言いようなんじゃないですかね?それにそれで自分を決めつけてしまうのもったいなくないですか?きっと私の中にはまだ私が知らない私がいると思うんですよね」

「あぁぁ!もぉ!あなたと話していると幼稚園児と話しているみたいだわ!分かったわ。もういいわ。それを飲んだらもう次の会社に行っていいわよ」


(えぇぇえぇぇ?素直に言ったのにぃ…幼稚園児て…)


 とまぁ解放された訳ですが『幼稚園児』ちょっと傷つきました…


 見た目は大人!頭脳は幼稚園児!!(≧▽≦)


 なんとか就職できましたよ。ハイ。

一か月で退職しましたけどね。ハイ。

今でもある会社だよ。ハイ。

口止め料もらいましたよ。ハイ。

口止め料もらっちゃったから言えないよ。ハイ。

だから履歴書にも書けないよ。ハイ。

いろんな会社があるんだよ。ハイ。

気を付けな!!


 

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2024年11月30日 18:46
2024年12月1日 18:46

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