第2話

「ふぁ~~……寝みぃ」


 桜が散り果て緑の葉が生い茂る五月の半ば。窓際の一番後ろ席を宛がわれた俺は、昼食の焼きそばパンを右手に持ちながら、左手で顎を乗せて外の景色を見て欠伸した。


「昨日のテレビ見た?」


「見てねーよ。最近のテレビ面白くねーもん」


「アニメは見ろよ」


 仲良く男子三人組が談笑しながら弁当を食べる景色。


「え!? 隣クラスのあの人とお近づきになったの?」


「途中まで一緒に帰っただけだってぇ」


「それってもしかする?」


「ないないぜんぜーんない」


 弁当を食べながら姦しく恋路に持って行こうとする女子たち。


「おー! ベストポジション!!」


「スペシャルショット絶対当てろよ!!」


「頼むぞおい! コンテ続きで萎えてんだからさ!」


「いけるいけるいける!!」


 スマホのアプリゲームで盛り上がる男子たち。


 それ以外にも男女でオカズを交換し合って食べるカップルも見かける。


 各々仲の良い者同士で集まって食べ、勉学に励み、騒ぐ姿は、高校生とはかくあるべしを体現している風景だ。


「あむ……」


 そんなクラスの中で、お弁当を食べ終えた俺は一人焼きそばパンを頬張る。


 もちろん、俺以外にもチラホラと一人で昼食を採っている生徒もいる訳だが、客観的から見て寂しい奴だと思うだろう。


 少なくとも彼彼女らに対して俺は思う。


「三つめはメロンパンいくか……」


 お前が言うなと。ぼっち飯をかましてるお前が言うのは虚しいんじゃないかと。田舎のお地蔵さんが俺に問うてくる始末。


 正直、寂しくないと言えば噓になる……。そりゃ俺だって健全な男子高校生。友達の一人や二人、彼女だって作りたいお年頃が寂しくないなんて嘘だ。


「はむ……」


 だけど、この状況をあえて望んだともあれば、話は違ってくる。


 俺が東京にあるこの学校――渋宿高校へ転校して来たのは今年の四月だ。つまりは他のみんなが一年から二年に上がる時期。


 そりゃ一年の時には見ない顔だから、自己紹介終わりの休憩時に色んな奴が俺に話しかけて来たもんだ。


 でも俺の反応はというと……。


「趣味? 読書かな」


 オタク風の男に半目で回答。これ以上話は続かなかった。


「彼女? 居たことないです。あと童貞です」


 興味の文字を瞳に映した女子に半目で回答。童貞の一言でドン引きされた。


「カラオケ? あー……マイク潰したことあるんで、行かないです。出禁になりますから」


 チャラチャラした男子クラスメイトに放課後を誘われたけど、やんわり断った。


 登校姿も基本ぼっち。休み時間に誰とも話す事も無く、今みたく昼飯も一人で食う。


 そんな姿を見せ二週間もすれば、連絡等以外で俺に話しかけてくる物好きは居なくなった。


(よし……)


 そして俺は、内心ガッツポーズした。


 俺が人を避けているのは明白だろう。それこそ、東京のカードショップが臭い理由はカードゲーマーが風呂に入らず碌な洗濯もしないから、と同じくらい明白だ。


 まぁカードゲーマーは風呂入って衣類をヲキシ漬けしてフォブリーズ部屋に噴射しとけ。


「……五つ目はカレーパン」


 じゃあ何故俺は人を避けるのか。


 その答えは。


「――よおボクゥ。ちょっと路地裏まで来てくれない?」


「悪い様にはしないからさぁ」


「俺たち金に困ってんだよねぇ」


「……」


 その星の下で生まれた様な『絡まれ体質』だからだ。


 放課後の帰り道。商店街で食べ歩いて帰路していたが、不良たちに遭遇。同じ歳か少し上の歳、その男連中に連れられ大人しく路地裏に行く俺は、これも日常だと高を括り半目で付いて行く。


 ――ドンガラガッシャン!!


 そして十秒後、路地裏から出てきた。


 俺一人だけ。


 そして何事も無かった様に帰路。


「……あ、アメゾンのブラックフライデーでカロリーバー買っとかないとなぁ」


 俺は生まれながらに先天的なある種のを背負っている。別に手帳を持っている訳でもないけど、定期的に通院してる感じだ。


 そのハンデの特徴として、めちゃくちゃ腹が減る。つまりはカロリーの消費が激しい燃費の悪い体。だからカロリーバーは必要不可欠。


 まぁそのハンデで頑丈に育ったわけだけど、それに連られてさっきみたく不良に絡まれる『絡まれ体質』も授かった。


 この『絡まれ体質』のせいで俺の中学時代と高一時代は波乱を過ごした訳で……。


 俺が居ると何かしら絡まれて迷惑がかかるから人を避けているの。真っ当な理由だろ?


 そんな俺でもこの街にある叔母の家で居候してからは、めっきりと絡まれる事態が減った。一日絡まれない日もあるくらいだからもう最高だろ。


「――ちょっとやめてよ!!」


 そう思っていた時期が、私にもありました。


「ねえいいじゃ~~ん」


「俺たちと遊ぼうぜ~~」


「気持ちいいよ~~」


「ふざけないで離して!!」


 商店街の出口付近。人の往来もある中で、人目もはばからず無理やり女性をナンパする五人組がいた。


 しかも腕を掴まれてナンパされている女性は俺のクラスメイトだ。


(巨乳ちゃんだ……)


 名前は確か……蜂谷まやか、だったか……。


 俺と同じクラスのギャルで人気者。


 ショートヘアーの裏にブルーのインナーカラーを染めているが、誰しもが目を奪われるのはその巨乳だろう。


 名前を覚えられない俺ですら、巨乳ちゃんと名付けて覚えるくらいだから相当だ。


「いい加減にしてよ!!」


 ナンパ師に全力で嫌がる蜂谷さん。


 見ず知らずの人なら、周りの人たちと同じようにスルーが安定だけど。


「……今度は俺が絡みに行く番なのね」


 半目で蜂谷さんに近づいた。

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