第3話

「はあ゛もうマジ最悪!!」


 私――蜂谷まやかは怒気を含ませた荒い声を発し、ガニ股歩きで家に帰る最中だ。


 帰宅途中のパパや買い物帰りのママ、それにキッズまでが何だ何だとキレ散らかしている私を見た。


 心中穏やかではない私には、そんな視線を気にする余裕はない。


 では何故私が怒っているかと言うと……。


「エロ河童ばっかりだし気分乗らない……」


 エロ河童に呆れて不機嫌。


 別校との合コンがあるとクラスの仲の良い友達たちに誘われたのがきっかけ。


 イケメン揃いで最高の合コンだって友達たちは息まいて参加。バイトのシフトを増やしたいほどに金欠な私はやんわりと断ったけど、向こうの男子たちが払ってくれるらしく、特にバイトも入って無かったから参加した。


「「「うえーいカンパーイ!!!」」」


 ――キン♪


 四対四の合コン。


 私は友達たちとは違い彼氏が欲しいとかは一切なく、ただ単に歌って食べれればいいと思った。


 一旦家に帰り支度。レッドアッシュの髪色を活かすために上は白の肩出しニットセーター、下はデニムのミニスカ。コロンも振った。一応人に合うエチケットとしてオシャレもした。


「今日は歌って踊って騒いじゃおー!!」


「イエーイ!!」


 男女全員の名前交換をし合った後、企画した友達と男子が率先してマイクを握った。


 と言っても二人はカップル。この場を用意したのは私含む六人の男女を、文字通り男女の仲にするために開かれた合コン。


「ねえねえまやかちゃん」


「んー?」


「俺まやかちゃんを見た時から思ってたけどさぁ、ブルーのインナーカラーもそうだけどぉ、ファッションセンスいいよねぇえ!」


「んーありがとー」


 前述の通り、友達には悪いケド男あさりに来た訳じゃない。だから目の前のチャラい薄っぺらそーな男が、私に好感もたれようとしてるのをスルーしてる。


 って言うか……。


(うひょーおっぱいデケェー!)


(いやいやモデルでもあそこまでのは……!!)


(デカいデカいと聞いてたが、マジでデカいなぁいいなぁあ!!)


(グラビア雑誌なら看板だろ!!)


 男共の視線がいちいちイヤらしい。


 ってか彼女持ちの音程ガバガバ男も私の胸を見てる。彼女居るんだからそっち見ろよマジで死ね。


「ふぅ……」


「お、グラス空いた? 俺入れてこようか?」


「今お腹いっぱいだから大丈夫ー。後でお願いしよかなー」


「オッケーオッケー」


 チャラ男が事細かに私の動きを観察しているのか、グラスが空いた途端にしゃしゃり出てきた。それをさっきみたいにスルー。


「……」


 ガヤガヤと騒いでる周りから意識を離してしまう。


(なーんか気分が乗らないなぁ……)


 歌って食べるために来たけど、本当に気分が乗らない。アラカルトのポテトの味も薄いし……。


 別に男友達が居ない訳じゃない。カラオケで過ごすのも嫌じゃない。


 ただ何だか……。気が乗らない。


 まぁそもそもの話。


(パイ乙かいでー)


 今日は男の視線が嫌になる。


 私が巨乳なのは自覚してる。今日も胸を主張する服だし、むしろそれ狙ってギャルしてる。


 でも嫌な気分になる。……たぶんチャラ男のせい。


(そんな日もあるよねー……)


「おっと! 俺の番か! 聞いててよまやかちゃん!」


 どうやらチャラ男の番が回って来た。


 ミジンコほども興味ないとジト目で見ていた私に対し、ウインクからの白い歯ピカリ。ウキウキ気分でマイクを握った。


「アスファルトおおおおお↑!! タイヤアアア↑!! 切りつけええええ――」


 しかもクソ下手。


「……」


 スマホを操作して企画してくれた友達にメッセージ。


(気分乗らないから帰るわ)


(了解)


「……」


「……」コクリ


 目配りしたら相づちしてくれた。


「夢中でえええええ↑!! 踊るううううう↑!!」


 ――ガチャリ。


 キョドリながら歌うチャラ男を他所に退出。


 そのままカラオケ店から出た。


「はぁ……」


 大きな溜息が出てしまう。気分が乗らないなんて曖昧な理由で出て来たけど、誘ってくれた友達には申し訳ない気持ち……。


「……これで勘弁して~~」


 スマホのメッセージで《今度スタブ驕るから許して♡》と送った。


 返事は直ぐに着て、《よろしく(笑)》との回答。


「是非とも驕らせてもらいますよ~~。なけなしの金でね」


 鬱屈として店内と違い、少し冷たい空気が妙に気持ちいい。


(どこかに寄る理由も無いしぃ、帰るとしますかぁ……)


 そう思った私は足取り軽く帰路へ着く。


 背が高いビルを数ブロック抜け、少し待ち時間が長い信号を待って渡り、ふと、進行方向にある賑わう商店街へと目を向けた。


(確か美味しいスムージーあったよね……)


 手持ち無沙汰もなんだし、美味しいスムージーでも買って帰ろうと思った。


 それが間違いだった。


「よお姉ちゃん! デカいおっぱいしてんねぇ! 俺たちと遊ばない?」


 商店街の門を潜るや否や、五人組の男たちが群がって来た。


 見た目は若い連中でチャラチャラしてるし胡散臭い。細身もいるし筋肉質の奴もいる。


 そんな奴らがニヤニヤしながら私を舐め回す様に見た。


「別に遊ばないから。私帰るしどっか行って」


 ノリに乗れなくて退散したのに、まさかナンパ男たちに絡まれるなんてホントついてない。


「ねえいいじゃん~~遊ぼうよ~~」


「もっかい言うけど、どっか行って。それに私高校生で未成年だし、あんた達とは遊べないの。成人なら大人のお店でも行けば」


 こういう輩には弱腰はダメ。毅然きぜんとした態度で断らないと調子に乗る。


「まあそう言わずにさぁ~~」


 無精ひげを生やしたチャラい男が私に近づく。そもそもこの五人組の視線が胸バッカでマジで気持ち悪い。


(クソ野郎ね……)


 そう思った途端。


「――ちょっとやめてよ!!」


 突然私の腕を掴んできた。


「ッ!?」


 私はびっくりして引き剥がそうとした。でも力の差があって引き剥がせない。


「ねえいいじゃ~~ん」


「俺たちと遊ぼうぜ~~」


「気持ちいいよ~~」


「ふざけないで離して!!」


 嫌だと訴えても引き剥がす気はない男たち。視界に入った通行人たちもチャラ男たちに気押されてしどろもどろ。


 つまりは私を助けには来ないということ。


(嫌ッ! 嫌ッ!!)


 相手は数人で力も上。必死に抗っても自分じゃどうにもできない。そして周りからの助けも期待できないとわかると、私は身に降りかかった恐怖に支配された。


「いい加減にしてよ!!」


 私の必死の声は、虚しく響いた。


 そんな時だった。


「――あの、彼女嫌がってるんで放してもらっていいですか」


 妙に心に響く声が聞こえた。

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ウザ絡まれ体質の俺だけど気づけば美女たちにも絡まれるのはモテ期なのか 亮亮 @Manju0501

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