#28 異世界人の秘密Part02
最後の最後までイグドラシルプロジェクトの目論見通りとなってしまったのは癪だけど、危険を顧みずに飛び出してくれたハルトが無事でよかった。あのままドラゴンの攻撃によって致命傷を負ったり、最悪死んだりしなくてホッとした。
色々と心配事はあるけれど、とりあえずドラゴン討伐に成功したのは確かだし、ここは一件落着とするしかない。そして、冒険者組合に討伐の報告をするとあたしとハルトの名前はまたたく間に王都中を駆け巡ることとなる。歴史に名を残す偉業だとまことしやかに囁かれた。ドラゴンを討伐して一月の後に、あたし達は王城へと呼ばれることとなる。玉座の間にて、褒美を取らせるという王の言葉をいただき、その夜はパーティーが行われた。
「麗しきメルマリーテ殿、一曲踊っていただけませんか?」
「あ、あの、申し訳ありません。あたしはそういうの……苦手で」
貴族の青年に誘われたけれど、あまりにも怖くて逃げ出してしまった。生まれてはじめてドレスなんて着せられて、動きにくいし自分がまさか社交場に赴くことになるとは夢にも思わなかった。つまり、こういう場は苦手だ。その後も貴族や、さらには王族の遠戚に当たる方までもあたしに興味津々の様子だった。
苦手すぎて、あたしは逃げるようにホールを後にした。
バルコニーで風を浴びていると、レースのカーテン越しに部屋の中で貴族に取り囲まれているハルトの姿が見て取れた。ようやくここまで辿り着いた。あとは、なんとかお父さんとハルトのお母さんを救い出すだけ。ドラゴン討伐のお陰で爵位を貰えることになったのは願ってもないことだ。
「ハルト殿、ドラゴンを倒した方の魔力がどれほどのものか、見せていただけないだろうか」
「いえ。それは」
「いいじゃありませんか。貴族に匹敵する魔力をお持ちなのでしょう?」
「そんなことは……」
まずい、と思ったときには遅く、なんとか子爵と呼ばれた人が召使に魔力測定オーブを運ばせていた。魔力測定オーブはちょうど両手に収まるほどの大きさで、水晶玉のような形状をしている。水晶玉と違うのはガラス玉の中にとめどなく煙が渦巻いていること。これは誰もが子どもの頃に触れたことのある馴染み深い代物だ。
ハルトにとっては、苦手な魔道具に他ならない。自分の身分を決定づけた悪魔の装置とも言える。
「ダメッ!!」
あたしが部屋の中に戻ったときにはすでに遅く、騎士たちは笑いながらハルトの手首を掴んで、半ば強引に魔力測定オーブに手のひらを乗せた。当然ながらハルトは魔力を持たないために、オーブが光ることはない。普通ならここで魔力測定オーブの中の白い煙が自分の属性の色に変化する。あたしなら火の属性だから赤。風なら緑。水なら青。氷なら水色。土なら黄色。他にも属性は存在するが、ほとんどの者は五属性の色に光る。そして、魔力の強さによって光の量が変わってくる。
けれど、ハルトはなにも起きない。魔力測定オーブはうんともすんとも言わない。なんとか誤魔化さなければ、ハルトの身が危ない。どうする?
どうやってこの場を切り抜ける?
「魔力がない? まさか」
「下民だ……」
「穢らわしい。この男は下民で王城に足を踏み入れた、罪人だ」
待って。ドレスの裾を持ち上げてハルトに駆け寄る。ハルトは悪くない。悪くないから。お願い。
「この女もまさか」
「あたしは聖女になるはずだった者。名前はメルマリーテ。その人を離してくださいッ!」
「……測定してみろ」
偉そうな子爵があたしに命じた。オーブに触れると赤い光が部屋の中を包む。瞼を開いていられないほどの光に誰もが驚愕の声を上げた。
「これほどとは……失礼しました。ですが、法を破るわけにはいきません」
子爵は手のひらを返して、あたしにヘコヘコする。気に食わない。だけど、ハルトを救うためにはそんなこと言っていられない。
「あたしが懇願してもですか?」
「下民は下民。来世ではきっと罪は洗い流されて報われる。それがスクリフタージの教えですよ。連れて行け」
子爵が騎士にそう命令すると、ハルトは抵抗することなく捕縛された。
「待って。話させて」
「……言うとおりにしてやれ」
「はっ」
両脇を騎士に抱えられたハルトの傍に行き、あたしが魔法を放とうとすると、
「メルマリーテ、待て。ここで暴れたらメルマリーテも同罪になるだろ。それよりも、父親を探して救い出せ。メルマリーテならできる」
「でも、ハルトが」
「僕と母さんは下民だ。いつかこうなるんじゃないかって薄々思っていた。これはもうどうにもならない。せめてメルマリーテの父親を救い出して、幸せに暮らして欲しい。もし教会の教えどおり、来世で会えたら」
「……馬鹿なこと言わないでよ」
「そのときはまた僕と恋人になって、今度こそ結婚して欲しい」
「なんで……なんでそんなこと言うの……今度なんてないよ。今すぐ結婚して」
「ワガママ言うな」
「ワガママなんかじゃない。ハルトはいつもそうだ。自分のほうが辛いのにあたしのことばっかりで」
「仕方ないだろ」
「お願い。あたしがここで魔法を放てば逃げられるでしょ」
「ダメだ。罪のない人たちまで傷つけたら、それこそメルマリーテらしくない。僕は、メルマリーテにはメルマリーテらしく生きてほしい。だから、来世まで待ってほしい。きっと会えるだろ」
「なんで……ばか」
来世なんてあるかどうか分からないじゃない。そんな教えは嘘だ。体よく魔力のない人達を弾圧するための手段似すぎない。ふざけるな。ふざけるな。絶対に許さないからな。スクリフタージをあたしは許さない。
そんなあたしの思いとは裏腹にハルトは微笑んでいた。なんでこの期に及んでそんな顔ができるのか、あたしには理解できなかった。
あたしの訴えも虚しく、ハルトは地下牢に投獄されてしまった。
あたしは翌日になってから、王に謁見を求めて恩赦を願った。爵位などいらないから、なんとかハルトと父、それからハルトのお母さんを釈放してほしいと懇願した。王は、『考えておく』とだけ言って冷たい表情のまま玉座を後にする。あまりにも冷酷で無慈悲な反応だったことを覚えている。
そして、その翌日、ハルトが朝方処刑されたことを知った。
異世界マッチングガチャで、奇跡的にSSRを二人も引いたのに中身はポンコツで、二人のうちどちらかと結婚をする羽目になって困っている件について。【ラブコメは世界滅亡とともに】 月平遥灯 @Tsukihira_Haruhi
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