#24 異世界人のおそろい



その後熱帯魚を見たり、チンアナゴの動きを観察したり、普段は見ることのできないリアのリアクションを見ることができたりして、来てよかったなと思った。魚を見ているだけなのにあっという間に時間が過ぎていつの間にか午後二時を過ぎていた。これ以上いても時間を持て余すと判断し、水族館を出ることに。



「まだ時間はあるな」

「このままいかがわしいホテルに連れ込もうとしてるんじゃないでしょうね。別にいいわ。今日は付き合ってくれたわけだし、わたしの身体を貪りたいなら……し、仕方ないから少しくらいなら……考えてあげても……いいわ」

「まだ明るいしな。そういうのは夜に取っておくとするか」

「は? 本気で言ってるんじゃないでしょうね?」

「言い出したのはリアだろ。今日はどの首輪を付けて可愛がってやろうか」



とまあ、これはエロゲのセリフなのだが、俺はそんなにドSではないし、経験もないからそういうことは多分無理。冗談のつもりだったのだが、リアは、



「く、首輪って……なにする気よ」

「その生意気な口を聞けないように躾けてやるんだよ。良い声で鳴けよ」

「ば、ばっかじゃないの。この変態っ!!」

「言い出したのはリアだろ」



そんな馬鹿な会話をしているうちにゲートに着いてしまった。当然のように商魂たくましく土産屋を抜けなければ外には出られない仕組みとなっている。サメやイワシ、タコ、イルカのぬいぐるみが並べられていて、その他にアクアセンターに行ってきましたと書かれた箱に入ったクッキーやいか煎餅等も売られている。



「ここはなんのお店なの?」

「土産屋だな。ここでこういう商品を買って、観光のお裾分けをするんだ。そうだな。たとえばリリンとメーチャさんに買っていくと喜ばれるんじゃないかな」

「つまり、行ってきた自慢ってわけね」



行ってきた自慢はかなり嫌味っぽいが、間違ってはいない。土産話はその代表のようなものでもあるし。だが、お裾分けという観点もあるから一概にそうも言えないような。



「まあそんな感じだな」

「ならリリンにはとびっきりのを買っていきましょう」

「あとは、自分自身に買ってもいいんだ。今日、ここに来た記念に買ってもいいし、食べたいものを買ってもいい。お土産を見るまでが観光だからな」

「……つまり、わたし達の初デート記念に買うべきだと春斗は進言してくれているってことでいいのかしら」

「まあ……そうだな」



そんなつもりじゃなかったが、確かに記念といえば記念だ。リアはリリンのお土産を早々に決めて(“お留守番ご苦労サンマのクッキー”と書かれたいかにもリアが買いそうなヤツ)、カゴに入れ、今度は自分用のモノを物色している。



「ちょっと、春斗」

「なに?」

「あなたも真面目に探しなさいよ」

「? なにを?」

「は? 自分で言ったのでしょう? 記念に二人で何かを買うって」

「……ここに来た記念ってやつか」

「そうよ。わたし一人じゃなにを買っていいか分からないもの」

「無理して買う必要なんてないんじゃないか?」

「ダメよ。リリンにも見せつけなきゃいけないんだから。それに……思い出だけじゃつまらないでしょう?」

「そういうものなのか?」

「そういうものでしょう?」



食べ物は食べたらなくなってしまうから嫌らしく、かといってぬいぐるみは持ち歩けないから却下だそうだ。そうなると限られてくる。



「キーホルダーはどうだ?」

「それは何に使うのかしら?」

「鍵に付けたり、バッグに付けたり」

「確かに持ち歩けるわね。ならそれにしましょう」

「どれがいいんだ?」

「そうね……」



サメ、カメ、イルカ、イカ、タコ、アシカ、よく分からない鳥。それらの可愛らしいイラストがメタルプレートになっているキーホルダーだった。この中から選べと言われても、正直どれでもいいと思ってしまう。



「やっぱり水族館に来たのだから、魚介類がいいでしょうね」

「まあ。なんか言い方が食べ物みたいだが」

「そうね、食べ物を連想しないほうがいいならサメ、カメ、イルカ、アシカあたりなのかしら。春斗はどれがいいと思う?」

「そうだな。俺は……」



一番可愛らしいイルカを選んだ。するとリアも同じようにイルカを手にしてお揃いを買うことに。



「いいのか?」

「サメが一番可愛いと思ったのだけれど」

「ならサメにしたほうがいいだろ」

「イルカでいいわ。春斗が一番欲しいと思ったものを持ち歩きたいもの」

「まあ、よく分からないが、買ってくるよ」

「これくらい自分で買うわ」

「だから言ったろ。かっこつけさせろって」



たかが数百円だから胸を張れないが、それでも今日はリアをエスコートすると決めているからな。レジで支払いを済ませて、ビニールに入ったキーホルダーをリアに手渡した。



「ありがと……い、一生……」

「一生?」

「大事にする……」

「そんな大げさな。こういうのは付けているうちにリングが劣化して切れて、落とすもんだ」

「そんなことしないもん。絶対に。もう本当にばかっ」



なぜか怒られた。



車に乗るや否や、リアはウトウトしはじめて、下道を走りはじめて一〇分で寝てしまった。

結局、リアは起きずに仕方なく帰ることにした。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る