#11 高校の同級生に追求される
村野有珠は高校からの付き合いで、俺をよさこいの道に引き入れた張本人。なにかと世話を焼いてくれていて感謝している。イベントにいけば一緒に昼を食べるような仲ではあるし、一緒に別のチームの応援もする。考えてみれば、俺の数少ない友達の一人だ。
有珠は社会人となった今でもギャルで、やっぱり友達も多い。
「私は村野有珠」
「リア・スウィーティーよ」
「ずいぶんときれいな人ね。春斗ってエロいから、こういう子好きになっちゃうの仕方ないのかな」
「どういう意味?」
「ああ、ごめんごめん。きれいな子って意味。他意はないの」
やっぱり有珠はどことなく不機嫌だ。なんとなく言葉に棘がある気がする。
「あなたも輝いていたわよ。特に踊っている時の笑顔は目を引いたわ」
「ありがと。春斗以外も見てたみたいね。ところで春斗、この後時間ある?」
「そんなにないかもな。リアもいるし」
「そんなに時間取らせないって」
「分かった。なんの話?」
「リアちゃん春斗借りるね~~~」
「仕方ないわね。わたしはそこで座ってるわ」
「ああ、悪いな」
リアは体育館の隅に腰を下ろした。踊り子の女子たちが興味本位で話しかけているから、暇にはならないだろう。
有珠に付いていくと、体育館の正面ではなく側面に付いているドア(非常口でシャトルドアとかいう構造らしい)から出てすぐのところで有珠は立ち止まった。外は風があって、体育館内よりも涼しい。有珠は階段に腰掛けて、俺にも座るように促した。
「ねえ、異世界マッチングをしたのって彼女が欲しいから?」
「まあ……」
正確には阿賀塚と林田を見返したいから、などというどうでもいい虚栄心からだ。それも今考えると身勝手な妄想だった。だって、エルムヴィーゼ人とマッチしただけで、自分に振り向いてくれるなんてよくあり得ない。立場の弱いエルムヴィーゼ人に日本国籍という餌で釣って、無理やり従わせるような行為は下衆じゃないか。俺はそんな最低な人間に成り下がりたくない。だから、有珠が俺を責めるのも理解できる。
ここは素直に彼女が欲しかったと言うべきか。そうじゃなければ、リアに聞かれるとまずいし、有珠は絶対に激昂する。
「そうなるな」
「ふーん。あのさ、春斗はなんで彼女がほしいの?」
「それは……」
そんなこと言われても分からない。恋愛や結婚は両親のことを考えても煩わしいとしか思っていなかった。有珠はそんな俺のことを理解している。つまり、言いたいことはそこだろう。有珠は異世界マッチングをしたことを咎めるわけではなさそうだ。
「恋愛なんて興味ないって言ってたじゃん」
「……そうだな」
「なら、なんで? 欲しいなら、なんで私に相談してくれないの?」
「相談って……有珠に彼女がほしいなんて言えるか。異性だし」
「私には相談できないの?」
「それは……」
他の異性ならともかく、有珠ならできたと思う。本当に悩んでいたらの話だ。繰り返しになるが、俺は彼女が欲しくて異世界マッチングに一万円をぶっこんだわけではない。だから悩みなんてなかったのだから、つまり相談しようがないのだ。
「寂しいな。ごめん。それだけ。春斗はリアちゃんと結婚を考えているってことだよね?」
「それは……」
やはり実感がない。
リアに対して失礼な話だ。一年間様子を見ようと思ってはいるが、一年後に気持ちが固まるかどうかはそのときにならないと分からない。
リアにもリリンにも悪いよな。
やっぱり真剣に考えないとダメだ。
「どうなるのか自分でも分からない」
「私さ、高校のときからずっと春斗のこと知ってるから」
「ああ、そうだな」
「一言言ってくればいいのに。ばか」
有珠はそう言って踵を返し、振り袖を揺らしながら体育館に戻っていった。
いったいなんだったんだろう。俺のことを心配してくれているのか、それとも嘆いているのか。嘆いているとすればなぜ?
さっぱり理解できない。
体育館に戻るとリアは踊り子女子たちから質問攻めにあっていた。
「ちょ、ちょっと遅いわよ」
「ごめん」
「春ちゃん、リアちゃんってツンツンしてるけど可愛いね」
「春斗にはもったいないくらい」
「春ちゃんは有珠とくっつくと思ってたのよ。それがまさか異世界人とはね~~」
リアは俺の背中に隠れて、「これなんなのよ」とつぶやいた。みんなリアと話したいんだよな。このチームってみんなそんな感じの人ばかり。ともに同じ目標に向かって汗を流す仲間……いや家族だから、誰かの幸せはみんなで分かち合う。それが東十二師兎だ。
それからリアは入会手続きを取った。リアは正式に加入となり、次回の練習から参加を認められた。
それから二時間程度練習をして午後九時ちょうど。練習が終わり、今日はここまでとなった。リアとともに体育館を出ると、仏頂面のリリンが門扉付近から飛び出してきた。なんの気配もなく、まるで不審者のような行動。普通に怖いって。
「きゃああ、びっくりした」
「リリン、お前……なんでここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフじゃないかっ! 起きたら誰もいないし。真っ暗だし。お腹すいたし。ハルトいないし。ハルト消えたし。ハルトと会いたいし。ハルトを視界にいれたいし。ハルトと、」
「あああああ分かった」
それで、なぜ俺の居場所がわかったのか少し気になる。行き先は告げてこなかったはずなのに。
「あたしが一緒に来たかったのに」
「だって寝てたろ。それで、なんでここが分かった?」
「ふふんっ! 呪術の一種でね。ルーンを描いた紙の上に拾ったハルトの髪の毛にあたしの血液を垂らして魔力を込めるとおおよその位置が分かるのだよ」
リリンはよくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張った。
「……まるで魔女ね。本当に気持ち悪いわ。そこまでするなんて頭は大丈夫なのかしら?」
リアが口にした“魔女”という言葉に、リリンは目の端をピクつかせたが無視を決めたようだ。リリンはリアなどこの場にいないように振る舞い、俺を抱きしめた。
「リリン、待て」
「ちょ、こんな外ではしたないじゃないのっ! 離れなさいッ!!」
「ねえ、あたしのこと好き?」
「え?」
「ハルトはあたしのことどう思ってるの?」
「だから、リリン、ちょっと」
「ねえ、リアのほうが好きなの? ねえ答えて」
「待て、ち、近い」
「ハルトが……望むなら、あたしいいよ?」
「え? なにが?」
とにかく圧がすごい。俺とリリンを見ながら踊り子のみんなが帰っていく。すげえ恥ずかしいし、多分、三角関係でトラブっているようにしか見えないだろうから誰も声をかけてくれない。さっきまでリアを質問攻めにしていたときとの落差が半端ない。
「ちょっと、春斗が困ってるでしょ。離れなさいって」
「イヤ。絶対に離れない。だって、ハルトを独り占めしていたのはリアじゃないかっ!」
「分かった。リリン、置いてきて悪かった。次は一緒に来ような」
「リアは置いて?」
「リアも一緒に、だ。リアは正式にチームに入ったから、一緒に練習するんだ」
「なら、あたしも入る」
「いや、分かって言ってるのか?」
「分かんないけど、ハルトとリアが入るなら、あたしもやる。やるったらやる。やるのっ!」
「子どもなのかしら」
リリンは病み始めるとなかなか収まらない性格のようで、それから体育館に戻って二人目の入会届を提出する羽目になった。体育館を出る頃には二十二時近くになっていた。
それで結局夕飯は外食にすることとなった。腹が減っては戦ができないとか、戦が起きていない現代日本では、眠ってしまえば空腹も忘れるという俺の意見を二人で全否定し、リアとリリンが子どものように駄々をこねたから仕方なくファミレスに入店することに。
「は? 青原くん!?」
「青原……お前」
「え?」
店員に席を案内されて付いていくと、俺が異世界マッチングアプリを使うことになった原因の一端である、阿賀塚と林田が向かい合って座り遅い夕飯を食べていた。
またこのパターンか。今日は二人……。
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