第5話
狩人たちが取ってきた苔を仕分けして、二日後に薬が完成した。累計二十人ほど死んだ後だった。
重症患者を中心に投薬するとたった半日で効果は表れ、会話が可能なまでに回復した。
材料がそんな珍しいものではないのか、狩人達はたくさん材料を取ってきてくれたが道具が一つのため薬の生産が追いつかなかった。
だが村の鍛冶屋があり合わせの部品で同じ物を作ってくれた為、四日後には薬の量は十分となった。
そして、村の診療所で安定して対処できるようになった辺りで妻と娘が倒れた。
「なんで黙っていたんだ!」
私は思わず声を荒げてしまった。
「ごめんなさい、負担になるかと思って。でもヘリンまでなってしまうなんて。」
「ゴホ、おとうさんごめんなさい。」
殊勝に謝る二人を見て私は声を荒げた事を悔いた。一人頑張っていたつもりだったが、家族も支えてくれていたのだ。家で倒れている二人を見て冷や汗をかいたが今は薬がある。
二人にすまないと謝り、明日診療所に行こうと話した。その日の夜は慣れぬ家事をした後に夜遅くに寝た。
次の日に朝一番で診療所へ向かった。家内も患ってしまったため見てくれないかと申し出ると、最優先で見てくれるという話になった。
まだ他にも患者がいる現状でその申し出に声が詰まったが、二人を見直すと頼むとしか言えなかった。他の人の目線が怖く恐る恐る見回すと、不満な顔をする人は誰もいなかった。
その日は診療所側が病人の対応を我々だけでやると言われた為、病床で寝込む二人の横に付く事にした。
弱る家族二人を見て父の責任を感じ、縮む様に座り込んでいると後ろからどたどたと足音が聞こえた。リトル達狩人が材料をもって診療所に来たようだ。
「なにやってんだ、家族ほっといてひでぇ旦那だな。」
「…うるさい。」
リトルが部屋に入って開口一番そう言った。私はこの状況では何も反論ができなかったのでぶっきらぼうに言い捨てた。リトルも失言に気づいたのか、慌てて話を変える。
「んにしても難儀だな、俺を見てみろよ今回ぜんぜん風邪にかかんないぜ。マビダ、お前だってまだ体鍛えてるから今回平気だったんじゃねぇのか?やっぱ体は強くしないとな!」
ここで慌てるという事はあの話題の振り方もリトルなりの元気づけだったのだろう。その気持ちはうれしいが、時と状況は考えてほしい。
するとリトルの後ろからひと際大きい男がリトルの肩を叩いた。この村の狩人のまとめ役のカイロだ。
「おめえが風邪ひかねえのは馬鹿だからだろうが。」
低く、だがしっかりした声で男はそう言った。
「んな!」
「違いないな。」
先ほどのやり取りからと何となしの合点から私は笑いながら言った。リトルは何か言いたそうだったが、先のやり取りからばつが悪そうに口をつぐんだ。
「これ、あまり騒ぐな。病人が居るんだ材料はいるが雑音はいらんぞ。」
村医者がそう言って部屋に入ってきた。
「薬は神父様と狩人達のおかげで数が出来たが、まだ治っちゃいん者が沢山おるのだ。気を緩めるのは早い。それに対応が遅い場合は薬があっても治らぬ場合もある。」
そう続ける医者に、私は小さな緊張に唾をのむ。
「まあ神父様のご家族は初期症状じゃろう。恐らく問題ないな。」
そう言って笑う医者に続き、狩人達も笑った。つられて妻と娘も笑っていた。私はため息をつくばかりだったが、眉間の力は緩んだ。
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