第2話
「また間引きを行えというのですか!」
光る画面が浮かぶ、白く大きな部屋で少年は叫んだ。
「しかし神よ。世界の目による計算ではこの推移で人口増加が続けば居住地の拡張が必要となり規模の拡大を行う過程で森林と人口の均衡が崩れます。この場合、近くの町との領地争いに発展し、死者数はこの村の人口以上の数と計算されています。」
白い羽の女性はそう続けた。世界の眼とはこの大陸の各地点に備えられた端末から、この場所へ情報を集めその事象と今後を予測し、世界の均衡を保つシステム名だ。
「…天啓で機械を教える事はだめなのですか。」
少年はそうつぶやいた。集落の規模を大きくする事で争いが起きるなら、面積辺りの効率を上げれば防げるはずだ。
およそ昔でいう中世レベルの文明であるこの世界ではまだまだ機械によって効率を上げる伸びしろが残っているのだ。だが彼はその問に対しての返答を知っていた。
「反対します。文明の程度を上げるのは滅びにつながります。」
世界の目の存在目的の一つは文明の発達を阻害する事だ。これは過去に文明が栄えたが故に優れた武器が生まれ、それにより世界が滅びかけた経緯から意図的に文明レベルを下げる事で大戦をなくして世界を存続させ続ける事が目的だ。
「決断をお願いします。神よ。世界の眼の提案も私たちの提案も、すべてを決めるのはあなたです。お願いします。」
少年は泣きそうな顔をして唸る。この少年は世界の眼の仕組みの中枢であった。合理性を追求した機械である世界の眼の情報を元に、人を愛する純粋無垢な心を持つこの少年が選び決めるという、人のエゴに塗れたシステムの中枢であった。
それ故に彼は人を愛するように作られ、愛し続けるように組み込まれている。
彼は過去にあった天啓の申請でこの村がどのような村であるかを憶えている。善人が多く、敬虔な神父がいる村だ。悪人ですら死んでほしくないと思う自分にとって、殺すなどと考えたくもない人々だ。
だが、同時に自分の善意に従って世界の眼に反対した結果がどうなったかも鮮明に覚えていた。
「…わかりました。間引きの実行を許可します。」
声は大きくなかったが、少年ははっきりとそう言った。
「かしこまりました。間引きを実行します。方法の指定をしますか?」
女性は無機質にそう返した。少年の頭脳は極めて高い知能を持つよう設計されているが、愛するものを殺す発想を積極的に出す事は出来なかった。
「方法は世界の眼で算出された最効率の案を採用してください。」
少年は直ぐにそう返した。
「かしこまりました。では間引きの内容を説明します。まず二日間水源に一時的に抵抗力を下げる薬品を散布、次に二種類の病原体を世界の眼から放ちます。これらは両方とも強い感冒を起こしますが、片方は更に死滅の際に毒素を発生させる株となります。これらすべては遺伝子操作にて最初の散布から三十日後に死滅し、この村の神父、医者、そして狩人の一部には感染しないよう設計しております。また、天啓用の薬はこの森で取れる材料にて作成可能です。以上の手順が神への求心力と削減数との効率が最も良いとされたものになります。」
「わかりました。そちらでお願いします。では次の議題をお願いします。」
少年は逃げるようにそう告げた。
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