神殺し 善良な神とそれに家族を殺された男の復讐
中立武〇
第1話
白き羽の生えた、黒髪の女性が白磁のごとき通路を歩く。着ている服は羽と共に白くなめらかで通路に溶け込んでいた。
彼女は横幅が人二人ほどの扉で立ち止まり、横にあるインターホンを押した。
「神様、本日の業務の時間になりました。」
数秒の後に彼女の前のドアが開き、中から一人の少年が出てくる。
「おはよう。それでは始めようか。」
少年はそう言うと、彼女と共に部屋を出た。
小さな村の神父の家では女性が家事にいそしんでいた。木綿を主に作らた粗い生地の服に対して、彼女の手は絹のようであった。
その手が木でできた質素な扉を開ける。窓の外には苔がむした世界の眼と呼ばれている石柱が見えた。
「ほら、おきてマビダ。あと一時間で教会でしょう。神父が遅れてしまっては格好がつかないわ。ヘリンはもう出かけたわよ。」
「…ん、もうそんな時間か。すまないな。」
寝ぼける頭から体を起こすと一挙手一投足に疲れを感じる。昨日は久々に剣の練習をしたのが堪えたようだ。
「朝食は用意してあるから早く支度しないと。私は先に洗濯をしているから。」
妻のチルレは言葉を続ける。
「ああ、ありがとう。」
今日は教会で子供達に文字を教える日だった。とはいっても途中で子供達は飽きてしまうので本のお話を聞かせて終わるのがいつもの流れだが。
「朝はやはりどうにもならないな。ヘリンは似なくてよかったなぁ。」
そう一人つぶやいて私は着替え始めた。苔生した石柱を見て初夏の季節になったのだとしみじみ思う。
父の仕事を受け継いで神父になってから六年ほどか。過去に野盗騒ぎで両親を失った時は随分と気が滅入ってしまったが、神父の仕事をしていく中で立ち直る事が出来た。
「それじゃあ、行ってくるよ。」
「あなた、気をつけてね。」
妻に送りだされ、私は教会へと向かう。雲こそあるが、空は晴れて暖かかった。
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