第3話 発現、ソウルスキル

 ここは、どこだ? 俺は身体を起こして、辺りを見回した。昨夜の記憶が蘇る。ああ、そうだ。あれから、すぐに眠ったのか。


「準備しないと」


 昨日の残りで朝食を取り、身支度を整える。備え付けの洗濯機に衣服を入れて、全自動ボタンを押した。手早く準備を済ませ、部屋の外に出る。フェリアは地下の訓練場で待っていると言っていたはず。




「おはよう、ヤマト! よく眠れた?」

「おかげさまで、朝まで快眠だったよ。それと着替え、ありがとう」


 お世辞抜きで快適だったな。


「どういたしまして。ところで、ステータスカードは見たかな? ソウルスキルが表示されていない?」

「あ! 服にカードを入れっぱなしだ! 今頃、洗濯機の中で回っている」

 

 起きたばかりで、注意力が完全に不足していたようだ。こんな失敗をするとは。ステータスカードは大丈夫だろうか。


「昨日の今日で、色々あったからね。混乱しているだろうし、ちゃんと頭が回っていなかったのよ。洗濯機は回っているけど!」


 ……どうしよう。面白いですね、と言えばいいのか? 俺はフェリアの得意気な顔から目を逸らす。よし、今のは聞かなかった。俺は何も聞いていない。


「ごめん、すぐ取ってくる。無事かな」

「大丈夫よ。あれは耐熱耐水耐衝撃耐魔法完備だからね」


 良かった、無事らしい。そして話を逸らせたのも、良かった。切実に。


「それとカードは既にヤマトの魂と結び付いているわ。出し入れは自由。手の上にカードが現れるイメージかな」


 俺は意識を集中し、ステータスカードが現れるように念じる。


「本当に出た! 凄いな魔法文明」

「ソウルスキルは表示されている?」


 そうだった、確認しないと。――あった!


「飛空船創造?」

「初めて聞くスキルだわ。名前からして創造系ね。さっそく使ってみよう!」

「どうやって?」


 使い方なんて知らないぞ。いきなり使えは無理だろ。


「大丈夫。魂に刻まれた技能だからね。ヤマトはスキルを使える。絶対に使える。確信を持って唱えて、『飛空船創造』と」


 フェリアの言葉には、一切の揺らぎが無かった。使えるような気がする。根拠の無い自信。だけど、それは確信だった。


「飛空船、創造!」


 瞬間、眩い光が溢れた。やがて光が収まる。俺の目前には、さっきまで無かったはずの物が存在した。それは――丸太が数本、並べて繋がっている物。


「イカダ?」


 見紛うことなくイカダだ。これが、飛ぶのか?


「凄い、凄いわ!」


 フェリアは予想外に感心した声を上げている。本気で言っているようだ。詳しく調べてみよう。俺はイカダの近くに寄ろうと、歩き出そうとした。


「うわ!」


 一瞬、足に力が入らなかった。俺は思わず、地に膝を付く。身体全体に疲労感があった。


「大丈夫!? もしかして全身が疲労してる?」

「ああ、うん。ひどく疲れた感じはする」

「やっぱり。ヤマトの使ったスキルは非常に高度で、魔力の消費も激しいはず」


 ということは、あのイカダは相当に凄いんだな。


「無から有を作り出すとまでは言わないけど、それに限りなく近いことをしたの。多分だけど、別次元から力を引き出したんだと思う」

「そんなに凄いなら、空を飛ぶ以外にも能力があると良いな」


 俺は希望を込めつつ呟いた。


「それならステータスカードを見て。スキルの詳細が分かるはずよ」


 言われた通り、カードを見る。そこには新しい記載があった。


「本当だ。さっき見たときには無かったのに」

「それは詳しく知ろうとしていなかったから。あくまでステータスカードは補助。成長の手助けが目的なの」


 なるほど。ただ持っているだけでは駄目で、意識する必要があるのか。


「それで、それで! 何が書いてあるの? 読んでみて!」

「『総合十級・機動九級・攻撃十級・防御十級・生活九級・収納十級・娯楽十級』と書かれている。スキル飛空船創造の下だ」

「とりあえず総合十級の箇所を意識して。説明が欲しいと考えながらね」


 カードに目を向けた。総合の箇所を注視すると、カードの表示が切り替わる。


「こんな風になるのか。これ大画面で見れないかな」

「大きさ、変更できるよ」


 え? 話している間に、カードの内容が大画面で表示される。


「便利だな。書かれた内容は――」

「あたしにも見せて~。『やっほ~。説明担当妖精です。必要そうな場所に解説を用意しておいたから、どんどん活用してね。異世界生活がんばって。あ、この文は読んだら消えるから気にしないで』」


 記載通り、読んだ文が消えていく。どんな仕組み何だろうか。


「フェリア、これ書いたのは君?」

「違うわよ。担当したのは、お姉ちゃんね。すごく優秀だから、気になった箇所は説明文を参考にするといいわ。あたしと違って、言動の軽さが欠点だけどね!」 

 

 …………説明は、ありがたい。使わせてもらおう。


「それより説明が表示されているよ」

「本当だ。読んでみる」


【総合は飛空船創造スキル全体の評価よ。各項目を参照して算出されるの。階級は十級から始まって、最後が一級ね。その次は初段に上がって、最高段位は十段】


 次は機動の箇所を意識する。


【機動は飛空船の移動能力。飛行速度や回避性能に影響するよ。それとヤマト君がスッゴク知りたいことも教えちゃう! 世界間の移動は、機動八段が目安です!】


「目安は八段ね! 諦めましょう!」

「やる前から諦めるのは良くない!」


 いきなり、やる気を削ぐ発言は止めてほしい! 


「ヤマト、よ~く聞いて。おおよその階級基準は、三級が一人前で一級は上級者。段位持ちは超優秀な専門家よ。それでも初段から四段なら、そこそこの数はいる。だけど五段以上からは、極端に該当者が減るの」

「参考までに、八段以上を持っている人の数は?」

「全世界で、百人に満たない。国に一人いれば、いい方ね」


 フェリアが諦めるように言った訳が分かった。あ、でも待てよ。


「さっき飛空船創造スキルは初めて聞いた、と言っていたよね。実は階級が上がりやすいとか……ないかな!?」

「確かに技能やスキルによって、上昇速度には差があるわ。ステータスカードで、効率の良い育成方法を調べてみたら?」


 おお、それは便利そうだ。


「そんなことも、できるのか」

「できるけど、効率の良さが本人の為になるかは分からない。回り道することで、見えることもあるでしょうし。だけどヤマトの場合だと、さすがにゼロから育成は無理だと思う」

 

 その通りだな。カードの飛空船創造スキルに意識を集中する。世界間移動までの育成方法とか、成長条件などを知りたい。


【総合を上げましょう。そのためには、各項目をバランス良く上げることが重要。機動特化だと難しいわ。あとは魔物の素材を利用すると、総合能力が上がりやすくなるよ。お勧めの素材は地竜の爪、水竜の鱗、火竜の牙、風竜の翼、光明竜の角、暗黒竜の瞳あたりね!】


「物騒な名前が並んでいる! 火竜の牙とか暗黒竜の瞳とか、何でしょうか!?」


 フェリアのお姉さん! 教えてください!


「カードの説明は予め入力した文が表示されているだけだから、質問しても回答はこないよ。スキルの成長に必要な基礎知識は、すでに入っているはず。確認して。ただし魔物素材知識は、カード表示の管轄外だからね」


 フェリアの言葉を聞き、少し落ち着こうと思った。


「ちなみにカードの更新は、魂の休息時だよ。つまり睡眠中や気絶しているとき。このときだけ、被召喚者補助委員会本部に繋がっているの」

「つまりスキルを鍛えた後に眠ると、成長したか分かるのか」

「そういうことね。さて、そろそろ項目別の訓練を始めましょうか!」


 訓練か。普通なら走り込みとか、素振りとかするよな。


「スキルの訓練は、何をすればいい?。

「まずは機動能力の強化ね! ヤマト、船が浮かぶように考えて」

「了解!」


 よし! イカダよ、浮かべ! 


「浮かんだ!」


 ほんの少しだけ、イカダが宙に上がる。同時に軽い眩暈めまいを起こした。全身から、力が抜けていく感じ。最初に船を創ったときと同じだ。


「ちょっと止めて!」


 フェリアの声を聞き、浮かび上がらせるのを止める。


「そのまま、ゆっくりと下ろして」

「下りろ」


 イカダを少しずつ下ろしていく。無事に着陸させた後、息を一つ吐いた。


「疲れた」

「お疲れ様。その疲労は魔力を使用した証よ。魔力を使って、自然に回復させる。そうすると魔力総量が上がっていくの。ただ回復する際、全身に軽い痛みを感じる場合があるわ。害は無いから、気にしないで」


 筋肉痛みたいだな。


「次は実際に乗ってみましょう」

「わかったよ」


 俺は少し緊張しながらイカダに乗った。意外に安定している。


「乗った状態で、浮かばせることは可能?」

「できる、と思う。多分」


 船を浮かせる。それだけに意識を集中した。


「成功だ! 気のせいか、さっきより楽に浮いたかな」

「今は船とヤマトが接触しているでしょ。触れていると、魔力伝導率が高いのよ。さっきは完全に遠隔操作だったから、余計に疲れたわけ」


 そういうことか。体重分を差し引いても、魔力効率が上回ったのか。


「次は訓練場の外周を飛んでみよう。でも、ゆっくりと。人が歩く速度と同じか、それより遅く。多分、今の段階で速度を出すと倒れると思う」

「わかった、気を付けるよ」


 ゆっくり、ゆっくり――思ったより、キツイ。油断すると、船が落ちるぞ。まだ半分以上もある。息が、苦しい。………やっと、一周、終わる。だけど中央にいるフェリアの居場所まで、あと少し距離があるぞ。なんとか、そこまでいく。着いた時には、疲労困憊だった。


「さすがに疲れているわね」


 イカダを下ろす。ほとんど落ちるような感じだったけど、地に着くギリギリまで浮力を維持していたと思う。


「最後まで気を抜かないのは良いことよ」


 俺は船の上に仰向けになった。立つことすら、辛い。




「そのまま、休憩しながら聞いてね。一日の訓練は午前中にソウルスキルの習熟、身体能力の強化。午後から基本知識の吸収、魔法実践という順番を考えているわ」

「午後から、勉強か。それ、午前中にならない?」


 絶対、眠くなるよな。


「あたしは補助役だからね。ヤマトが望めば、時間の変更は可能よ」


 おお、割と柔軟に対応してくれるのか。


「ただ、魔力を消耗した状況での動き方。あるいは疲労した状態で、正常な思考を維持できるか。それらも訓練内容に含まれているの。変更する?」


「……今のままで、お願い」

「わかったわ、でも無理はしないようにね。この世界に残って程々に生きるなら、かなり訓練水準は下がるから」


 やれるだけ、やってみるか。簡単に諦めるのも気が引けるし。俺は気合を入れ、身体を起こした。


「次は、どうする?」

「今は魔力が残っていないでしょ。次は体力錬成ね」


 フェリアの話を聞く。やることは想像した通りだ。訓練初日ということもあり、持久走や素振りが中心である。素振りの指導が分かりやすい。正直、意外に思う。


「そこまで! これから午前中最後の訓練を始めるわ。終わったら、お昼休憩よ。がんばってね!」


 しばらく身体を動かした後、フェリアが静止の声を上げた。そして次が終われば昼休みか!


「やることは簡単! あたしが魔法で攻撃、ヤマトが避ける!」

「ちょっと待った!」


 いきなり実戦式になったな!


「待たない! 光球、生成!」


 フェリアの周りに白い光の球が現れた。回避訓練って、つまり、そういことか!


「敵を撃ち貫け!」

「無茶だろ、おい!」


 光の球が、襲ってくる! 数は二十個ほど。俺は無我夢中で避けた。直線軌道で避けやすいのは幸いか。――何とか全てを回避する。


「おかわり、いくよー! 次は少し速くするからね」


 速い! 少し速いとかじゃなく、かなり速くなってる! それでも、いくつかは避けられた。


「あ!」


 しまった! 避けた先には、別の光球。俺は身体に衝撃を感じた。崩れた体勢を整えられず、残りの光球を受け続ける。


「衝撃はあるけど、怪我はしない特別魔法だよ」

「かなり痛いんだけど」

「痛みがあっても動けるように、これも訓練かな」


 そう言われると、反論できないのが辛い。


「それはともかく、お昼ごはんにしよう!」

「午後は座学だっけ。眠気との戦いになりそうだ。それはともかく、腹が減った。少しでも栄養補給したいな」


 本当に疲れた。だけど昼食は取らないと、体が持たないだろう。


「あれ? そういえば朝食は、どうしたっけ?」

「昨日の残りで食べたよ」


 フェリアの動きが止まった。表情が固い。


「ごめんなさい! 今日の朝食から三ヶ月間、被召喚者補助委員会で用意するはずだったの! 今日の昼食から三ヶ月間後の朝食まで、準備することにさせて!」


 えーと。要するに一食分ずれるということかな。特に問題はなさそう。


「わかったよ。ところで今日の昼食は、どうすればいい?」

「まだ食堂は稼働していないから、昨日の売店で用意するわ。その前にシャワーを浴びたら? 昼休憩は時間に余裕もあるし、午後から身体を動かす予定はないわ」


 そういえば朝から動き過ぎて、気持ち悪い。軽く汗を流すことにしよう。残りの昼休憩時間は、少しでも身体を休めたいな。

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