第7話 価値のある殺人幇助 2

 どんなに強靭な物体も損壊する。

 どんなに頑強な物体も損耗する。

 どんなに丈夫な物体も損傷する。

 

 形を保つ物体は。

 いつか、損失する。

 

 摩訶不思議な金属である伝説の聖剣だって風雨に曝され続ければ錆びるだろうし、摩訶不思議な石材だとしても苔生す。未来永劫の命を持つ機械でも歯車は摩耗するし、オイルは濁りスラッジが溜まる。樹齢千年を超える有り難い神木だって光量不足で光合成出来なければ萎れるし、養分を取り込む水に洗剤でも入れば枯れる。

 いつかは終わる。

 それが誰であっても。

 それが何であっても。

 ならば、不死と呼ばれる存在は。

 どうすれば、終わるんだろうか。


 『ミスター。“メギドの火”、発動を確認しました。デバイス越しにしか視れないのが残念ですけどねえ』

 

 全身の血液が黒く沸騰するような感覚。

 身体の内側から腕が生えるような錯覚。

 耐え難い殺意。

 抑え難い殺意。

 バラバラにして。

 ガタガタにして。

 グズグズにして。

 ボロボロにして。

 グチャグチャにして。

 無残に。

 凄惨に。

 ただ、殺してやりたいとの。

 空腹に似た衝動。

 

 『念を押す意味で言っておきます。社会は誰かが欠けたら誰かで穴埋めされます。アイドルが卒業すれば新人が入ります。兵士が死ねば徴兵されます。悪者が捕まれば新たな悪者が現れます。社会という多数の歯車が絡み合うシステムは何処かで歯車が欠落したら補塡されて補充されて再生するもんなんです。皆違って皆良いの言葉は美しく、そうでありたいなとは私も願うところではありますがね、命の単位は一つです。命が欠けたら別の命が入ります。それが社会。それがシステムです。ヒト、モノ、カネの三つは常に流動しますが大局的に俯瞰すれば安定してるんです。居なくなれば誰かが穴埋めをするから、です。代替品でなんとかなるんです。コピー品だろうとジェネリックだろうと、なんとかなるんです。故に個性や個人の価値観なんてもんには意味がありませんし意義がありませんし価値がありません。


ですが、

“死なずを殺せる”アナタに代わりは居ません。


 それが吸血鬼だろうと、ゾンビだろうと、ミイラでも、若い女の子の肝臓を食べる狐でも、超進化するガン細胞でも。ミスターは必ず殺します。良いですか?必ず殺すんです、アナタは。人類が生き延びる為に不要な要素を消す為のミームなんです。血液に代わりは居ます。筋組織にも骨組織にも内臓もリンパにも、代わりは居ます。どっこい、遺伝子に代わりは居ません。白血球を動かすような』


 スゲー勢いで喋る魔女だった。

 その内容も、だ。

 要約すると。

 要は。

 死ぬんじゃねーぜ?って応援でしかないが。

 可愛いVtuberから言われたら仕方あるめえ。

 本当に可愛いかどうかは捨置いても。


 『ミスターのメギドはなんでも殺します。ハルマゲドンの、いっちゃんヤベえ戦地の戦火。その召喚です。いやオメェそーゆーのは謎にしとけよって怒られちゃいますけど、ミスターのメギドだけなんですよ、魔女たちが導き出した最適解は。なんでも殺す力が、なんでも解決する魔女には必須なんです。

 

 だって犯人が怪物の場合。


 解決出来ないんですからね。警察が捕まえようとしたら殺されますし、んじゃ自国の治安維持ってだけに自衛隊使えば国際情勢に悪影響です。ヒト、モノ、カネもギュンギュンに動くでしょう。ギュンギュンに動くからこそ各部で摩擦熱が発生し、それは社会に蓄積されます。社会が人体ならば、そんなん高熱と高血圧で倒れるレベルです』

 高血圧は。

 生のシイタケが特効薬らしいが。

 焼いたら麺つゆ。

 これだけで美味しい。

 大学の飲み会で、だ。

 七輪で焼いたシイタケなんか一番いい。

 キノコは血液に作用する。

 だから。


 “血液に退魔が宿るボク”は。


 様々なキノコを常食していた。

 結果。

 退魔は消えなかった。

 血圧が安定し。

 コレステロール値が下がり。

 血糖値も。

 血中濃度も。

 健康そのものになった。

 生活習慣病の味方である。

 同じくして生活習慣病の特効薬。

 七味唐辛子も併せてどうぞ。


 閑話休題。


 いよいよ殺害対象が近付いてきた。

 黒い炎は勢いを増す。

 ニガヨモギ由縁の悪魔が。

 天使様との喧嘩に使った炎。

 

 世界蛇の炎。

 


 

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ラ・アサッセオ〜創り物の魔女たち〜 居石入魚 @oliishi-ilio

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