第6話 価値のある殺人幇助 1
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ボクが『それ』を見つけたのは魔女から生存者を探せとの無茶振りをされてからすぐの事だった。機関室の奥、様々なパイプ類が血管のように壁や床に張り巡る生物の体内の如き狭い空間。此処は特に女性物の下着が散乱しており肉片や血痕の量も多い。
魔女への通信デバイスをパッシブに。
バターナイフ型の短い得物を逆手に。
巡航から戦闘へ。
モードを切り替える。
『うわわ。グロ過ぎてトラウマなりそうな映像が来ましたね』
「……此処は食事を楽しむ場所らしいな。あの損壊遺体、それならば説明がつく」
『大丈夫そうですか?ミスターの場合、激しい殺人衝動が身体を作り替えるんです。より効率的に、より機能的に対象を殺せるように。そもそもアナータ、閉所での殺人なんか可能なんでしょうか?』
「殺せって言われたらなんでも殺すよ、そりゃ。ボクを選んだ理由は其処なんだろ?」
『そりゃそうですけど。今や殺人鬼はレアなんです。凄腕の殺し屋や暗殺者は金で雇えますけど、単体存在が社会を揺るがす殺人鬼は金で雇えません』
「そう?ボク、結構な金額頂いてるし。大学生活もそのお給料で楽しませて頂いてるけど?」
『まず学生やってる殺人鬼なんて出鱈目なのミスターだけっすけどね……。アナータは金で出逢える機会を買える類のポケモンじゃないんです。草むらではエンカウントしません。オーキド博士に3億ぐらい積めば初期ポケモンを頂戴する事も叶うでしょう。ああいう強力な初期ポケモンならば、金でなんとかなります。ですが殺人鬼は換えが効かないんですよ、ミスター』
「はぐれメタルみてえなもんか」
コンコンコン、と。
足音が反響する。
靴底の鋲が肉片に食い込みグリップを失いかけているが、閉所戦闘は必然的に迎え撃つ形になる。足元は気にしなくていい。気にするべきは正面だけ。紅く照らされる機関室を、更に紅く演出している、この食事場の。
『犯人。手足が生えたサメとかですか?』
「むちゃくちゃ可愛いけど、違う」
『でも“人を喰う”、でしょ?サメぐらいしか思いつきません。ワニは日本に存在しませんし海水では生きれないですし、ヒグマさんが北海道から単身赴任したとしても船底は狭くてつっかえます』
「……殺人鬼に“成る”奴がいたら。食人鬼に“成る”奴だっているさ」
理に触れた者、らしい。
ボク等は。
理と接点を有し。
理と接続を果し。
ヒトの姿のまま。
ヒトではない何かを演じている。
ならば。
殺意が自動的に発動する奴がいたら。
空腹が自動的に発動する奴がいても。
理には適う。
世の全て、コトワリではなく。
知恵を働かせ、状況説明可能なリに。
『犯人、ヒトなんすか?』
「歯型が人間だった。噛む力が恐竜並みだというだけで。加えて、この船に入れるのは人間だけだ。ティラノサウルスもアロサウルスも入場制限で入れん」
『アロサウルス、可愛いすよね』
「ああ。凶悪な見た目なのに手だけがちっちゃくてな」
何かを破砕する音と。
何かを咀嚼する音と。
何かを吸引する音と。
何かを粉砕する轟音。
近い。
女の子の物なのであろう下着類も増えてきた。
『犯人、鬼かよ。どーしようもねえよ、そんなの。知ってますか?我々、魔女達は探偵アイドルの集まりでしてね?犯人が鬼とかは守備範囲の外なんです。幾ら優秀なショートでも抜けちゃうライナー性のゴロじゃないですか、そんなの。ま、遊撃手が内野で何処を守って何をしてるのかは知りませんけど!きっと文字通り、遊んでるんでしょう!』
「……最高だよな。ショートだけ守備中にモンハンやってたら」
『つーことは生存者の探索は無理すねえ。ミスター御自身が生存者にならなくちゃなんねーわけっすか』
「ボクがグールなんかに負けるか。食人鬼は殺人鬼より格下だ。何より殺人に美学がねえよ。まず殺人ですらない。食い散らかしてるだけじゃねえか」
『あ。其処は矜持というか思うところはあったんすね……』
「誰かを殺して多数を護るって考え方が古流剣術にはあるだろ。殺人鬼の価値なんてのはナマハゲと一緒なんだ。悪い奴を殺すから、人々は悪い事をしなくなる。悪い奴を殺すから、社会から悪い奴がいなくなる。それがなんだ、食べたいから食べるって。人間はクリームグラタンコロッケじゃねえんだぞ」
『グラコロ食べたくなっちゃっただろ!』
よし。
殺したくなって来た。
ターゲットもすぐの距離。
視線の先には。
半裸の少女の首元に噛み付き。
彼女の“血を吸っている”。
矢鱈と美形な怪物。
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