第4話 意味のある殺人教唆 2

 “彼女たち”については何も知らない。

 突然ある日。

 スマートフォンに連絡が入った。

 厳密には。

 入ったのは連絡ではなく。

 脅迫だった。


 『アナタの殺人衝動、世間に公表されたくなければ私たちに協力してくださいませんか?』


 この時点でボクに選択肢は無い。

 対等な交渉など、世に存在はしないが。

 あまりにも急な話であった。

 そうして。

 魔女達の手足となり、幾つか解ったのは、


 ・一つ、魔女達は同じ組織に所属している

 ・一つ、魔女達はリスナーから未解決事件や日常生活での揉め事の情報を得ている

 ・一つ、魔女達はそれぞれに熱心なファンがいるアイドルでもある

 ・一つ、魔女達は現実世界にも影響力を持つ

 ・一つ、魔女達は公共的であろうと個人的にであろうと悪者を許さない

 ・一つ、魔女達は支えてくれるサポーターからサイバーミリタリー並みの機材を提供して貰っている

 ・一つ、ボクの担当者は『九頭竜イヴ』

 ・一つ、魔女達はボクに多額の給金を支払っている


 という事ぐらいであり。

 大事な事は何も解っていない。

 一般のファンと知識量としては大差無いし、一般のファン程度ぐらいまでの浅瀬しか調べられない存在なのだ。

 自分の足で彼女たちの税金の流れを追えば海外のペーパーカンパニー数社に辿り着き、ハッキングをしてIPアドレスを逆探知すればマリアナ海溝の底だとモニタには表示され、発信器を仕込ませた可愛いクマのぬいぐるみを贈ったら後日ズタボロに切り刻まれ焦げた発信器と共に返却されてきた。

 CIAに頼めとボクは言ったが。

 コイツ等こそ、CIAなんじゃねえか。

 そう、思うのは仕方ない話じゃないか。

 但し、魔女達にも弱点はある。

 “現実世界に直接干渉出来ない”、だ。

 だから、代わりの手足となる人間が必要になるらしい。

 悪者を殺す為に。

 世界を住みやすくする為に。


 『ところでミスター?アナタのコードネームを考えたいと思うのですが、お時間宜しいでしょうか?』

 「潜入中だぞ後にしろ。そもそも相互通信のままで威力偵察なんか聴いた事がない」

 『アハハ。別に良いじゃないですか。アナタがキチンと働いているかの判断も環境音から出来るのですし。九頭竜イブ、つまり私の手足ということで旧約聖書から名前を捩ったんですけどね?』

 「なんでも良いよ、偽名なんか」

 『こういうとき、いけずやわあ〜って京都の方なら言うんでしょうねえ。ミスターのコードネームはつーわけで“ニガヨモギ”です。良かったですね、防虫剤として大人気で』

 「それ、喜んでいいの……?」

 

 見張りの四人を首無し遺体に変え、ボクは客船に乗り込むべくスロープ前に立った。巨大な売春宿にしては見張りが少ないなとも感じたが、世間様から隠れなくてはならない商売だ。そんなもん、なのかもしれない。

 『何処でナイフの使い方を?』

 「解らん。ボクが“こうなったら”自然と出来るようになっていた」

 『覚醒、ですねえ』

 「発症、だろ」

 バターナイフに似たナイフと鉈に似たナイフをそれぞれホルスターに。普段なら血痕もアルコールを撒いて消すのだが、今回はあえて痕跡を残せとの指示である。

 尚且つ。

 殺し方は残虐に。

 遺体は見つかりやすい場所に。

 金銭を抜き取り。

 カード類も盗み。

 貴金属を持ち去り。

 指輪は指ごと。

 ネックレスは首ごと。

 

 注文の多い殺人教唆犯だった。


 ボクは客船へと脚を踏み入れる。

 バカ正直に。

 スロープから堂々と。

 イブからの指令は一つ。


 皆殺し。

 

 

 

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