第56話 巨獣、撃滅
巨獣テルミドラスが突進してくる。
前足の鋭い爪が突き出された。おれはゴーレムに意思を伝達し、その爪を片手で掴み止めてみせる。
衝撃がおれたちの座席にまで伝わってくる。かなりの揺れだ。クラリスやミラが、座席から落ちそうになる。すぐ座席にしがみついて、衝撃に備える姿勢になる。
これは、あまり激しくは動けないな……。
即席の操縦席では、対衝撃機構は明らかに不十分だ。胸に空いた穴は、背中側は塞いだが、前方は視界確保のために開けたままだ。下手すると空中に投げ出されてしまう。
さらに、もしゴーレムが転倒することがあれば、全員助からない。およそ20mの高さからの自由落下と変わらないからだ。
アメリアの
どうせパワーでは遥かに上回っている。
ゆっくりと、安全に、蹂躙すればいい。
おれは慎重にゴーレムを操る。掴んだテルミドラスの爪を、握り潰してみせる。
――ガァ、ア!?
支配され、感情のないはずの巨獣テルミドラスが、うろたえたように後方へ下がる。操作しているダミアンの感情が出たのかもしれない。
追撃の好機だが、操縦席の安全のため、素早くは動けない。
ただ一歩一歩、確実に前進していく。
それはむしろ、強大な力を持つゆえの余裕の歩みに見えたかもしれない。
テルミドラスはこちらの様子を窺って動きを止めていたが、やがて意を決したように踏み込んできた。
こちらも迎撃を構えを取る。
が――。
「違う、回り込んでくる!」
アメリアの言葉通り、テルミドラスは軌道を変え、こちらの左側面に回り込んだ。無事なほうの前足で爪を振り下ろす。
間一髪、ゴーレムの左腕でその爪を払い落とす。すかさず右腕で、テルミドラスの前足を捕らえた。
殴り合いは、操縦席にも危険が及ぶ。今の防御でも、また激しい揺れが来たくらいだ。
だから、このゴーレムのパワーを活かし、静かに制圧するのみ。
おれはテルミドラスの関節を極め、ゆっくりとパワーを発揮。
――グガァア!
逃れようと暴れるが、圧倒的なパワーを誇るゴーレムは微動だにしない。首を振り乱して炎を吹くが、どう首を回しても、おれたちには当たらない。熱波は届くが、それだけだ。もちろん、ゴーレムの岩石の体躯を溶かすにも至らない。
ボギン!
骨のへし折れる音が、ゴーレムの体を通して伝わってきた。
――ア、ギャ、ガァア!
ますます暴れるのを察して、すぐ拘束を解く。勢い余ってバランスを崩し、テルミドラスはたたらを踏んだ。
こちらは右腕を振り上げる。
「揺れるぞ! 振り落とされるな!」
全員が対ショック姿勢を取るのを確認してから、拳を振り下ろす。
頭部に直撃。テルミドラスは地面に倒れ伏す。地響きが伝わってくる。
「――『
間髪あけず、スキルを発動。ゴーレムの体を素材に、巨大な剣を創造する。
「トドメを刺す!」
刃を下に向け、一気に突き立てた。
――グア、ガ、ァア……ッ!
鮮血が噴き上がる。テルミドラスの口からも、大量に血が溢れる。
ゆっくりと剣を引き抜き、ゴーレムの動きを止める。
「――やった? やったの!?」
座席から離れ、クラリスが下方を覗き込む。同じくミラも。
テルミドラスはもう絶命していた。
「やったぁ! さすがウィル様!」
「本当に、すごい……。こんな、でっかくて怖かったやつを、あっさり……」
ミラの発言に、アメリアは苦笑いを浮かべた。
「あっさりじゃないと思うよ。ウィル様、かなり気を使って操作してくれてたから。ゴーレムの力、まだ全然発揮できてないと思う」
「でもそれって、手加減しても勝てたってことだろ? やっぱり、あっさりじゃないか。って、アメリア、顔色悪いぞ? お腹痛い?」
表情の優れないアメリアに、ミラが心配そうに寄っていく。
「たくさん揺れたせいかな……気持ち悪くって……」
「……俺も」
アメリアの隣の席で、ゲンも顔を青くしていた。
これまで乗り物に無縁な生活をしてきたのだ。揺れはできるだけ抑えたが、酔うのも仕方ないだろう。
平気そうにしているふたりに関しては、ミラはママウルフらによく乗っているから耐性がついているのかもしれない。クラリスのほうは、小さい頃は魔法の教育を受けていたと言うし、馬車によく乗れるような家で生まれ育ったのかもしれない。
などと考えている場合ではない。
巨獣には勝利したが、それで終わりではないのだ。
「みんな、もう少しだけ堪えてくれ」
おれはゴーレムの胸の穴から身を乗り出して、目を凝らす。
ダミアンの姿は……あった!
ゴーレムでダミアンの元へ迫る。
決着をつけるときだ。
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※
次回、敗北を信じられないダミアンに、ウィルたちは現実を突きつけます。完全なる勝利宣言がここに響いたのです。
『第57話 Sランクの敗走を見送って』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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