第55話 5つの生命をひとつに合わせて
「なにをするつもりなんだ、ウィル」
「心配するな。安心して見ていろ」
おれはルークにそう告げて、倒れたゴーレムへ向かう。
胸に大きな穴が開けられ、倒した巨獣の返り血に赤く染まった巨体。まるで心臓を貫かれて死んだようにも見える。
濃い血の匂いが漂う中、おれはその胸の穴に入り込んだ。
「……原理は理解してる。おれの生命でも、動かせるはずだ……!」
ルークの『
発生した大量の魔力をゴーレムに循環させ、起動を試みる。
ゴーレムは、おれの意思に沿って、ゆっくりと上半身を起こしていく。
思ったとおりだ。生命から変換した魔力に、
生命の価値は、ランクに関係なく等しいということだ。
ただ、ルークのスキルをすべて再現できているわけではない。『
つまり、胸の穴に乗り込んだまま、操縦する必要がある。
それもいい。どうせ遠隔操作では、距離感が上手く掴めず苦戦するだろう。むしろゴーレムと近い視点にいるほうが戦いやすい。
なにより、前世で慣らした巨大ロボットの操縦に似ている。このほうが、おれの経験を活かせる。
問題は出力。安全圏での使用では、巨獣を倒すことはできない。
なら、ルークのように生命を懸ければいい。
しかし――。
「やめろ、ウィル!」
ルークが叫んでいた。
「ひとりじゃ無理なんだ! オレの真似はやめろ……! お前に万が一があったら、他のみんなはどうなる!? お前は生きなきゃいけないんだぞ!」
ルークの言うことも分かる。
だが、他に手段など――。
「じゃあ、ひとりじゃなきゃいいんだよね!?」
クラリスが声を上げていた。
ゲンが頷いていた。
「手伝えることがあるなら、俺も行くぞ!」
「わ、私も」
ふたりが駆けてくる。それを見てアメリアもやってくる。
「ママはルークと一緒にいてやって」
ミラもママウルフを残し、ゴーレムの体を駆け上って、おれの元へやってきた。
クラリスが、触れてしまいそうなくらいに顔を近づけてくる。
「ウィル様、これわたしたちにも手伝える? 手伝えるよね? 手伝わせて!」
有無を言わせぬ勢いで迫られてしまう。
言われてみれば、できる。
ひとりの生命だけでなく、複数人の――5人の生命をひとつにすれば、今よりも強い力を引き出せるかもしれない。
でもそれは、この大切な仲間たちも道連れにしてしまうということだ。
「命懸けなんだぞ……!? 下手をすれば、一緒に死ぬことになる」
クラリスは一切動じない。青く澄んだ瞳がおれを見据える。
「そんなの、大歓迎!」
「俺もそれでいい。どうせウィルがいなきゃ、この先やっていけない」
「あたしも。ウィルはママの命の恩人だ。命を懸けるくらい、どうってことないぞ!」
ゲンもミラも同意する。
アメリアも、深々と頷く。
「ウィル様、私に言ってくれたよね。一緒に生きるんだから、死ぬときも一緒が当たり前だって。みんなそのつもりで助け合ってるって……。なのに、ひとりで命を懸けようなんて、嘘つきだよ……!」
みんなにこう言われてしまっては、おれは折れるしかない。
なにより、みんなのこの気持ちさえあれば、何者であっても簡単に粉砕できる気がした。
「……わかった。みんなの生命、おれに預けてくれ」
「とっくにそうしてるよ」
クラリスの微笑みに頷きを返し、おれはスキル『
搭乗者みんなの生命を魔力に変換する機構を創造する。ゴーレムの胸の穴の中に、5つの座席が出来上がる。
みんなを座らせれば、5人分の生命が魔力に変換されていった。魔力量にはさほど変化がない。その代わり、魔力の質が著しく向上していく。
生命を繋げての魔力変換は、バッテリーを直列に繋ぐように、出力が加算されるらしい。
これなら……この力があれば――!
「行くぞ……全員、衝撃に備えろ!」
ゴーレムが力強く立ち上がる。高度20m近くまでの急上昇。これくらいのGは、おれは慣れているが、みんなは動揺していた。
落ち着かせている余裕はない。
目の前に、いよいよ巨獣が降り立ったのだ。
巨獣の中でも最強と言われる巨竜種――テルミドラス。
やや離れた箇所で、ダミアンがこちらを見上げているのが確認できた。
ゴーレムの再起動に驚いているのかもしれない。
ならば、もっと驚かせてやろう。
最強の巨獣を、圧倒する力を見せつけて!
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※
次回、ウィルたちのゴーレムは、どのように巨獣を打ち倒すのでしょうか?
『第56話 巨獣、撃滅』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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