第50話 劣勢の言い訳

 アメリアは強化魔法銃スペルマグナムを連射して、ダミアンの魔法詠唱を阻止しようとする。


 しかしダミアンは巧みに回避しながら詠唱を継続、魔力の集中を高めていく。


「――ウィル様!」


 阻止できないと判断してか、アメリアが呼びかけてきた。なにか手はないか、と問う視線だ。


 戦闘強化服コンバットスーツは身体能力を強化するが、それで魔法に対する抵抗力が上がったりはしない。普通の鎧並みの防御力はあるが、Sランクが放つ魔法に耐えられるほどでもない。


 ダミアンも、そう推測して魔法攻撃に切り替えたのだろう。


 だがもちろん、このおれが対策を用意していないわけがない。


「両手を強く握れ! そのまま腕を交差させて防御しろ!」


「なにをしようと無駄だ! 燃え尽きろ、灼炎海嘯タイダルブレイズ!」


 いよいよダミアンは大魔法を発動させる。


 放たれた炎がすべてを飲み込まんと押し寄せる。炎が青いのもあって、大津波を前にしたような錯覚さえしてしまう。


 アメリアはおれの言う通りに防御姿勢を取る。


 戦闘強化服コンバットスーツの防御機能が発動。


 襲い来る炎の波をかき消し、完全に無効化した。


「なにぃ!?」


 驚きの声を上げたのはダミアンだけではなかった。


「ウィル様、これは!?」


 アメリアに、おれは頷き返す。


「『解除魔法装甲ディスペル・アーマー』だ」


 ダミアンが目を見張る。


「『解除魔法ディスペル』だと? あの希少スキルが、貴様らに使えるというのか?」


「ああ、解析したからな」


 もともと『解除魔法ディスペル』は、おれたちがいた収容所の監督官長ピグナルドの所持スキルだ。


慧眼の賢者ワイズマン』で解析して、その原理は手中に収めたが、発動に必要な魔力の質が高くて、おれには使えなかった。


 だが、戦闘強化服コンバットスーツの魔石でなら発動可能だ。2日前のテストのときには未実装だったが、大急ぎで完成させておいたのだ。


 ちなみに『解除魔法ディスペル』は、おれやクラリスが魔法を無効化するのとは原理がまったく違っている。


 おれたちは、魔力の流れを見切り、それを阻害したり反転させたりすることで最小限の魔力で無効化している。魔力の質が低くても可能な技術だが、魔力の流れを見切らねばならないし、同時に複数の魔法は無効化できない。


 それに対し『解除魔法ディスペル』は見切る必要はない。数の制限もない。発動さえすれば、どんな魔法を、どれだけ撃たれたとしても、すべて無効化できるのだ。


「残念だったな、これさえなければ魔法で優位に立てただろうに」


「く……っ。私が、劣勢だとでも言いたいのか? Sランクの私が、Fランクのお前たちに!? 冗談ではない!」


 ダミアンはもはや魔法は使わず、折れた剣を握り締め肉薄する。


 しかしアメリアはもう強化魔法銃スペルマグナム光震剣ルミナスブレードを巧みに使いこなしている。ダミアン相手に遅れは取らない。


 アメリアは再び刃を切断。ダミアンの剣はもはや柄が残るのみ。そこに強化魔法銃スペルマグナムをゼロ距離で発射。ダミアンはかろうじて防御魔法を展開したが、それを貫通してダメージを与えていた。


 とはいえ威力は半減されたらしく、致命傷には至っていない。


「おかしい……。なんて強さだ……! なぜ最下級民があんな兵器を!?」


「最下級などと侮るお前には分かるまい。能力値判定はその人のすべてではない。見方を変えれば、それぞれの違った強さが見えてくる。これはその力が生み出したものだ!」


 ダミアンは息を呑み、おれを睨みつけてくる。


「ルーク殿も似たことを言っていた……。貴様らが、そそのかしたのか!? ルーク殿に私を――国を裏切らせたのは貴様らだったのか!?」


「バカが。おれたちに会う前からルークはそういうやつだった。仲間だったくせに、そんなことも分からないのか?」


「……ッ」


 思い当たる節でもあったのか、ダミアンは言い淀む。


「だが……だが! やはりおかしいではないか! お前たちのようなFランク民は他にいない! お前たちだけが例外なのだ! 弱く卑しい者たちを、強く高貴な者が統べる。その鉄則を破壊する悪しき例外は、排除すべきなのだ!」


「例外じゃない。お前たちが自由を奪い、虐げるからみんな本来の力を発揮できてないだけだ。Sランクを追い詰めうる力を眠らせているのは、きっとおれたちだけじゃない」


「認めるものか。お前たちは、ルーク殿の――Aランクの協力があったから生き残れたに過ぎん! 私が手こずっているのは、そのAランクも相手にしているからだ! それさえなければ……!」


 その瞬間、おれの『慧眼の賢者ワイズマン』が、ダミアンのスキル発動を認識した。


 どんな魔物モンスターでも1匹だけ操れるという、スキル『聖浄支配セイクリッド・ドミネーション』だ。


 しかしそれはもう発動中で、ダミアンの操る巨獣はルークのゴーレムと交戦中のはずだ。


「なにをした? もう巨獣を操っているはずだ。なのになぜもう一度スキルを発動させた?」


 ダミアンは不敵に口の端を上げた。


「私のスキルはルーク殿から聞いたか……。しかし、これは彼も知らないこと。私は確かに1匹しか魔物モンスターを操れないが……支配下に置くだけなら、何匹でも可能なのだ」


 嫌な予感に、背筋が震えた。


「まさか、貴様」


「予備の巨獣を呼び寄せた。私が直接操る巨獣と、私の手を離れ自由に暴れる巨獣……。2匹が相手では、いかにルーク殿とて抑えられまい! 貴様ら全員、焼き殺してくれる!」




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次回、その場は撤退を選んだダミアンを追うウィル。一方、2体の巨獣を前にしたルークは……?

『第51話 Sランクの切り札』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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