第49話 Sランクが、Fランク相手に手傷を……?

「2対1、そして武装をしていれば勝てるとでも? ずいぶん舐められたものだ」


 おれとアメリアは、いよいよダミアンと対峙していた。


「2対1ではない。お前はアメリアひとりで充分だ」


 アメリアは頷き、前に出る。戦闘強化服コンバットスーツはもう着用、起動済みだ。


「あのときの一味違う女か……。まだ生きていたとはな。だが、奇跡は3度も続かない」


「奇跡じゃない……」


 静かにアメリアは言い返す。


「奇跡なんかで、私は生き延びたんじゃない」


「思い上がるな、最下級民が!」


 ダミアンは瞬時に踏み込んでいた。おれには知覚できない速度の斬撃だった。


 それをアメリアは最小限の動きで回避していた。


「かわされた!?」


「私には、あなたの動きが視える。この鎧さえあれば、ついていける……!」


「ほざくな! そんな鎧ひとつで、なにが変わるというんだ!?」


 ダミアンは連続で剣を振るう。先ほどより更に鋭い動きだ。


 対し、アメリアも全力で回避する。身を逸らし、あるいは鎧やガントレットで弾く。


 『慧眼の賢者ワイズマン』で解析しながら観ていなければ、おれにはまったく理解できない状況だっただろう。


 アメリアは慣れてきたのか、回避しながら前進。ダミアンの大振りをかわした瞬間に踏み込み、肘鉄を食らわせた。


 ダミアンは吹っ飛ぶも、空中で回転。体勢を整えて着地した。


「なんだこの力は……!? Aランク並……なぜFランクの身で!?」


「これは技術だ。お前たちが認めなかった、おれたちの力の一部だ」


「それがあるから、私は戦える。もう誰も死なせずに済む……。私は、死神じゃない!」


 今度はアメリアから仕掛けていく。ダミアンは応戦。どうやら今度は本気らしい。アメリアを上回る動きで、回避、そして反撃に転じる。


 やはり剣を持つダミアンと、拳のアメリアでは差が出るか。


 ならば、使うしかあるまい。製造はぎりぎり間に合ったが、テストする暇のなかった専用武器を。


「アメリア! この剣を使え!」


 おれは剣をアメリアに向かって投げる。アメリアは見事、柄をキャッチ。即座にダミアンの斬撃を防ぐ。


 そのまま斬り返すが、ダミアンの鎧に阻まれた。


「ふん、軽い! 大した剣ではないな!」


 ダミアンは反撃。アメリアは剣で受け止める。そのまま鍔迫り合い。力ではまだダミアンが勝るのか、少しずつ押されていく。


「ウィル様、こんな軽い剣じゃ、ダメだよ……っ!?」


「いや、いける。刀身に触れろ! 戦闘強化服コンバットスーツから魔力が伝導する! すべてを斬り裂く光になる!」


 アメリアは言われるままに左手で剣の刀身に触れた。刀身が白くまばゆく発光し始める。


 正確には刀身が振動しているのだ。それにより光を乱反射して刀身が輝いているように見える。そして、その超振動によって刃の切れ味は、飛躍的に増大する。


 鍔迫り合いするダミアンの剣に、徐々に切れ目が入っていく。


「私の、剣が!?」


 ダミアンが動揺を見せた瞬間、アメリアは剣を振り抜いた。ダミアンの剣を切断。その斬撃は鎧にまで届き、それすらも斬り裂いてみせた。


 ダミアンは即座にバックステップで距離を取る。胸元から流血。その事実に驚いているようだった。


 アメリアもまた、喜色を滲ませた驚きの声を上げる。


「ウィル様、この剣は……!」


光震剣ルミナスブレード! 一度刀身に触れれば10秒は威力を発揮する。だが気をつけろよ、魔力をかなり消費する。魔力が切れたら戦闘強化服コンバットスーツの機能すら使えなくからな」


「平気。これだけの威力、何度も使うまでもないよ……!」


 これが、おれがこの場に居合わせた理由だった。


 アメリアに専用武器を渡し、使い方や注意点を伝えつつ、戦いをサポートする。


 本当はクラリスやミラたちの援護に付いていてやりたかったが、今回の戦いでは、アメリアに付くのが、おれという戦力を最も有効に使う手段だと判断したのだ。


 充分に人数のいるゲンたち保安班はともかく、クラリスやミラは無事だろうか……。


 いや、考えるな。今は目の前の敵に集中しなければ。ダミアンを倒さなければ、おれたちは滅びる。


「この私が……Sランクが、Fランク相手に手傷を……?」


 ダミアンは自身の流血に呆然としていた。決して大きな傷ではないが、ランク差を覆す、大きな一撃だった。


「次はこれだ。強化魔法銃スペルマグナム


 アメリアは魔法銃スペルシューターに似たその武器を受け取り、即座に発射した。


「――!?」


 ダミアンは咄嗟に横に跳んで回避する。壁に大穴が開く威力だった。


 ほのかにアメリアが笑う。


「いいね、これ」


 この強化魔法銃スペルマグナムは、文字通り、魔法銃スペルシューターの強化型だ。戦闘強化服コンバットスーツから伝導した魔力で発射される。


 ただ高出力の魔石を使って魔法を撃つだけ。同じことは魔法銃スペルシューターでもできる。


 ただし魔法銃スペルシューターでは威力に耐えきれず、一発撃つだけで壊れてしまった。発射の反動も大きく、3人がかりでも吹っ飛ばされてしまうほどだ。


 それに対し、強化魔法銃スペルマグナムは、金属を用いたより頑強な構造で、強大な威力にも耐える。


 そして大きな反動は、戦闘強化服コンバットスーツで強化された肉体が抑える。アメリアは片手で撃って平然としていた。


「勝てる……これだけの武器があれば、Sランクにだって!」


 アメリアは強化魔法銃スペルマグナムを連射する。


 ダミアンはジグザグに走って回避する。


「確かに恐るべき攻撃力だが……これを防ぐ手立てはあるまい!」


 ダミアンは両手に魔力を集中。魔法攻撃の構えを見せた。




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次回、戦闘強化服コンバットスーツで強化されたとてアメリアの魔法抵抗力が高まるわけではありません。ダミアンの魔法に、どう対抗するのでしょうか?

『第50話 劣勢の言い訳』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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