第42話 秘密基地防衛戦、開始

「お前は、なぜ制服を着ないんだ?」


 いよいよやってきたその日。囮に出ようとしたルークに、おれは問いかけた。


「え? 着て良かったのか?」


 するとルークはニヤニヤと少々不愉快な笑みを浮かべた。


「それはつまりオレに着て欲しい、仲間であって欲しい、仲間と認めたってことだな?」


 部外者だと言ったことをまだ根に持っていたようだ。


「チッ。今回の働き次第で考えてやる」


 若干イラッとして、ぶっきらぼうに答えてしまう。


「へへっ、言質げんち取ったぜ。忘れるなよ」


 ルークはにっこり微笑んで、危険の中に駆けていった。



   ◇



 ルークが秘密基地の入口のひとつで待っていると、やがてダミアンとその部下たちが現れた。予測通りの動きだ。


 ダミアンは、ルークの正面で立ち止まる。


「ルーク殿……やはりここにいたか」


「そりゃいるさ。ここはオレの別荘みたいなもんだからな」


「あなたはここでFランク民を匿っている」


「んなわけないだろ」


「盗賊のアジトで私たちを襲ったゴーレム。あれはあなたのものだ。Fランク民を助け、その後、匿ったとしか考えられない」


「いやお前たちを襲うつもりじゃなかったんだ。遠隔操作が難しいって知ってるだろ? 援護するつもりが邪魔しちまったみたいで……それで合わせる顔がなくて引きこもってたんだ」


「では、あなたが担当していた、Fランク民の隠れ家の件はどう説明する?」


「どうもこうも、お前の巨獣が、あっという間に終わらせちまったよ」


「中には遺体がなかった」


「全部灰になったんだろ。巨獣の炎が強すぎたんだ」


「なぜ嘘をつくんだ」


「オレが信じられないのか」


「……信じたい。私はあなたのことは兄のように思っていた。こんなことをするわけがないと思いたかった。だが調べれば調べるほど、あなたが裏切ったことを示す証拠が出てくるばかりだ」


 ダミアンは悲しそうに、つらそうに、ルークを非難する。


「なぜなんだ、ルーク殿。私たちの友情は、こんなにも脆いものだったのか?」


「都合のいい話かもしれないが、ダミアンくん、オレは友情を捨てたつもりはないぜ。ただ、優先すべきことをやっただけだ」


「国を裏切り、Fランク民に肩入れすることが、友情より優先すべきことだったのか!?」


「……そうさ」


「バカな! 最下級の卑しい者たちに、なんの価値があるというんだ? 弱く愚かな者には、相応の立場がある。ただこの国のために働き、この国の土へ還ればいい。国の礎になれるだけ幸せだろうに!」


「その考えがおかしいんだよ。最下級ってのは、能力値判定で決めたものだ。でもよ、あれ、戦闘に関する能力しか見てないだろ」


「それのなにがおかしい。魔物モンスターが多く、外敵もいる我が国では、民を守る力ある者こそが高い身分を持ち、有事には戦う義務を負う。弱き者に務まる役目ではない!」


「弱くなんかない。みんな、違う基準で見れば違う強さを持ってる。なのに最下級にされて、自由を奪われ死んでいく。まだ10歳で家族の元から引き離されて、ろくな幸せも知らないままにな……!」


「ランクが違えば、もう家族ではない」


「違う! オレは今でも、妹とは家族だ!」


「妹……?」


「お前にだって分かるはずだ。Eランクの家に生まれたお前は、Sランクになっちまったがために家族と一緒にいられなくなっちまった。これまでの生活を――家族をすべて否定されるのはつらかったんじゃないのか……?」


 ダミアンは息を呑み、ちらりと部下を見やる。生まれながらにBやCランクの者たち……。


 それからルークを睨みつけた。


「……なにも、つらくはない! あんな卑しく愚かな者たちなど、もう家族ではない。私は名門シンクレア家のダミアン! それ以前のことなど忘れた!」


「自分にそう言い聞かせないと、やってられないのか?」


「違う! 私は心からそう思うのだ!」


「なら矛盾を指摘するぜ。ダミアンくんは、オレを兄貴みたいに思ってくれてたんだろう? Aランクのオレを、Sランクのお前が。ランクが違えば、もう家族じゃないって話はどうなる?」


「それは……あなたという人間が素晴らしく……Aランクでありながら、それ以上の――」


「語るに落ちたぜ。それはつまり、人によってはランク以上の価値があるって認める発言だ。オレの考えと同じだ」


「――ッ、違う!」


「違っちゃいない。よく考えてくれ。きっと分かるはずだ」


 そのとき、ふんっ、と鼻で笑う者があった。ダミアンの後ろで控えていたBランクの騎士だ。


「ダミアン殿は、失礼ながら卑しいお生まれですからな。こんな話にまで耳を傾けてしまうのでしょう」


「ひゃははっ、言えておる。問答などするから丸め込まれる! 脱走したFランクに生きる価値なし! 初めから決まっている! ダミアン殿は下がっておられよ!」


「ユリシス、ゾルグ、まだ話の途中だ!」


 ダミアンは両手を広げて制しようとするが、ふたりは強引のその手を払った。


「裏切り者と話す価値もなし!」


「それともダミアン殿は、ルーク殿と共に裏切り者になられるおつもりか?」


 聞く耳持たないゾルグに、挑発するユリシス。


 ダミアンは激昂した。


「愚弄するな! この役目はSランク、ダミアン・シンクレアが果たす!」


 ダミアンが手を高く掲げる。上空から巨獣が降下してくる。


「やっぱダメか。やるぞ、ミラちゃん!」


 ルークはゴーレムを生成させながら、遠くに声を上げる。


 即座に遠吠えが返ってくる。ダイアウルフ5頭と、ママウルフに跨ったミラが突撃してきた。


「なんのスキルだ、魔物モンスターに乗ってやがる」


「忌み子だ。Fランクどもの仲間か!」


 ルークとミラたちの、分断誘導作戦が始まった。




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次回、Bランク以下の敵を引き連れていくミラたち。一方、残ったダミアンが呼び出した巨獣に対し、ルークはゴーレムを生み出して対抗するのです。

『第43話 分断誘導作戦』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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