第41話 心はすでにひとつ

 ゲンとアメリアの模擬戦は、一方的な展開となった。


 ゲンの攻撃は、ことごとく当たらないのである。


「すごい……。体が軽い。思ったとおりに動く……!」


 アメリアはすべての攻撃を紙一重で見切り、最小限の動きで回避している。


 そしていよいよ反撃に移った。回避直後のカウンターがゲンに直撃する。


「ぐあっ」


 ゲンは簡単に吹っ飛び、床に転がった。


「そこまで」


 おれはそこで模擬戦を止めた。


 アメリアはオドオドと目を泳がせる。


「ご、ごめん。ゲン、大丈夫? 私、そんなに強くやったつもりはないのに……」


「だ、大丈夫だ……。本当にすごいんだな。その戦闘強化服コンバットスーツというのは。アメリア、本気じゃなかっただろう?」


「う、うん。まあ」


「なのにこれだもんな。攻撃は当たらないし……いや、それはアメリア自身がすごいのか。完全に見切ってなきゃあんな動きはできない、よな?」


「ま、まあ……うん……」


 アメリアは照れてうつむいてしまう。褒められ慣れていないのだろう。


 やがてアメリアはこちらへ歩み寄ってきた。


「ありがとうウィル様、こんなすごい鎧作ってくれて」


「ああ。だがそこまで性能を引き出せるのは、お前の才能あってこそだ。他の者が使ってもこうはいくまい。おれの見込んだ通りの結果だ」


「そ、そうかなぁ……。他の人にもできそうな気もするけど」


 アメリアは、ゲンや他の保安班員に目を向ける。彼らは一様に、「いや無理無理」と首や手を振った。


「自信を持て。才能のあることに関しては、自分には簡単に思えても、他人にはそうではないんだ」


「……そっか」


 アメリアは改めて装着した戦闘強化服コンバットスーツをまじまじと眺める。


「テストを続けるぞ、アメリア。好きなように動き回ってみろ。少しずつ全力に近づけていけ。途中でなにか違和感があったらすぐ言え。修正する」


「うん、わかった」


 その後、アメリアは戦闘強化服コンバットスーツによる強化に戸惑い、振り回されもしたが、やがて持ち前のセンスでそれらを使いこなし始めた。


 できるだけ広く天井の高い部屋でテストしていたのだが、そこすら狭いという印象だ。


 なにせ壁走りは当たり前。壁から反対側の壁に飛びつき、それを繰り返すことで稲妻のように動くこともできる。軽々と天井に張り付き、その天井を蹴って勢いを増したキックは、鎧を着せた木人形を粉砕貫通するほどだった。


「ふむ……。よしテスト終了。特に問題はないな。両腕のガントレットのボタンを長押しすれば機能が停止する。今度は爆発しないから安心して押していい」


「うん……ふぅ、疲れたぁー。でもいい気分……うっ!?」


 汗をかいた爽やかな顔が、急に苦痛に歪む。アメリアはそのまましゃがみ込んでしまう。


 まさかここで不具合か!?


「どうしたアメリア!? 痛いのか? 苦しいのか?」


「お、重い~。つ、疲れた体にこの重さは無理……」


 どうやら強化機能が停止して、鎧の重さに耐えられなくなっただけらしい。


「……しょうがないな。今、脱がせてや――」


 脱がせてやろうと手を伸ばすが、なぜかクラリスやエレンが冷ややかな目を向けてきていた。


 まあ、そうか。脱がすのは鎧とはいえ、相手は女だからな。


 意識するとなぜだか、悪いことをしているような、恥ずかしいような気がしてくる。


「――クラリス、エレン。脱がしてやってくれ……」


 無事に戦闘強化服コンバットスーツから普通の服に着替えさせて一息ついたあと。


 おれは改めてアメリアに告げる。


「数日後にまたテストをしようと思う」


「まだなにかあるの?」


「ああ。専用の武具がもうすぐ完成する。次はそれを使ってもらう」


「専用……。わかった、楽しみにしてる」


「――いやダメだ。そんな暇はなさそうだ」


 割り込んできた声に振り向くと、ルークの姿があった。


「戻っていたのか、ルーク」


 ルークは物資の調達がてら、ダミアンたちの様子を人づてに窺いに行っていた。


「ついさっき報せが届いた。思った通り、この基地を漏らしたやつが出たよ。あと2日もすれば、やつらはここに来る」


「2日か……。確かにテストはおろか、完成も間に合うかどうか……」


「やれるだけのことはやったんだ。現状で迎え撃つしかないだろ」


「そうだな。よし、みんな迎撃準備だ。作戦は頭に入っているな。もう一度、よく確認しておくように」


 その場にいた仲間たちは、それぞれに了承の声を上げる。


 その中でちょっと変わった動きをする者があった。エレンだ。


「じゃあじゃあじゃあ、みんな、ちょっと待ってて! いい物持ってくるから!」


 と服飾担当者と一緒に駆けていき、しばらくして台車に大量の衣服を乗せて戻ってきた。


「エレン、それは?」


「アタシたちは戦えないでしょ……? でも、せめて心はみんなと一緒にしたいと思って」


 エレンが服の一着を広げてみせる。


「みんなにお揃いの服を用意したの!」


 それは軍服に近く、しかしカジュアルな印象のある服だった。


「制服か。いいじゃないか。着よう。エレン、みんなに配ってくれ」


 おれたちは真新しい制服に袖を通し、そのあとで改めて集結する。


 士気を高めるために短い演説をしてみたが、必要なかったかもしれない。


 おれたちの心はすでに、制服のようにひとつに揃っていたのだから。




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次回、やってくるダミアンたちに対し、いよいよウィルたちの防衛戦が始まります。

『第42話 秘密基地防衛戦、開始』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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