第43話 分断誘導作戦

 ルークはミラたちの姿を確認した瞬間、後方へ下がった。


 ミラは弓を引き絞り矢を放つ。ママウルフに跨がりながらでは狙いが定まらないのか、敵に命中はしない。それでも二の矢、三の矢と射ち続ける。


 やっとBランク騎士のひとり、ゾルグに矢が飛んでくる。しかしゾルグは身体能力に優れたBランクだ。剣で簡単に払い落としてしまう。


「ははっ、ひょろい矢だ! 粗末な装備に貧弱な力、いかにもFランクだな!」


「しかし見てみろ、ゾルグ。見た目はなかなか小綺麗で、かわいらしい女の子じゃないか?」


「ああ、そそるなぁ……」


 ゾルグは下卑た笑みで舌なめずり。


 ミラは先日配られた制服を着ているが、きちんと着るのは窮屈らしく、以前までの服装と同様、肌を多めに露出させている。それがゾルグの目に止まったらしい。


「決めた! まずはあやつから仕留める! そのあとは、ぐふふっ、最終的に殺すのなら、その前に楽しんでもお咎めは受けまい!」


 ダミアンはゾルグを睨みつけた。


「ゾルグ、貴様こんなときになにを考えている!」


「露払いですよぉ、露払い! さっきこの役目はあなた様が果たすと仰ったじゃないですかぁ! どうせ巨獣の炎で住処ごと消し炭にするんでしょぉ? だったら外にいるやつらを逃さず仕留めるのは、従者たる我らの役目。なんの問題がおありか!?」


「上位ランクらしからぬ下卑た真似はやめろと言っている!」


「なにが下卑た真似か。下のランクにゃなにしてもいい! 弱肉強食がこの世のルールでしょうが! ただの役得! それがなきゃ、こんなとこまであなた様に付いてきやしませんよ!」


「なにぃ!?」


 ゾルグはもうダミアンは無視して、ミラのほうへ向き直る。


 ダイアウルフたちはCランクの上級兵たちを牽制し、ミラに射撃を継続させている。


「ふん、うざってえな。ユリシス!」


「はいよ」


 魔力に優れたBランク騎士、ユリシスが魔法を放つ。ダイアウルフたちは直撃は回避。しかし地面に当たった火球は爆発。爆風に、ダイアウルフたちは吹き飛んだ。


 幸い、どれもが軽傷。しかしもう向かっていかない。警戒するようにじりじりと後退し、やがて背中を向けて走り去っていく。ミラやママウルフも同様だ。


「逃がすな、追え! 一緒に来たやつには、おこぼれをくれてやるぞ!」


 ゾルグの掛け声に、ユリシスを始め、Cランク上級兵たちはミラたちを追って駆け出していく。


「おい、お前たち! ……くそ!」


 ダミアンの声はもう届かない。


「連中がいないなら、もう本音で話せるよな? どうだ、こんなことやめにしないか?」


 ルークは優しく問いかけるが、ダミアンは強く首を横に振った。


「見ての通り、私は生まれのために下位にさえ侮られている。ああいう連中を黙らせるためにも、私はSランクに相応しい実績を上げなければならないんだ!」


 ダミアンの呼び寄せていた巨獣が、暴風とともに降り立つ。大地が震える。


 全身を覆う赤い鱗。トカゲを思わせる頭部。鋭い牙と爪。巨大な翼で空も飛ぶ。


 ルークが前世のアニメや漫画で見た、ドラゴンによく似ている。だが目の前のこいつは、30mを超えるであろう巨体で、二足歩行をする。


 魔物モンスターの中でも強大な力を持つ巨獣。その巨獣の中でも最強に位置する巨竜の一種テルミドラス。


 対し、ルークもゴーレムの生成を終えた。いつもより強力に、巨大に作り上げた。それでも全長は25mくらいか。巨獣テルミドラスに体格で劣ってしまっている。


「巨獣にこの基地はやらせない。オレが抑えてみせる」


「だが、あなたはそれで手一杯だ。私を阻止することはできない!」


 巨獣テルミドラスが前足を振り上げてゴーレムに襲いかかる。ルークはゴーレムを操作して、その前足を受け止める。重い衝撃が大地に響く。パワー負けして、ゴーレムの体勢が崩れそうになる。


「ぐっ、予想以上だ……っ」


 パワーで負けていても、素早く動けば対応はできるだろう。しかし、こちらは遠隔操作。ラジコンのようなもの。正確に素早く動かすには、目を離すわけにはいかない。


 一方、ダミアンは余裕の様子で、ルークに歩み寄っていく。剣を抜いて。


「……ここであなたを殺してしまうのは簡単だ」


「どうかな。ゴーレムを放棄すりゃ、いい勝負ができるかもよ」


「そしたら巨獣がこの隠れ家を焼き尽くすだけだ」


 ダミアンはそっとルークの肩に手を添えた。


「あなたはこの場を離れられない。いやそもそもゴーレムでは私の巨獣には勝ちようがない。あなたはもう詰んでいるんだ。負けを認めてくれるなら……私もまだ、あなたを庇うことができる」


「そんな恥ずかしい真似ができるか。お前が兄貴と思った相手は、そんなヤワな男か?」


「どんなに強い意志でも、より強い力の前では折れるものだ。そして、それは恥ではない。あなたの降伏を期待して待とう。その間に、Fランク民は私自らの手で殲滅しておく」


 そのまま脇をすり抜けていく。ダミアンは、秘密基地への入口へ侵入していった。


「さて……より強い力で折られるのはどちらかね……」


 ここまでは作戦通りだ。ダミアンは頼むぜ、ウィル様、アメリアちゃん。


 祈りにも似た想いを投げかけつつ、横目でミラたちの去った方角を見やる。


「援護……行けるか……? ちょいと待ってろよ、ミラちゃん」


 ゴーレムの操作に注力しながら、ルークは予定地点への近道を歩んだ。




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次回、Cランクの上級兵のみを誘き出すのに成功したダイアウルフたち。そこで待っていたのは、ゲン率いる保安班でした。

『第44話 上位ランク蹂躙』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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