第32話 仲間たちの安否

 おれはルークと名乗った男を睨みつける。


 短い黒髪に黒い瞳。ダミアンほどではないが高品質の武具を、ラフな感じに装備している。Aランクといえば上級貴族のはずだが、高貴な雰囲気はない。むしろ庶民的な親しみやすそうな空気をまとっている。


 だがそんな雰囲気は、今のおれの神経を逆撫でするだけだ。


「行っても無駄だというのはどういう意味だ」


「あそこにはもうなにもない。誰もいないんだ。お前たちは、オレが安全なところに――」


「いらん! 無駄かどうかなど、まだ分かるものか!」


 おれはルークを押しのけて道を進む。クラリスやゲンもついてきてくれる。


 そして、秘密基地に辿り着いたとき、おれは言葉を失ってしまった。


 周囲の木々はなぎ倒され、秘密基地の出入口がぽっかりと露わにされている。そして焼け焦げた臭いが漂っている。その発生源は、まさにおれたちの住処の中からだ。


 中はあらゆる物が焼き尽くされていた。わずかばかりの道具は灰に。金属は溶けたあとで固まっている。こんな中で、人が生きていられるわけがない。原形さえ残るまい。


 つまりみんなは……もう……。


 おれが今、踏んでいるのは、仲間の遺灰かもしれない……。


 中にいられず、よろよろと外へ出る。足に力が入らない。今にも膝から崩れてしまいそうだ。


 そこで気づく。


 非常に大きな足跡がある。おれたちを助けた巨人とは違う。爪を持つ、生物的な足跡だ。その大きさから推測して、30メートルはあろうかという巨大な生き物だ。


「……巨獣の足跡だよ」


 あとから付いてきたルークが、教えてくれる。


「なぜ、巨獣が」


 巨獣とは、魔物モンスターの中でもひときわ巨大で、戦闘能力も最高クラスの生物のことだ。


「お前たちを襲ったダミアンが、スキルで操ってる。あいつは、自分と巨獣で、同時に2箇所を襲ったんだ」


「その巨獣が、入口から炎を吹き込んだのか」


 この惨状を見る限り、間違いない。圧倒的な火力。逃げ場もなければ、逃げる暇もなかっただろう。


「だから言っただろ。ここに来ても無駄だって」


 どこか軽いルークの口調に、思わずその胸ぐらを掴み上げる。


「黙れ! 貴様になにが分かる! あいつらはおれの、おれの大切な仲間だったんだ! 世間から認められず、苦しい思いをしてきた仲間なんだ! 守ってやりたかった……。もっといい暮らしをさせてやりたかった! いつか外で自由に暮らせるようにしてやりたかったんだ! それが、いなくなってしまった……。いなくなってしまったんだぞ……!」


 口にするほどに、怒りとは違う感情が湧き上がってくる。


 胸が苦しい。視界が滲む。


 歯を食いしばってこらえようとしても、次から次に涙がこぼれていく。


「……お前、いいやつなんだな」


「なにが、いいやつなものか。仲間を巻き込んでおいて、結局、無惨に死なせてしまった。無責任で、無能な愚か者だ……」


「でも感情が先走って、勘違いしてる。いや、オレの言い方もまずかったけど……」


「なに?」


 そのとき、近づいてくる複数の足音があった。追っ手じゃない。慣れ親しんだ、よく知る音だ。


「ウィル! クラリス、ゲンも! 良かった、無事だったんだな!」


「ミラ、か……?」


 現れたのはダイアウルフに乗ったミラだった。


 遅れてママウルフや、保安班の面々も駆けつける。


「お前たち……無事だったのか? 他のみんなは……」


「他のところで隠れてる。みんな無事だぞ」


「そうか……そうだったのか」


 感情が喜びに反転して、その落差に唇が震える。手足から力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。


 ルークは苦笑しながら、ミラたちに声を掛ける。


「おいおい、君たち、危ないから待ってろって言ったじゃないか。いや、でも、オレが言葉で説明するよりは早かったかな」


 そしておれに微笑みかけてくる。


「慕われてるな。やっぱり、いいやつだろお前」


「……説明、してくれるんだろうな?」


 涙を拭って、ルークを見上げる。


「ああ。まず、オレはダミアンの仲間でな。王様からお前らを殲滅するよう言われて来た」


「なら敵なのか?」


 ゲンに視線を送る。ゲンは頷き、ルークに魔法銃スペルシューターを向けた。


「よせよ、そんな物騒なもん向けるなって。敵じゃないってさっき言ったぜ」


 ルークは軽く両手を上げて苦笑する。


 確かに、敵だったならおれたちを助けるようなことはしないはずだ。


「だが味方とも限らない」


「警戒心が強いなぁ。ま、この状況じゃ仕方ないか。分かった、そのままでもいいから話は聞けよ」


 ルークは手を上げたまま語り出す。


「殲滅しろとは言われたが、オレにはその気がなかったのさ。だから盗賊でも退治して、その死体がお前らだったって細工して終わらせるつもりだった。ところが、盗賊のひとりがお前らの隠れ家へ向かうところを、ダミアンが見つけちまったんだ」


 それはダミアンも同じようなことを言っていた。知りたいのはその先だ。


「で、2箇所同時に攻撃することになった。なんとか言い含めて、オレがこっちを担当するようにしたんだが、あいつは使役してる巨獣を差し向けて来やがってな。慌てて助けに来たんだが……」


 ルークはミラに目を向ける。


「その子が襲撃を事前に察知してくれてなかったら、オレの避難誘導も間に合わなかっただろうな」


「そうだったのか、ありがとうミラ」


「お礼を言うのはこっち。ウィルがママを帰して、警戒するように言ってくれてたお陰だ」


 おれとミラは頷き合う。それから一番肝心なことをルークに問いかける。


「それで、みんなはどこへやった?」


「安全なところで匿ってる」


「どこだ?」


 ルークはにやりと笑った。


「オレの秘密基地さ」




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次回、無事に仲間たちと再会できたウィルは、ルークの秘密基地の案内を受けることになるのでした。。

『第33話 新たな秘密基地』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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