第33話 新たな秘密基地
「みんなを避難させてひと安心かと思ったら、お前たち3人が盗賊のアジトに向かったままだって言うじゃないか。それで大急ぎで助けに行ったのさ。しかしダミアン相手によく持ちこたえたよ。大したもんだぜ」
「なるほど、経緯はだいたい分かった。まだ聞きたいことはあるが、ひとまずお前の秘密基地とやらへ案内してもらおうか」
「ああ。ここにいたんじゃ、いつダミアンが来るか分からねえからな。移動しながら話そう」
ルークの案内についていきながら、話を続ける。
「おれたちを助けたあの巨人は、お前の差し金か?」
「あれはオレのスキル『
「しかしお前が裏切ったと知られることになった。ダミアンと仲間だったなら、あれがお前のスキルだと知られているんだろう?」
「本当はバレずに助けるつもりだったんだが、まあ、しょうがない。使わなきゃ間に合わなかったんだ」
「……そこまでして、なぜおれたちを助けた? 自分の立場が悪くなるリスクを負ってまで、助けるメリットがあったのか?」
「もちろんだ。助けない理由なんてなかった」
「おれたちをなにに利用するつもりだ?」
「利用だって?」
「お前のやったことは国家への反逆だ。そこまでするからには、なにか大きな企みがあるんだろう?」
「企みがないとは言わないけど、純粋な善意だとは思わねえの?」
「Aランクの者が善意だけでFランクを助けるとは思えん」
「んーまあ、そう思うのが自然かぁ……。――っと、そろそろだ」
ルークは足を止めた。乱立する樹木の中、苔の生えた岩が重なり合っている。
それらの下にある小さな石に触れる。それがスイッチになっていたらしく、岩のひとつがゆっくりと横にズレた。地下へと続く通路が現れる。
そこを通過すると、ズレていた岩は勝手にもとに戻った。
その地下通路は石造りのしっかりしたもので、魔石を用いた灯りが点在している。
まっすぐに歩いていくと、やがて扉が現れ、その先には立派な部屋があった。窓がないことを除けば、どこかの屋敷と錯覚してしまうくらいだ。
「あっ、ウィル様だ!」
「良かった、無事に戻ってきてくれた!」
「ウィル! ゲン、クラリスも、よかったよぉ、無事で良かったぁ~! ミラたちもありがとう~!」
そこには仲間たちが待っていた。喜びの声の中、エレンが真っ先に駆け寄ってきて、おれやクラリスに抱きつく。
「みんなも、本当に無事だったんだな。良かった……」
心から安心して、ほっと息をつく。
ゲンが前に進み出て、担いできたアメリアを仲間に引き渡す。
「この子は?」
「盗賊の生き残りだ。俺たちと同じFランクで、苦労してたみたいだ。怪我してる。手当してくれ」
仲間たちは頷いて、アメリアを連れて行く。
それを見送ったところで、ルークは軽く笑った。
「お前が戻ってきたら、急に活気づいたな。さて、じゃあみんなに中を案内しとこうか。これからここで暮らすんだしな」
ルークはまた先導していく。
中には水路やトイレはもちろん、浴場までついている。大きめな厨房もある。医薬品の揃った医務室もあった。さらに二段ベッドがずらりと並んだ大きな寝室も複数ある。今のおれたちの10倍の人数がいても余裕で寝泊まりできるほどだ。
規模は以前にいた収容所と同等。だが設備は一般庶民並、一部は貴族でも使っていそうなレベルで揃えられている。
しかも倉庫には武具や食料、生活雑貨も揃えられていた。さらに。
「見て見て見て! お洋服がたくさんあるよ! 生地も! アタシたち、もう今までのボロ服を着てなくていいみたい!」
興奮気味にエレンはおれを引っ張った。かと思うと、内務班の調理担当からも別方向から引っ張られる。
「食料があるって言っても肉や木の実じゃないんだ。小麦粉がある! パンが食べられるんだ! 砂糖もあるし、ミルクも! 香辛料もいっぱいある!」
「ベッドにふかふかのお布団!」
「盾や鎧もあるぜ! 武器はさすがに
ついてきた仲間たちが、各部屋で目を輝かせて声を上げる。
ひと通りの案内を終えると、ルークはドヤ顔を見せた。
「どうだ、すげえだろ」
「ああ。住処としてはよくできている。秘密基地としては、防衛設備が不足しているが」
「これは手厳しい」
しかし現段階でも、おれたちが住んでいたアリの巣のような粗末な基地とは、比較できないほど上等な施設だ。
「でもルークさん、本当にいいの? アタシたちがここ使っても」
やがて興奮から冷めたエレンは、恐縮しつつ尋ねる。ルークは気さくに返す。
「いいに決まってる。君らのために用意したようなものなんだから。それより、必要な物が出てきたらいつでも言ってくれよ。手配するからさ」
「あ、ありがとう……」
エレンは感謝はするが、あまりの高待遇に戸惑ってしまっている。
それを尻目に、おれはルークと向き合う。
「さっきの話の続きだ。お前の狙いはなんだ? おれたちのために用意したと言うが、こんな基地、すぐ用意できるわけがない。随分前から計画してたんだろう。一体、なにを考えている? おれたちになにをさせようと言うんだ?」
ルークは一点の曇りのない瞳で、けろっと答えた。
「お前たちは、これまでと変わらず自由に暮らしてくれればいいよ」
「どういう意味だ?」
おれは本当に、ルークの意図が読めなかった。
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※
次回、ルークの狙いを探るべく問い続ければ、彼はいよいよ素性を明かしてくれました。彼は、ウィルと同じ存在だったのです。
『第34話 もうひとりの転生者』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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