第31話 謎の救援

 炎の中で影が腕を振るう。突風が炎を吹き飛ばした。


「驚いたぞ。まさかFランク民が、これほどの魔導器を持っているとは」


 防御魔法に阻まれたらしく、ダミアンにダメージはほとんどない。一応、服に焦げ目がついていたり、若干の火傷がついていたりするが、それだけだ。


 さて、どうする?


 魔法銃スペルシューターはゲンがもう一丁持っている。炎のように威力の拡散しない、貫通力の高い魔法でなら防御魔法を貫いてダメージを与えられるかもしれない。


 あと一発に賭けてみるか?


 いや、賭けとしては分が悪すぎる。


 次は不意を突けない。回避されるだろう。よしんば当てられても、さっきの防御魔法がダミアンの全力であったかも定かではない。また防がれる可能性がある。


 ならば――。


 その結論は、おれが口に出す前にクラリスが言っていた。


「ウィル様、やるよ!」


「頼む!」


 以心伝心とばかりに、クラリスは魔石を攻撃に転用する。


「――大地潮流アールデシュトローム!」


 クラリス得意の大魔法だ。高出力な魔石を利用したその威力は凄まじい。


 遺跡の床や壁を突き破って、岩や土砂が激しく渦巻く。ダミアンを飲み込み、同時におれたちとの間に壁を作る。


「クラリス、もう充分だ。どうせ倒しきれない。今のうちに撤退だ!」


「うん!」


「ゲン、アメリアを頼む!」


「ああ!」


 ゲンは気絶したままのアメリアを担ぎ上げ、走り出す。


 おれとクラリスも先行して出口を目指す。


 その間、無数の死体を目の当たりにした。自ら進んで盗賊をやっていた者なら当然の結末だが、無理にやらされていた者もいると思うと哀れでならない。


 Fランク民以外にも、そういった者はいただろうか……。


 連れ出してやれなかったことは本当に無念だが、今は駆け抜けるしかない。ひとりだけでも――アメリアだけでも救ってやらなければ……!


 背後でドォン、ダァンと音と振動が響いてくる。おそらくダミアンが拘束を破り、壁を破壊しながら進んでいるのだ。


 こちらは、これ以上速く走れない。焦りだけがつのる。


 やっと出口に辿り着く。安心できたのは、ほんの一瞬だけ。


「やはり足が遅いな、Fランク」


 そこで待っていたのは、ダミアンだった。遠回りの別ルートから先回りされたらしい。


 しかもダミアンの部下と思わしき、武装した兵が何人もいる。ダミアンが盗賊を取り逃がすことがあれば彼らが始末することになっていたのだろう。


 おそらく全員Cランク以上。Bランクも混じっているかもしれない。


 まずいな……。


 ダミアンひとり相手でも逃げ切れる見込みが薄いというのに……!


「一味違うと言っても、所詮FランクはFランク。これまでだ。今度こそ仲間の元へ送ってやる」


「くそ……っ」


 だがここで諦めるわけにはいかない。なにか手があるはずだ。


 この状況を突破できる、なにか。


 おれの解析、兵器開発能力。高出力の魔石。あと一丁の魔法銃スペルシューター。クラリスの魔法。ゲンの身体能力。アメリアの眼と戦闘センス――。


 切り札になり得るものは複数ある。だがどう使う? どう戦える?


 高速の思考の中、いくつかの案は生まれる。だが時間的、状況的に無理で廃棄するばかり。


 ダミアンが剣を構える。その部下たちも。一斉に。


 おれは戦慄する。


 まさか……。手がない……?


 ここで終わってしまうのか?


 仲間たちの安否も分からないまま、なにもしてやれないまま、ここで朽ち果てるのか!?


「ウィル様……ッ」


 クラリスが怯えて抱きついてくる。ゲンも膝を折る。アメリアは意識を失ったまま。


 ――すまない、みんな。


 諦めを口にしそうになった、そのとき。


「――諦めるな!」


 知らない声がどこかから響いた。


 そして大地が揺れた。断続的に地響きが発生し、その発生源が近づいてくる。


「なんだと!?」


 ダミアンたちの注意も、その発生源に注がれる。


 巨人だ。


 岩か、鉄か。硬質な体躯を誇る巨大な人型が、ダミアンたちに突進してきたのだ。


 その大きさは人の10倍はあろうか。まるで前世で扱った巨大ロボットのようだ。


 巨人は足を振り上げ、あるいは、拳を振り下ろし、ダミアンたちを相手に暴れ始める。さすがのダミアンたちも、おれたちは無視して対応せざるを得ない。


 彼らの攻撃で、巨人の体の一部は砕けもするが体勢は崩れない。大きさも体重も違いすぎるのだ。


「――見てる場合か! 今のうちに早く逃げろ!」


 巨人の出現に圧倒されていたおれたちだが、再びの声に我を取り戻した。


「逃げるぞ、クラリス、ゲン!」


 ふたりに呼びかけ、おれたちは一目散に走り出す。


「おのれ逃がすか!」


 ダミアンが炎の魔法を放ってきたが、巨人がおれたちを庇ってくれた。そのままダミアンを足止めしてくれる。


 お陰で無事にその場を脱することができた。


 まだ追われる心配はあるが、今は残してきた仲間たちのほうが気がかりだ。


 全滅させられたなど、信じたくはないが……。


 急ぎ足で秘密基地へ向かう。その行く手に、ゆらりと人影が現れた。


「隠れ家に戻るつもりか? よせよ、行っても無駄だ」


 その声には聞き覚えがある。


「おれたちを助けたのは、お前か」


「ああ、オレの名はルーク・ファルニア。敵じゃない」


 その男の右手の甲には、Aランクの印があった。




------------------------------------------------------------------------------------------------





次回、無駄だというルークの言葉を無視して仲間の元へ戻ろとするウィルたち。その先で見たのは、壊滅した秘密基地でした。

『第32話 仲間たちの安否』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

★★★評価と作品フォローいただけますようお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る