第28話 盗賊のアジト
「……よくこの場所を見つけられたものだな」
「うぉ!?」
秘密基地の周囲を嗅ぎ回っていた男に背後から声をかけた。
驚いて振り返るが、こちらがひとりだと確認すると、下卑た笑みを浮かべる。
「へ、へへっ、盗賊稼業舐めんなよ。確かに上手く隠してるが、よくよく調べりゃ、人が行き来してるのなんざ分かっちまうんだぜ」
なるほど盗賊か。どうりで、追っ手にしては装備が貧弱なわけだ。
「その盗賊が、ここになんの用だ?」
「お前、噂の脱走したFランク民だろ? うちのボスがお前らを憐れんで、仲間にしてやってもいいって言ってんだ」
「断る。憐れまれるいわれはない」
「そう言うなよ。美味いメシに、あったかい寝床もある。そのボロ服ともおさらばできるぜ。悪い話じゃねえだろ」
「断る。どんなエサをぶら下げられても、盗賊に成り下がるつもりはない」
「チッ、そうかよ。それじゃお前ら、この先どうなっても――」
「だが取引くらいなら考えてもいい」
「取引? お前らの魔石とか?」
「ほう、知っていたか。さすが盗賊稼業だな」
やはり魔石の採掘と輸送は、少々目立ちすぎたようだ。今後の課題としよう。
「取引の条件はお前には決められんだろう? お前らのボスと直接話をつける。案内してもらおうか」
「え、お……ち、ちょっと待て。考えさせろ」
この事態は想定外だったのだろう。
おそらくこいつは、こちらが承諾したときと、断ったときの2パターンしか考えていなかったのだ。
承諾ならば、それでよし。もし断ったら、秘密基地の位置を通報する、と脅すつもりだったのだろう。
大方、狙いはおれたちの魔石鉱脈だ。おれたちが仲間になれば、楽に鉱脈と労働力が手に入る。それがダメで通報しても、おれたちは排除され鉱脈だけは楽に手に入る。
だが通報される可能性など初めから考慮している。その恐れがある以上、秘密基地の位置を知る者全員の口を封じるだけだ。
そのためにも、盗賊のアジトの位置を知る必要がある。
「わ、分かった。しょうがねえ、ボスに会わせてやる。ついてこい」
取引に応じ、秘密を守るなら生かしておいてもいい。だがそうでないなら、皆殺しだ。
おれは近くに潜ませていた数人の仲間をつれて、盗賊のあとをついていく。
同行するのは、ゲンとクラリス、ママウルフだ。
「……ん?」
途中、ママウルフが立ち止まる。
「どうした、ママ?」
「こいつとは違う匂いがしたような……」
「どんな匂いだ?」
「……よく分からない。もう消えてしまった。気のせいかもしれないが……」
「気のせいで片付けるわけにはいかん。念のためママは戻れ。ミラたちと周辺を警戒しておいてくれ」
「分かった」
そうしてママウルフと別れてからしばらく。
おれたちは盗賊のアジトに到着した。森の深くにある、石造りの遺跡だった。地上部分はほとんど廃墟だが、地下はまだ崩壊しておらず、なかなか立派な住処となっていた。
いくつかの部屋を経由しながら、奥へ案内されていく。
それら部屋の途中途中で、盗賊たちの生活が見て取れる。
パンやミルク、香辛料たっぷりの肉、甘そうな菓子。おれたちの縁のない食事をしている者がいる。一方で、水と干し肉だけの者もいる。Fランク民だ。
よく見れば服装にも差がある。さすがに収容所のボロ服よりはマシだが、Fランク民はより一層粗末な服を着ている。
「ここは訓練所だぜ」
次に通った部屋では、幾人かが木剣で立ち回っていた。
たったひとりを、複数の男が叩きのめしている。笑いながら。
訓練というより暴行だ。やられているのは、やはりFランク民。それも女だ。
「うっ、ぐうっ」
その女はいよいよ倒れてしまう。
「おいっ、大丈夫か!?」
思わず駆け寄ってしまう。ゲンやクラリスも、ほぼ同時にやってきた。クラリスが助け起こし、ゲンは相手の男たちを睨みつける。
「なぜこんなことをする。この人がなにかしたのか?」
男たちは、薄ら笑いしつつ肩をすくめた。
「そいつ弱いから、鍛えてやってるだけさ」
「一方的に叩きのめして鍛えてるだと?」
おれが抗議すると、しかし、当の女が手を伸ばして制した。
「いい。私が弱いのがいけないから」
「いいわけがない。こんなことを続けてたら死ぬぞ」
すると、なぜか男たちが声を上げて笑い出した。
「あひゃひゃっ、ところが死なねえんだよなぁ」
「こいつ、なんかあっても、ひとりだけ生き残るんだよなぁ。不死身のアメリアっつってな」
「いやいや逆にこいつが周りを死なせてるだけかもよ~?」
「じゃあ死神アメリアか。おっかねえ、離れよ離れよ。お前らも、そいつに構ってると死ぬぜえ」
男たちは笑いながら解散していく。
「ひどい連中だな」
「…………」
アメリアと呼ばれた女は、目を伏せたまま立ち上がる。
「でも、本当のことだから」
それだけ言って背中を向けてしまう。
不思議なことに、あれだけボコボコにされていたはずなのに、大した怪我もしていないらしい。運がいいのか、それとも……?
「おぉい、もういいだろ! さっさとボスんところ行こうぜ」
案内役の盗賊が呼びかけてくる。
「……分かった」
アメリアのことは気になるが、だからこそボスとは話をつけなければならない。
盗賊団のボスは、最奥の部屋でふんぞり返っていた。
「Fランク民如きが、俺たちと取引だ?」
「ああ。こちらに従えば、生かしておいてやる」
おれは早速交渉を始めた。
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※
次回、盗賊との交渉が決裂しかけたその時、アジトに侵入者が現れます。圧倒的な戦力差を見せつけるその男は、Sランクの者でした。
『第29話 Sランクの襲撃者』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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