第27話 女の子はおしゃれがしたい

「なんだミラか」


 ミラが助けを求めてやってくるのは、もはやお馴染みの光景だった。


 伸び放題だった髪は綺麗に整えられている。今日の髪型はツインテール。なかなか似合っているが、本人の意志によるものでないのは明らかだ。


 ミラを追ってきたエレンが犯人だろう。


「ミラ~? おいで~、今日も可愛い髪型の研究させて~」


「やだ。あたしは髪なんて適当にまとめるくらいでいいんだ。放っとけよぅ」


 ミラが仲間になって以来、エレンは彼女に構いっぱなしだ。


 ミラの長い髪に興味津々らしい。


 収容所では男は坊主頭、女は短髪だった。長い髪が珍しいのだろう。そして色々な髪型でおしゃれするのに憧れがあるのだろう。


 脱走から、まだひと月程度。まだまだ髪は伸びていない。そこにミラがやってきたのだ。エレンによって実験台にされてしまったのは当然の流れだったろう。


 ミラは初めのうちは受け入れていたが、だんだんと窮屈に感じるようになったらしい。やがて逃げるようになって、なぜか決まっておれに助けを求めてくる。


「やれやれ。エレン、本人が嫌がってるならあまりしつこくするなよ?」


 一応注意はしておく。しかし、エレンが率先して絡んでいったお陰で、ミラたちがすぐ馴染めた面もある。あまり強くは言えない。


「えー、みんなに好評なんだけどなぁ」


 その場にいたゲンたち保安班員が、うんうんと頷いていたりする。


「ほらね? ミラ、可愛くなるの嫌?」


「べつに、嫌じゃないけど……。最近、変な目で見られてる気がして、ムズムズする」


「変な目? どんな目だ?」


 おれは周囲の仲間たちに目を向ける。


 まさか、新入りに対する、やっかみかなにかか? いやそんなわけがない。


 すると女性陣はともかく、男性陣はなぜか目を逸らした。


 おれはミラにも視線を向ける。


 髪が整えられているせいか、初対面のときとかなり印象が異なる。顔は幼さを感じさせ、溌剌はつらつとした表情は見ていて飽きない。クラリスとはタイプの違う美少女だが、印象的なのは顔だけじゃない。


 発育が良いのだ。


 ミラは女子としては背が高く、出るところのはっきり出た体型だ。年上の女性陣より女性らしい。


 収容所で必要最低限の食事しか与えられていなかった者たちと、野生育ちとはいえ充分な食事を取っていた者との違いかもしれない。


 なのにその服装は、露出度が高い。無意識に、胸元や太ももに目が行ってしまう。


 ちょっとドキドキしてしまうのは、おれの今の身体が15歳の少年のものであり、その少年と人格が統合された影響に違いない。


 おれは改めてその場の男性陣に目を向ける。


「なるほど。これか」


「うん……。今のウィルの目も、ムズムズした」


「ウィル様、えっち」


 ジト目のクラリスが視界に割り込んできた。超至近距離である。


「うぉっ、驚かすな」


 一歩距離を取るが、クラリスは迫ってくる。


「む~」


 と見つめてくるクラリスの視線が痛い。


「わたしだって、髪が伸びればもっと可愛くなるもん……」


「それは間違いないだろうがな」


 するとクラリスは、ぱちくりと瞬きを数回。瞳を下に向けて、口元をにやけさせる。


「え、えへへ」


「とりあえずミラに向けられる視線は、服装のせいだろうな。正直、年頃の男子には刺激が強い」


「服? 刺激?」


 ミラはよく分かっていない。


 一方、エレンはすぐピンと来たらしい。両手を合わせて、こちらにすり寄ってくる。


「じゃあじゃあじゃあ、ウィル様ぁ、お願いなんですけどぉ」


「急に様付けして敬語を使うな、気味が悪い」


「可愛いお洋服とか、調達できない? せめて生地だけでも」


「ふむ……服に関しては、おれも思うところはある」


 収容所で着せられていたボロ服は、動物の毛皮で補強して使っているが、いつまでもそれだけというわけにはいかない。メンバーの多くは、まだ成長期だ。栄養状態が改善されつつある今、いずれサイズが合わなくなるだろう。


 それに、補強して形が変わったとはいえFランク民を示す服だ。今後、外での活動で使い続けるのはリスクとなる。


「分かった、考えておこう」


「やった」


 エレンは小さくガッツポーズ。クラリスも嬉しそうだ。


 ミラは無反応だったが、油断した隙にエレンに捕まっていた。そのまま連れて行かれる。


 騒がしさが去って、小さくため息。


 今のおれたちに生地を作ることはできない。入手するには、取引先を見つける必要があるだろう。


 取引材料には採掘した魔石が使えるだろうが、脱走したFランク民と取引するような相手がいるだろうか。


「ウィル様、少しいいだろうか」


 次に現れたのはママウルフだった。喋るのに慣れたのか、ずいぶん流暢に声を出すようになった。


「どうした? 外の見回りでなにかあったか?」


「怪しいやつがいた。おそらくワタシたちの住処を探している」




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次回、現れたのは付近で活動する盗賊でした。どうやらウィルたちの存在を知り、配下に加えようと考えているようです。脅迫さえしようとする相手に、ウィルは先手を取って交渉を持ちかけます。

『第28話 盗賊のアジト』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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