第23話 救命の改造手術

 急いで秘密基地にママウルフを運び込む。


「お、ウィル様おかえり――うわ、ダイアウルフ!?」


「敵じゃない! 道を開けてくれ!」


 驚く仲間たちを制す。すぐミラたちを先導して、おれの研究スペースへ。


 機械的な兵器の代わりに、生物の部品を使った兵器を作ろうと研究中だった。素材なら多少はある。さらに、秘密基地中から、使えそうな部品をかき集めてくる。


 ツルハシやシャベル、侵入したゴブリンの使っていた剣などの金属。小動物を解体して得た骨や筋繊維などの部品。同様に解体した、ゴブリンの部品。


 ゴブリンの巣で倒したダイアウルフの死骸もあればなお良かったが、取りに行っている時間はもうない。


 それらに加えて、効果の弱い薬草。その少ない貯蓄すべて。


「これで、やるだけやるしかないか……!」


 ミラは赤い瞳を潤ませておれを見つめる。


「ママは治るの? 助かるの?」


「助ける。元通りには治せないが……」


「それでもいい。ママを、お願い……!」


「任せろ。さあ、離れていろ。集中させてくれ……!」


 ミラは素直に従ってくれる。他のダイアウルフたちに寄り添い、こちらをただ見守る。


 おれは大きく息をして集中する。


 集めた素材を、どこに、どのように使うのか明確にイメージできなければ『超兵創造プロメテウス』は使えない。


 まずは『慧眼の賢者ワイズマン』で、すべての素材を解析。ママウルフに移植可能かどうか? できないなら、どうすれば可能になるか? 代替部品や代替手段はあるか? ひとつひとつ検証していかねばならない。


 それができたら、次は設計だ。ママウルフを、どのような改造魔物兵器サイボーグにするか、細部まで決定しなければならない。


「……ウィル様、急いで。わたしの魔力、もうすぐ切れちゃう」


 クラリスがつらそうに訴える。クラリスの魔力が切れたなら、もう時間稼ぎはできない。ママウルフの命は風前の灯火となる。


「分かっている。焦らせるな……っ」


 大規模な手術にはしない。延命のための最低限でいい。


 対処すべきは3つ。


 ひとつ目は、失血。これは難しくない。大量出血箇所に対処してから、他のダイアウルフから輸血すればいい。


 ふたつ目は、右前足だ。致命傷ではないがかなり出血した跡がある。ひどい状態で、もう使い物にならない。切断し、金属で足を作ってやるしかない。そしてそれを稼働させる筋繊維や腱を移植する。


 3つ目は喉の致命傷だ。失われた声帯には、ゴブリンのものを移植する。一回り小さいが、そこは他の生体部品を使って拡張する。


 そして、移植部分を使えるように神経を繋ぐ。それに対応できるよう脳の一部も組み替える。これらは前世の技術をそのまま使えるので容易い。


 これで設計はできた。あとは――。


「ごめん、ウィル様……魔力切れ……」


「くっ、間に合え。耐えてくれ!」


 『超兵創造プロメテウス』、発動!


 ママウルフの体に、数々の素材が移植されていく。神経が繋がり、脳が変質する。


 ダイアウルフたちから充分な血液も輸血した。


 そして、少ない薬草から治療効果を抽出して、微量ながら治療薬ポーションを精製。手術後の消毒や治療に使用する。


「……終わった」


 『超兵創造プロメテウス』による改造手術は終わった。少なくとも、ママウルフの体は改造魔物兵器サイボーグとなった。


 問題は、再びミラのママとして蘇ってくれるか。


 ミラが恐る恐る近寄ってくる。


「どうなったの? ママは……?」


「最善を尽くした。あとは、ママ次第だ」


「ママ……」


 ミラの呼びかけに、ママウルフは反応しない。


「……起きて、ママ。お願い!」


 ミラがすがりつき、より強く訴えても、ぴくりとも動かない。


 みるみるうちに、またミラの瞳に涙が溜まっていく。


 ……失敗、か?


「う……ひぐっ、うぅう……」


 ミラの涙が頬を伝っていく。


 失敗したのか、おれは? この悲しみを止められなかったのか?


 嘘だ。そんなわけがない。これで終わらせてたまるか!


「泣くな、ミラ! もっと呼びかけろ! ママの魂を連れ戻せ!」


 ミラは涙を拭い、泣き声じみた叫びを上げる。


「起きて! お願い、ママ! 置いていかないで! あたしたちともっと一緒にいて! お願い!」


 その声に呼応するように、見守っていたダイアウルフたちも次々に吠えた。訴えるように、願うように。


 そして、このおれも。


「早く……早く起きてやれ! お前を想う家族を置いていくな! 戻ってきて、また未来を刻めよ! おれも欲しかった未来を……!」


 それでも反応はない。


 いよいよ諦めの空気が漂い始めた、そのとき――。


 ゆっくりと、ママウルフの目が開かれた。


「ママ……?」


 ミラは、ぽろり、と大粒の涙をこぼす。


 その涙を、ママウルフは鼻先で拭ってやる。


「ママ! ママぁあ!」


 喜びに任せ、ミラはママウルフに抱きついた。


 他のダイアウルフたちも、尻尾を激しく振りながら駆け寄ってくる。


 その歓喜の光景に安堵する。密かに拳を強く握り、嬉しさを噛みしめる。


「……ウィル様、やったね」


 クラリスが微笑んで寄り添う。


「ふ、ふん。やはり、この天才に不可能はなかったということだ」


「ふぅん」


 するとクラリスは、悪戯っ子みたいにニンマリと笑った。


「泣きべそかいて頑張ってたのに、強がり言っちゃうんだ」


「う……っ」


「みんなには黙っててあげる。わたしたちだけの秘密」


「や、約束だからな……」




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