第24話 38人目の仲間
落ち着いたあと、ミラはこちらに駆け寄ってきた。ママウルフも、義足をぎこちなく動かしてついてくる。
「ありがとう、ママを助けてくれて……!」
「ア、リガト……」
「……っ!?」
ママウルフが声を発した瞬間、ミラは絶句した。ママウルフ自身も驚き戸惑っている。
「ママが喋った……?」
クラリスも目を丸くして、おれを見上げる。
「ウィル様が、やったの……?」
「まあな。移植した声帯を使えるようにするついでに、少し脳改造しておいた」
犬や狼は、吠えて感情や意思を伝えるという。それは人間が言葉を使うようなものだ。
だがママウルフに移植した声帯では、以前のように吠えられない。
そこで、吠える代わりに、伝えたい感情や意思が言葉として出てくるようにしてやったのだ。
ママウルフはもともと言葉を理解している様子だったから、その辺りを利用すればそう難しい改造でもなかった。
「そんなことまでできるなんて、すごい……。ありがとう、えぇと……」
ミラはおれとクラリスを見て、少し困った顔をする。
「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。おれはウィル。こっちはクラリスだ」
「うん。ありがとう、ウィル! ありがとう、クラリス!」
「アリガトウ……」
ミラとママはまた揃って礼を言う。その仕草はどこか似ていて、人間と
「お礼、しなくちゃ。お前たち、なにかして欲しいことはあるか? あたしたちにできることなら、なんでもする」
「なら、お前たちが住処にしてる洞窟で採掘させてくれ。おれたちはもともと、魔石を探してあそこに辿り着いたんだ」
「そんなことでお礼になるなら、いくらでもやっていいけど……」
ミラは少しだけ表情を曇らせる。
「なにかまだ問題があるのか?」
「お前たちが掘るのに、あたしたちが住んでたらお互いに邪魔だろ。次の住処を探さないと……」
「なんだ。それならいい場所がある」
「お前らがやっつけたゴブリンの巣か? 広くて住みやすい洞窟なんだろうけど、あいつら不潔で臭いから……」
「いや、違う。いい場所というのは、ここだ」
「ここ? 住処を交換するのか? あたしたちはいいけど、お前たちは向こうに入り切らないぞ」
「そうじゃない。お前たちも、ここで一緒に住めばいい」
「それって……」
「おれたちの仲間にならないか」
「仲間……」
ミラは小さく首を振って、一歩退いた。
「お前たちには本当に感謝してる。信用も、できると思う。……でも、嫌だ。どうせいつか、また捨てられるんだ……。あたしは人間と一緒にいられない。本当の両親でさえ、あたしを捨てたんだから……!」
それは拒絶というより怯えに見えた。愛する誰かに捨てられる恐怖。
ミラはもう一歩下がろうとする。
けれどママウルフの体が、それを止めた。むしろ押し返す。
手を差し伸べれば届く距離に戻って来る。
「ママ……どうして?」
「ワタシ、は、ミていた……。アナタは、ネムっていたからシらないけれど……。スてるトキ、アナタのオヤは、ナいていた」
「泣いてた……?」
「スてないと、コロされる、とイっていた。ナンドもアナタに、イきて、とイっていた」
「……殺される?」
「アナタを、スてたくて、スてたんじゃない。きっと」
おれはふと思い至り、ミラを『
身体能力、魔力の質・量ともに、一般庶民程度の水準。スキルもひとつ所持している。本来なら、最低でもDランクにはなるはずだ。
けれど、所持しているスキルこそが、Fランクとされた原因であり、殺される可能性のあった理由だ。
そのスキルとは『
森に捨てられたミラが、ダイアウルフに家族として育てられたのは、この能力を無意識に使っていたからだろう。
有用な能力だ。使い方次第では、強力な軍勢を作ることだってできる。このスキルひとつでA~Bランクになっていてもおかしくない。
だがこの王国では、
その邪悪と絆を結ぶスキルも当然、忌むべきものとされる。所持者は忌み子として、便宜上Fランクとされ、収容所に送られることなく殺処分されることとなっていたはずだ。
ミラの両親はそれに逆らった。我が子が殺処分される前に捨てた。そのスキルで生き延びることを見込んで。
どんな刑罰が待っているかも知っていながら。
「両親は、処刑されただろう……。それを覚悟して、お前を捨てた――いや逃がしたんだ」
おれがひと通り説明してやると、ミラは膝から崩れ落ちた。
「じゃあ、あたしの、本当の両親は……」
「たとえ殺されても、愛するお前だけは生かしたかったんだ」
「……おかあさん……おとうさん……」
涙ぐむミラに、おれは手を差し伸べる。
「ミラ、おれたちはお前を忌み子扱いなんかしない。ここにいるのは、お前と同じように不当な扱いを受けて苦しんだ者ばかりだ。同じ、仲間だ。捨てたりなんて絶対しない」
「いいの……? あたしたち、迷惑じゃない……?」
「迷惑なものか。万が一、忌み子狩りに見つかったところで、どうせおれたちも追われる身だ。身を守るために戦うだけだ。一緒にな」
「一緒……」
ミラは、おれの手に恐る恐る手を伸ばす。その指先が触れた瞬間、おれはその手を強く握りしめた。決して離さないと示すように。
「歓迎するぞ、ミラ」
「……うん。信じるよ。信じたからな、ウィル……!」
38人目の仲間と、6頭のダイアウルフは、温かく迎え入れられたのだった。
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※
次回、ウィルたちを殲滅せんと行方を探すダミアンとルーク。ふたりは秘密基地近くのギルスの町にまで迫っていました。
『第25話 番外編③ 脅威、接近中』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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