第16話 新武装、その名は魔法銃

 食料調達班が逃げ帰ってきたと聞き、おれはすぐ彼らの下へ走った。


 見たところ大怪我はしていないらしい。安堵して、問いかける。


「追っ手に遭遇したのか?」


「違う。ゴブリンだ。やつらの縄張りに入っちまった」


 ゴブリンとは、小さく醜いが知恵のある亜人系の魔物モンスターだ。群れで洞窟などに住み着き、近隣の村や町を襲う。獣系の魔物モンスターを飼い慣らし、移動手段や戦力に使うこともあるという。


「す、すまねえウィル様。魔法札スペルカードのお陰で逃げられたけど……足跡を消す余裕はなかった。もしかしたら……」


 そのとき、鳴子がなった。侵入者が縄に足を引っ掛けたら鳴るように仕掛けておいたものだ。複数の足音が、どんどん近づいてくる。


「侵入されたぞ。すぐ保安班を招集! クラリスも呼べ!」


「もういるよ、ウィル様!」


 クラリスはすぐおれの隣に並び立つ。


 そしてゲン以下、保安班も駆けつけた。


 非戦闘員を奥に避難させ、残った者は防御陣形を取り、侵入者を待ち受ける。


 やがて姿を現したのは、やはりゴブリンだった。武装している。刃こぼれした剣と木盾を持つ者、弓矢を持つ者、先端に鉱石の付いた杖を持つ者もいる。


 おれは『慧眼の賢者ワイズマン』で解析。戦力としては一般的なゴブリンよりやや上。杖を持った者が要注意だ。杖の先端に付いている鉱石は、魔力を蓄えた魔石だ。ゴブリンは大した魔力を持たない亜人だが、魔石を使えば、かなりの威力の魔法を使えるだろう。


「ケケケ、こんなところに、ニンゲンがいやがった……」


「オンナもいるぞ、ヒヒヒ、またコヅクリできる」


 醜く笑うゴブリンどもを一瞥し、おれは仲間たちに指示する。


「ここを知られた以上、皆殺しだ。一匹でも逃がしたら、次は群れで襲ってくるぞ」


 すると、ゴブリンどもはますます大声で笑い出した。


「アヒャヒャヒャ、こいつバカだ! オレたちシってる! オマエたちのテのシルシ、ヨワいやつのアカシ! ニンゲンでイチバンヨワい! オレたちにカナうわけない!」


「ウヒャヒャ、バカ、バカ!」


 残念だが、Fランク民がゴブリンより弱いのは事実だ。


 実際、食料調達班は逃げるしかできなかった。比較的戦闘に向いている保安班でも、武装したゴブリン相手では、数人がかりで一匹倒せるかどうかだろう。


 だが、ここにはおれもクラリスもいる。


 舐めた態度を取ったツケは払ってもらう。


「クラリス」


 視線と共に声をかけると、小さく頷く。


「ザコ、ザコ! ゲーッケッケ――ゲブッ!?」


 次の瞬間、杖を持ったゴブリンの首が切断された。醜い笑みのまま頭が地面に転がる。


「アヒッ!?」


 ピグナルドが使っていた真空波の魔法を、クラリスがさらに洗練させたものだ。魔力の質が悪くても、ピグナルドと同等の威力を出せるようになっている。


 クラリスは冷たい笑みを浮かべた。


「あれぇ、ザコって自分のこと言ってたのかなぁ? あはは、ザコだ。ざぁーこ」


「ア、ウ? ナンだ、ナニがオこった?」


 残ったゴブリンどもが一斉に怯む。その隙に、おれは前に進み出て、ゴブリンの持っていた杖を拾った。魔石を取り外し、改めて解析する。


「ふむ……。使えるな、これは」


 さっそくスキル『超兵創造プロメテウス』を使う。魔法札スペルカードと、この魔石。ふたつを組み合わせた兵器を創造してみせる。


 出来上がったのは、木製の拳銃のような形の武器だ。魔石が埋め込まれている。


 弓矢を持ったゴブリンに狙いを定め、引き金を引く。


 すると魔法が発動した。圧縮魔力が発射され、ゴブリンの眉間を撃ち抜く。


 仰向けに倒れた死体を見て、最後の一匹はますます混乱した。


「アィエ、ナンデ!? ナンデ、カンタンにシぬ!? オマエら、ヨワいはず!」


 ふむ。この新しい武器は、魔法銃スペルシューターと名付けよう。


 まだまだ改良の余地はあるが、上出来だ。やっと兵器らしい物を作れた。


 ゲンに魔法銃スペルシューターを手渡す。


「ウィル? これは?」


「見ての通り、新しい武器だ。こう持って、狙いをつけて、引き金を引く。すると魔法が発射される。魔石を使っているから、威力は一定だ。魔力のほぼないお前でも使える。やってみろ」


「あ、ああ、こうか?」


 ゲンは魔法銃スペルシューターをゴブリンに向けて発射。


 狙いは外れて盾に命中。容易く貫通した。


「ヒ、ヒィィ!」


 ゴブリンは盾も剣も手放して逃げ出した。


「逃がすな。おれたちの位置を群れに知らされるぞ」


「分かってる」


 ゲンは今度はしっかりと狙いを付けて発射した。見事背中に命中。ゴブリンはその場にうつ伏せに倒れる。


 まだ死んではいない。這いつくばって必死に逃げようとする。


「一発で急所に当てるのは難しいからな。どこかに当てて動きを止めたら、近づいてトドメを刺すといい。こうやって、な」


 おれはゴブリンの背中を踏みにじり、銃の形に見立てた指先から圧縮魔力を放った。頭部を撃ち抜く。


「あ、ああ、わかった。しかし凄いな、この武器は」


 ゲンは神妙に魔法銃スペルシューターを見つめる。他の保安班も物珍しそうに覗き込む。


「すげえ、これ魔導器ってやつだろ。魔石で魔法を使えるってやつ」


「でも魔導器って、上位の魔法使いにしか作れないんじゃ?」


「それだけウィル様がすげえってことさ!」


 そんな声につられて、避難していた仲間たちも戻って来る。撃退に成功したと気づき、喜びの声を上げ始める。


「やったぁ! ウィル様がいれば怖いものなしだ!」


「ウィル様、かっこいい!」


「おいおい、喜ぶのはいいが、まずは死体を片付けるぞ。外に残してきてしまったという足跡も消しに行かないとな」


 おれたちは後処理をして、やっと一息つく。


 これで基地の秘密はまた守られるはずだ。


 しかし、ゴブリンの縄張りが近いのなら、新しい素材の収集は食料調達班には荷が重いだろう。


 次はおれが自ら行ったほうが良さそうだ。




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