第16話 新武装、その名は魔法銃
食料調達班が逃げ帰ってきたと聞き、おれはすぐ彼らの下へ走った。
見たところ大怪我はしていないらしい。安堵して、問いかける。
「追っ手に遭遇したのか?」
「違う。ゴブリンだ。やつらの縄張りに入っちまった」
ゴブリンとは、小さく醜いが知恵のある亜人系の
「す、すまねえウィル様。
そのとき、鳴子がなった。侵入者が縄に足を引っ掛けたら鳴るように仕掛けておいたものだ。複数の足音が、どんどん近づいてくる。
「侵入されたぞ。すぐ保安班を招集! クラリスも呼べ!」
「もういるよ、ウィル様!」
クラリスはすぐおれの隣に並び立つ。
そしてゲン以下、保安班も駆けつけた。
非戦闘員を奥に避難させ、残った者は防御陣形を取り、侵入者を待ち受ける。
やがて姿を現したのは、やはりゴブリンだった。武装している。刃こぼれした剣と木盾を持つ者、弓矢を持つ者、先端に鉱石の付いた杖を持つ者もいる。
おれは『
「ケケケ、こんなところに、ニンゲンがいやがった……」
「オンナもいるぞ、ヒヒヒ、またコヅクリできる」
醜く笑うゴブリンどもを一瞥し、おれは仲間たちに指示する。
「ここを知られた以上、皆殺しだ。一匹でも逃がしたら、次は群れで襲ってくるぞ」
すると、ゴブリンどもはますます大声で笑い出した。
「アヒャヒャヒャ、こいつバカだ! オレたちシってる! オマエたちのテのシルシ、ヨワいやつのアカシ! ニンゲンでイチバンヨワい! オレたちにカナうわけない!」
「ウヒャヒャ、バカ、バカ!」
残念だが、Fランク民がゴブリンより弱いのは事実だ。
実際、食料調達班は逃げるしかできなかった。比較的戦闘に向いている保安班でも、武装したゴブリン相手では、数人がかりで一匹倒せるかどうかだろう。
だが、ここにはおれもクラリスもいる。
舐めた態度を取ったツケは払ってもらう。
「クラリス」
視線と共に声をかけると、小さく頷く。
「ザコ、ザコ! ゲーッケッケ――ゲブッ!?」
次の瞬間、杖を持ったゴブリンの首が切断された。醜い笑みのまま頭が地面に転がる。
「アヒッ!?」
ピグナルドが使っていた真空波の魔法を、クラリスがさらに洗練させたものだ。魔力の質が悪くても、ピグナルドと同等の威力を出せるようになっている。
クラリスは冷たい笑みを浮かべた。
「あれぇ、ザコって自分のこと言ってたのかなぁ? あはは、ザコだ。ざぁーこ」
「ア、ウ? ナンだ、ナニがオこった?」
残ったゴブリンどもが一斉に怯む。その隙に、おれは前に進み出て、ゴブリンの持っていた杖を拾った。魔石を取り外し、改めて解析する。
「ふむ……。使えるな、これは」
さっそくスキル『
出来上がったのは、木製の拳銃のような形の武器だ。魔石が埋め込まれている。
弓矢を持ったゴブリンに狙いを定め、引き金を引く。
すると魔法が発動した。圧縮魔力が発射され、ゴブリンの眉間を撃ち抜く。
仰向けに倒れた死体を見て、最後の一匹はますます混乱した。
「アィエ、ナンデ!? ナンデ、カンタンにシぬ!? オマエら、ヨワいはず!」
ふむ。この新しい武器は、
まだまだ改良の余地はあるが、上出来だ。やっと兵器らしい物を作れた。
ゲンに
「ウィル? これは?」
「見ての通り、新しい武器だ。こう持って、狙いをつけて、引き金を引く。すると魔法が発射される。魔石を使っているから、威力は一定だ。魔力のほぼないお前でも使える。やってみろ」
「あ、ああ、こうか?」
ゲンは
狙いは外れて盾に命中。容易く貫通した。
「ヒ、ヒィィ!」
ゴブリンは盾も剣も手放して逃げ出した。
「逃がすな。おれたちの位置を群れに知らされるぞ」
「分かってる」
ゲンは今度はしっかりと狙いを付けて発射した。見事背中に命中。ゴブリンはその場にうつ伏せに倒れる。
まだ死んではいない。這いつくばって必死に逃げようとする。
「一発で急所に当てるのは難しいからな。どこかに当てて動きを止めたら、近づいてトドメを刺すといい。こうやって、な」
おれはゴブリンの背中を踏みにじり、銃の形に見立てた指先から圧縮魔力を放った。頭部を撃ち抜く。
「あ、ああ、わかった。しかし凄いな、この武器は」
ゲンは神妙に
「すげえ、これ魔導器ってやつだろ。魔石で魔法を使えるってやつ」
「でも魔導器って、上位の魔法使いにしか作れないんじゃ?」
「それだけウィル様がすげえってことさ!」
そんな声につられて、避難していた仲間たちも戻って来る。撃退に成功したと気づき、喜びの声を上げ始める。
「やったぁ! ウィル様がいれば怖いものなしだ!」
「ウィル様、かっこいい!」
「おいおい、喜ぶのはいいが、まずは死体を片付けるぞ。外に残してきてしまったという足跡も消しに行かないとな」
おれたちは後処理をして、やっと一息つく。
これで基地の秘密はまた守られるはずだ。
しかし、ゴブリンの縄張りが近いのなら、新しい素材の収集は食料調達班には荷が重いだろう。
次はおれが自ら行ったほうが良さそうだ。
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※
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