第3話 覚醒、前世の記憶
「ウィルのお陰で助かったぜ!」
「ああ、命の恩人だ」
その日、15歳になったぼくは、
ぼくの班は4人。他の班は、何人も死傷者が出ていましたが、ぼくたちは無傷でした。
いつかこの日が来ると覚悟していたぼくは、この5年間、生き延びるために密かに魔法の技を磨いていたのです。そのお陰で自分と仲間を救うことができたのです。
「これ、お礼」
そうして仲間と夕食を囲む中、この班唯一の女の子――エレンが、食事の一部をぼくに分けてくれました。
「オレのもやるよ」
「俺のも。もらってくれ」
続いて、口の悪いジョウ、冷静なゲンのふたりも、少ないおかずを切り分けてくれました。
味はともかく、量が増えるのはとても嬉しいです。
「ありがとう。でもこれ、バレたら困るんじゃ……」
「黙ってりゃわからねえさ。クソ監督官どもにチクるやつはいねえだろ」
「やりそうなやつならいる。クラリスって女さ。監督官長のお気に入りの。命令だからって、仲間に魔法を浴びせるようなやつだ」
「よしなさいよ。あの子だって拒否したらひどい目に遭わされるから仕方なくやってるのよ」
噂のクラリスは、ぼくも知っていました。
たしかにお気に入りという様子で、監督官長はなにかと彼女に物事を押し付けています。命令されるたび、彼女が怯えているのは明らかでした。
「じゃあやっぱ悪いのはクソ監督官長ってわけかよ。あのブタ、頭の中まで脂肪が詰まってんじゃねーの?」
「ジョウ、さすがに言い過ぎ」
監督官たちの話題はさておき、。ぼくたちは談笑しつつ食事を終えました。
とてもいい気分でした。Fランク民になって初めて友達ができたのです。
翌日、ぼくたちの班はまた
先に来ていたゲンとエレンに合流したところ、数人の監督官を引き連れて監督官長のピグナルドがやってきます。
「ふん、全員揃ったな」
「いいえ、ジョウがまだ来ていません」
ぼくがすぐ否定すると、ニタリといやらしい笑みが返ってきました。
「なんだお前、まだ知らんのか? 呑気な顔をしおって」
「どういうことですか?」
「仲間の姿を見てみろ」
そのとき初めて気づきました。ゲンもエレンも、アザだらけになっていたのです。昨日は無傷だったのに。
「ゲン、エレン、なにがあったの……?」
ふたりは答えません。ただ、なにかをこらえるように握りこぶしをブルブルと震えさせています。
「そいつらには、お前に食事を分け与えた罰をくれてやった」
「そんな……」
「ジョウとか言うやつは、この私の悪口を言っていたばかりか、罰の最中でも悪態をつきおってな。より厳しい罰を与えてやったよ。だが……ぐふふっ、途中で力尽きおったわ」
「まさか……殺した……!?」
「違うな。やつが死んで罰から逃げただけだ。Fランク民らしい卑怯さよ。次はお前だ」
「その程度のことで、よくもそんな――うぐっ!」
抗議のために前に出たぼくを、近くの監督官が殴りつけてきました。
「上位ランクに楯突くことがどれ程の罪かわからんのか! 能無しでウジ虫同然の貴様らの面倒を見てやっている恩も忘れおって!」
倒れたぼくを、監督官たちは何度も何度も足蹴にしてきます。
「貴様らもなにを見ている! さっさと行け! 騎士殿に指示を仰ぎ、
ゲンとエレンの顔が青ざめるのが見えました。
ただでさえ班員が欠けているのに、ぼくの魔法もなしでは悲惨な結果になるのは明らかです。
「あ、あんまりです! ぼくも一緒に行かないと、ふたりとも死んでしまいます!」
「黙れ、それも罰のうちだ! Fランクの分をわきまえなかった貴様らの責任だ! それとも今すぐ仲間の後を追いたいか!?」
ゲンとエレンは、悔しそうにしながらも、仕方ないという様子で歩き出します。
「行っちゃダメだふたりとも!」
「黙れというのがわからんか!」
ピグナルド監督官長に顔面を思い切り蹴飛ばされて、意識が途切れかけます。
なんで、ぼくが……ぼくたちがこんな目に遭わなくちゃいけないのでしょうか?
能力が低いことやスキルを持たないことは、人として生きる権利を失うほどのことなのでしょうか?
あまりに不当です。こんなことは許せないと、前にも思っていたのに……。
――前にも?
ああ、そうです、思い出しました。ぼくには――いや、おれには経験がある。
急速に記憶が蘇る。ウィルとしての記憶と精神が、眠っていたもうひとつの人格と統合されていく。
そのもうひとつの人格は、こことは異なる世界で死んだはずだった。
あの世界では、おれの天才的な頭脳は認められず、マッドサイエンティストなどと蔑まれ、不当に排斥された。だから技術の粋を尽くして秘密結社を作り上げ、世界に挑戦したのだ。
そうして存分に力を示した果てに、ヒーローと呼ばれる宿敵どもとの決戦に臨み、死んだ。
そして――なるほど、どうやらおれはこの異世界で、ウィルという少年に生まれ変わっていたらしい。信じ難いが、いわゆる異世界転生を果たしたのだろう。
おそらく、再び不当な扱いを受けたことと、頭部への衝撃がトリガーとなって、前世の記憶が蘇ったのだ。
ならば、前世と同じように力を示すのみだ。
「どうした、罰はこれからだぞぉ!」
再び放たれた蹴りに対し、収束した魔力を放つ。
「うぉ!?」
足を弾かれバランスを崩したピグナルドは無様に地面に転がった。思わぬ反撃に、他の監督官も驚き、一瞬動きが止まる。
その隙に、素早く魔法を連射する。ただ衝撃を与える基礎的な魔法だが、不意打ちなら倒せるだけの威力はある。
監督官たちがバタバタと倒れ込む中、おれはゆっくりと立ち上がり、ピグナルドを見下した。
「ブタが。思い知らせてやる」
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※
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