第41話 弱くなるならダメだよ?
(……さて……どうしたものか)
自己中心的で、下手をしたらパートナーには、ありがた迷惑になってしまうかもしれない提案を思いついたはいいものの、実行に移すには具体的に何をどうしたらいいのか分からない。
博士達に連絡を入れようかと考えるも、連絡先を知らなかった。
瑠璃乃に訊けばどうにかなるかもしれないが、この策を実行するに当たり、彼女には出来るだけ勘付かれたくなかった。
サプライズ的というか、自然な流れで普通の体にしてやりたかった。
心配させず、気遣いもさせず、瑠璃乃も自分も誰もかも傷付かず、気付いたら人間になっていたと……いうのが
人生で、かつて無いほど気力も漲るほどに充分。
だが活かす術が無い。
どうしたものかと永遠は富美子の作った朝食をゆっくりと咀嚼しながら、向かいの席で両方の手で頬杖を着いて食事をする自分を満面の笑みで見守る瑠璃乃の顔を伺い、思案してみた。
(……そもそも僕の悩みは答えが最初から決まってるもののほうが多い。
ただ答えるのを怖がってるか迷ってるかのどっちかだ。
今だってそうだ。
踏み出す脚はもらってるんだ。
勇気を出せ永遠!
躊躇って脚がもつれて転ぶ前に踏み出せ永遠!
伝説のプロレスラーも言ってたじゃないか。
踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ行けばわかるさって……。
信じるんだ。
自分が無理ならこの子の願いを。
さぁ、踏み出せ永遠っ‼)
「瑠璃っ乃ぉっ!!!」
「なぁに?」
急に素っ頓狂な声を上げる永遠を訝しがることもなく、驚いて食事を中断せざるをえない富美子の隣で瑠璃乃が首を傾げる。
「きっ……君はさぁあっ……? ご飯を食べたいちょは思わないの? ……ですか?」
永遠の挙動不審にも程がある上擦った声での問いに、瑠璃乃の目が大きく開き、ごきげんに前後にパタパタと動かしていた足も止まる。
瑠璃乃だけではない。
富美子も箸を止め、料理だけではないものをゆっくりと飲み込んだ。
「……君さえよければなんだけど……あの……その……こっ、今晩いっしょに食事でもどうです……か?」
(しまった! アダルティーでいやらしい誘い方になってしまった!)
頬に伝ってくる幾筋もの汗を冷たく感じながら永遠は精一杯の平静を装う。
永遠の誘いに瑠璃乃はすぐに応えることができない。
富美子も同じように目を丸くしながら動かない。
食卓が静止した。
「…………わたしがご飯食べると、永遠はうれしい?」
様々なこと。
気遣いや遠慮などが頭を巡ったのだろう。
瑠璃乃が間を置いて目を伏しながら問い返す。
「そりゃ、嬉しいよ。自分だけ食べるってのも何だか申し訳ないし……」
「……そっか」
「私も嬉しいわよ! 瑠璃乃ちゃん」
富美子が挙手をした。
急かしたり無理強いしたりするつもりは無かった。
ただ息子の奮起に同調するように気付いたら口が動いていた。
「一つ屋根の下にいるんだもの。同じお釜のご飯を一緒に食べたいじゃない?」
「そ、そうだよ! いっしょに暮らすんだからさ! ……君さえ良ければ、これからのこともあるんだし……」
これからのこと。
少なくとも今現在、永遠は、これからも自分を必要としてくれている。
瑠璃乃はそれが嬉しくて胸が熱くなるのを感じた。
自分を必要としてくれる人達に応えたい。
受け容れてくれる優しい人達と体験を共有したい。
〝いっしょ〟がいい。
いくら本心に蓋をしても、それが最も欲するものだった。
それを自覚してしまうと、体が勝手に規則正しい鼓動を打ち始める。
このまま体が望みに身を委ね、永遠と同じ存在になってしまおう。
瑠璃乃の視界が薄桃色に染められていく。
永遠の顔が見える。
少し眉が八の字になっていて、いつも何かに困っているような表情。今もそうだ。
だが、彼の優しさも知っている。
その優しさに自分は許されている。
優しさに寄りかかることができる幸せを噛みしめながら瑠璃乃は目を閉じる。
鼓動が速度を上げながら全身に広がっていく。
人間になってもいいんだよね?
全幅の肯定を求め、瑠璃乃が心の中で永遠に尋ねる。
淡い光の中で笑っている永遠は温かく頬笑んで口を開く。
――弱くなるならダメだよ?――
瞬間、瑠璃乃の視界は通常の色を取り戻し、鼓動は消え失せた。
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すみません!
最近ちょっとボリュームが少ない回が続いていますよね?
新年の空気にあてられたのか、お恥ずかしながら、知らない間にパソコンの前で書いている途中に寝てしまったようで、気付いたら朝……ということが続いてしまいました(泣)
これからは、苦いけれど水出しのコーヒーを頑張って飲んで、読み応えを死守できるように努めますので、どうか見捨てずにお付き合いくださると本当に嬉しいです!
……それでもボリュームがないときは察していただけると本当に助かります😢
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