第7話 先輩記者のありがたいお話 その2 後輩は帰りたくてしかたない


「……そして、近い将来に訪れることが確実視される、人類がいまだかつて遭遇したことのない威力の大規模磁気嵐に備え、太陽そのものを調査する目的での基地としても機能する人類史上最大の建造物……軌道エレベーターの建設を取り仕切るまでに至る。

 まさに地球の未来を照らす星々になり得る人材が、今こうやって目の前で星座を作ってると言っていい」


「あ~~! 何だかうまい事ゆった感じ出してドヤ顔してる! 古谷さん、それ心の広いワタシ以外の前でやるとヒかれますよ! 赤ペンですね、

あ・か・ペ・ん!」


 嘲笑まではいかないが、同級生にみせるイジりと全く変わらないそれを部下から向けられ、古谷は青筋が立った。


 しかし、同じレベルに落ちてはいけないと却って怒りを封じることができたのだった。


「……世界各国の原発の一斉メルトダウン。

 取引所のシビアクラッシュ。

 2000兆円以上の家計金融資産一斉窃盗……詳細はまた教えてやるが、その他もろもろの社会の敵を自らの味方として活用し、機会平等社会の仕組みを創り上げた。

 財政にも大きな余裕が生まれ、格差も大きく是正し、学びたい奴は勤勉で優秀でさえあればハルジオンから返さないでいい奨学金を与えられ、どこまでも上を目指せるようにもなった。

 だからよ、恩返しっつう意味もあるのかもな。ここにいる連中は……」


「古谷さんみたいに捻くれてなかったらきっとそうですよ!」


「うるせえよ! ……まぁ、間違いなく人種国籍問わず、新しい平等の上での競争を勝ち抜いて登ってきた頭脳五輪金メダリスト級だけが集まってんだ。善人であることを願うぜ……」


 それは古谷個人の願望にも近いものだった。


「……それと、後はさすがのお前でも知ってるだろ。災害の人工処理だ」


「ああっ、あの大男の集団がくんづほぐれつするやつですね」


「表現に赤ペン入るが、まぁ、そうだな」


 古谷がやっと笑った。方頬を上げてのシニカルスマイルだったが、新垣を調子付かせるには充分だった。


「あ! それに思い出しましたよ! お医者さんにかかってもイリョーヒゼロなのもここのおかげなんですよね?」


「カロリーゼロみたいに言うな。……そうだな。有り余っても蓄えない富は、そういった福利厚生を国から肩代わりできるまでになった。もっとも、医療分野でもブレイクスルー連発して、そもそもの医療費を抑え込んでるのも大きいが、ここがなきゃ誰もが寿命で死ねる社会の実現はなかっただろうぜ」


「ほ~ほ~。考えてみるとスゴいですよね~。トカゲじゃないのに、無くなった腕とか脚まで生やせるんですもんね。ほんと、ハルジオン様々ですね」


 ひとり感心して小さく手を打ち鳴らす新垣を横目に見遣ってから、古谷は諦観を宿したような複雑な眼差しで彼女から目を逸らす。


「……そうだな」


 そして、改めて古谷の視線が貴賓席に腰掛ける歴々に向けられる。その顔ぶれを見れば、国際規模でのハルジオンの存在感、格の程度が一目瞭然に計り知れた。


「あっ! 古谷さん! 総理大臣も来てますよ、スゴい‼」


 古谷の説明をほぼ右から左にした新垣の興味は、すでに別のものへと移っていた。


「ちっ。……頼まれなくてもそりゃ来るだろうさ。ここがなきゃ震災からの復興んとき、社会保障費まで手が回らず、それを他国からの非道く不安定な援助に頼らざるを得ない状況を救ったのもここだ。子供の結婚式だって蹴るだろうぜ」


「あと、財務大臣に防災省長官と外相、友好各国駐日大使とか偉い人ばっかり!」


「だから話を聞けっ! ……大使の顔が分かるたぁ、少し見直したぜ」


「今日、入社式に来る人達って映ってましたから! 配信と配信の間のお邪魔なニュースで。あれ何で流すんでしょうね? 早く次の番組みたいのに、空気を読んでほしいですよまったく!」


「お前みたいな世間知らずを増やさないための配慮だよ! ……見直して損したぜ。ったく。お前も記者の端くれなら、少しは自分の携わるもんでも勉強しとけよ」


「え~、イヤですよ~。字ばっかりで読みにくいし」


「お前そもそも何で聞屋になったんだよ⁉ つうか何でなれたんだよ⁉」


「親のコネです!」


 新垣は堂々と悪びれるでもなく胸を張って言い切った。


「偉そうに言うなっ‼ ……はぁぁ。ま、そんなお前でも分かるお偉いさんが、わざわざ来てくだすってんだ。あくまでも民間企業の入社式にな。それだけで、この世界でハルジオンがどれだけの影響力を持つかが分かるってもんだろう」


 古谷が含みのある褒め言葉をぶっきらぼうに口にしてすぐ、ホールに式の開始を知らせるアナウンスが流れた。その透き通るような案内に場内が静まりかえる。


「お、始まるな。おい、決めるとこだけは決めてくれよ?」


「任せてください! カメラだけは信念持ってるんで!」


 新垣が意気揚々とカメラを構える。


「あれ? 暗い? なんで? ……あっ、レンズキャップ付けたまんまだった!」


 古谷は呆れて頭を抱え、深く深く息を吐き出した。





―――――――――――――――――――――――


※すみません!


ちょっと……と言うか、だいぶいつもより短くなってしまいました!

次回は頑張りますので、どうか今回だけは間に合わなかったんだな~って温かい目で許してくださるとありがたいです!

……ごめんなさい。今回だけじゃないかもしれません。見栄張りました。

けど、目指せ一日5000文字の目標だけは掲げ続けようと思います!!

……でも、5000文字って長くて読んでくださる方の負担になってしまうんでしょうか⁉

最適な文字数が分からない(泣)

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