第1話その6 OneeChanを妹に

誰かが、私を呼ぶ声が聞こえる。


「……由愛、由愛……。」


「だ……誰……ですか…。」


「……良かった、目覚めた。」



目を開けてみると、私の体は綺麗な女の人に抱えられていることに気づいた。


その女の人は銀髪で、褐色の肌をしていて、黄色の瞳でじっとこちらを覗いていて……なぜか少し見覚えがある。


記憶をたぐっていくと、名前だけはなんとなく思い出せた。



「クロリアさん……でしたっけ。」


「……そう。ちゃんと覚えてた。」


「あの……今、何があったんでしょうか。」


「……由愛は多分頭を打って、少しの間気を失ってた。」


「そ、そうなんですか?」



確かに、いまいち記憶が思い出せない感じがする。この人とあってから、今に至るまでがかなり虫食いになっているようだ。


でも、頭を打ったという割には、頭のどこにも痛みを感じない。



「あ、あの……。」


「……?」



声だけ先にだして、何を言うのか考えていなかった。


沈黙の気まずさに耐えられなかったからだ。こんな、綺麗なお姉さんと二人っきりなんて……。


『ツッッッッ!?』


突然左肩から、激しい刺激が走り、心臓まで届いた気がした。


少し息が荒くなり、頭がぼーっとする。



『なんで……、だろ、私、ほとんど病気になったこともないのに……。』


「……大丈夫?由愛。」


『あ、お姉さん……、心配、してくれてる……?』



クロリアさんはなぜか私の名前を知っている。きっと虫食いになった記憶のどこかで教えたのだろう。


なぜかクロリアさんに名前を呼ばれると、落ち着いた気持ちになる。心配されてるかもと思うと、うれしい気持ちになる。



体をさすってくれるのに任せて、クロリアさんに身を寄せてしばらく休んでいた。





階段の方からドタドタと音がして、その後、"ゴン!"と一つ大きな音がした。


私は慌ててクロリアさんから離れた。こんな姿は見せられないと、そう思ったからだ。


そして、リビングのドアが開く。



「お姉ちゃん、変な音したけど大丈……。」


「あれ、お姉ちゃん、その人だーれ?」


弟のゆうくんと妹の藍ちゃんが駆けつけて来てくれたみたいだ。


「……二人とも、ちゃんとご挨拶。」


「……、……にちは。」


「こんにちは!」


「……こんにちは。」


元気で人懐っこい妹の藍ちゃんと、静かでクールぶっている弟のゆうくんは、いろんな面で対照的だ。


藍ちゃんは元気にペコっとご挨拶するのだけど、内弁慶で人見知りなゆうくんは、知らない人がいるとみるや急に押し黙ってそっぽを向きだす。



「ねえ、お姉ちゃん大丈夫?なんだかちょっと様子が変な気がする。」


「う~ん……、藍ちゃん、ちょっと肩のところを見てくれる?」


「うん?なんともなさそうだよ?」


心配して寄ってきてくれた藍ちゃんに、肩の様子を見てもらう。


なんともないか……。さっきのは気のせいだったのかも。




「……、まあ、お姉ちゃんは大丈夫!それよりも……ゆうくん大丈夫?」



どうやら、さっきの"ゴン!"という音はゆうくんが転んだ音のようだ。


さっきからしきりにおでこの所をさすっている。




「な、何が?」


「ゆうくん、さっき転んだよね。もう……、だからお姉ちゃんいっつも、走ったら危ないよって言ってるでしょ?」


「別に、転んでない。」


ゆうくんはムッとしながら返事をする。



『前はもっと素直な感じで可愛かったのに……。』


ちょっと前まで、どこにいくにもお姉ちゃんと一緒が良くて、『お姉ちゃんと結婚する!』なんて言っていたゆうくんは、一体どこへ行ってしまったのだろう。


いつからか、家で甘えることが少なくなって、他の人がいるときには素っ気ない態度をとるようになってしまった。


『まあ、きっと。お姉ちゃんが大、大、大好きなことが、ばれたくないだけだよね?』




「それより。ゆうくん。」


「え?な、なに……?」


「お姉ちゃんとの約束。忘れちゃったの?初めて会った人には何するんだっけ?」


「う……。こ、こんにちは……。」


「……こんにちは。」


一応、小さい声で挨拶らしきものをしていたのはみていたが。あれでは挨拶とは認めることはできない。



「ねえ、お姉ちゃん。藍、お腹すいた~。」


「あ、もう13時だね。今ご飯作るから少し待っててね。」


全くもって、手のかかる子たちだ。


……改めて、この子たちのためにしっかりしなきゃと、強く思う。




「……、なんですか?クロリアさん。……あ、もしよければ、ご飯一緒に食べますか?」


「……うん。由愛、ありがとう。」


キッチンに向かうために立ち上がろうとすると、クロリアさんと目が合う。


名前を教えた記憶はなかったが、多分忘れてしまったんだろう。


だって、名前で呼ばれると、なんだかしっくりくる。




「……、まだなにかありますか?」


「……いや、……お姉ちゃん、偉いなって思って。」


抑揚のない声、つかみどころのない口調。


無表情で、何を考えているのか全くわからない。

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