第5話 タツナとの新たな契約
前世の許婚関係。
付け入るスキがあるとすれば、ここしかない。
前世は50の歳の差があったが、今回はほぼ同じだ。
タツナが俺達を修正しようという以上、対決は免れない。
ただ、タツナとやりあって勝てる自信があるかというとない。遠隔攻撃でどうにかできるかもしれないが、1人で前衛張っていたし、こういう性格なのでタフ極まりない。
となると、基本、下手に出るしかない。
「タツナ、ここでは歳の差もないし、やり直そう」
『ここでは約束も何もありません』
にべもない返答が返ってきたが。
「前世が別なら、俺が前世から不信心者だったと言うのはおかしくないか?」
『……』
前世と現世が別なら、許婚関係もない。それは確かだ。
ただ、タツナの俺に対する評価は前世のものもかなり重きが置かれている。
自分の都合に合わせて前世を無視したり、しなかったり。
それはおかしいだろ、ダブルスタンダードだという話だ。
『……なるほど。確かに前世と現世の繋がりを無視するのは利己的です。その点については認めましょう』
「そうか。じゃあ、年齢も近くなったし、ここで」
『では、イサムラブの姿勢について説明してもらいましょうか』
「何!?」
ここでまさかのイサムの話?
あ、そうか。俺はイサムのことを男だと思っていたから、「一緒に風呂入ろう」とか「同じ部屋にしないか」とか気軽に言っていた。
イサムが女子であるという観点に立ち返ったら、前世の俺の態度はイサムにべったりだったようにも見える。
『セイジはロリコンであり、小さい女子が好きだということは理解していますが、それにしてもやり過ぎに見えました』
「待て、待て、待て!」
そんな風に思っていたのかよ!
「まず断じて言うが、俺はロリコンではない。ロリコンならセイコにだってかまっていたはずだろう」
『では、それ以外の部分でイサムが好きであった、と?』
「だ~か~ら~」
今にして分かったことだが、色々ややこしい事態になっていたわけだな。
俺は「いくら何でもこの年齢差で許婚もないだろ」と言っていたが、その一方でイサムにべったりだったという誤解を招いていたようだ。
タツナからすると、先祖同士の許嫁命令を無視して、ロリコン路線まっしぐらに見えていたわけか。
「俺はさ、イサムのことをずっと男だと思っていたんだ。だから部屋とか風呂が一緒でも問題ないだろう、とな」
『……さすがに大賢者だけあって、口がよく回るわけですね』
信用されてねー。
まあ、そうなるわな……
『あるいはセイジは年下の男好きという、神の道に背きまくる道を歩んでいたと』
「懺悔します。イサムを女の子だと知っていました。愚かな私を許してください……」
やばかった。
もっと恐ろしい地雷が待っていた。
タツナがそっちの誤解を持ってしまうと殺された上に死体まで消し炭にされてしまいそうだ。
事実と違っても謝るしかない。こうして、真実は捻じ曲げられていくわけだ。
「タツナ、俺は転生して心を入れ替えた」
『……』
「信用していないというのなら、明日一日一緒に付き合って、俺の誠意を見てほしい」
『セイジの誠意?』
「そうだ。俺がタツナのことをどれだけ大切に思っていたか、分かってもらいたい」
嘘じゃないよ!
今の言葉ほど真剣じゃないけど、50歳の歳の差で結婚なんて、タツナが気の毒だと思っていたから避けていたわけだし!
それを周辺環境なども相まって、一番エクストリームな方向に解釈されていたんだから!
タツナはしばらく考えている。
『……よろしいでしょう。仏の顔も三度までという言葉もあります。明日一日、セイジの誠意とやらを見せてもらいましょう』
商談成立だ! いや、商談ではないか。
というか、おまえ、神の道ってうるさいくせに仏なんて言っていいのか?
とにかく、タツナとの間で次の約束が成立した。
成立さえすれば、タツナからそれを破ることはない。
俺は東京に戻っても大丈夫なわけだ。
ただ、明日が非常に大変なことになってくるわけだが……
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