第4話 キシ・タツナとの因縁
土曜日の昼。
俺は仕方なく、河川敷へと出かけていた。
以前、不良に絡まれてファイアーウォールを使ったところからは上流に行ったところで、人もほとんどいない。
ここでキシ・タツナが現れるのを待つ。
30分ほどで現れた。
セイコとイサムは150センチ代の小さな体格だが、タツナは175近くある。今の俺より3センチくらい高い。ちなみに前世の俺はひょろ長い感じで180くらいあったのだが。
タツナは満足そうにうなずいて、武器を構えた。
「首を洗って待っていたようですね。殊勝な心掛けです」
剣道部にでも所属しているのか、袋に入った長い剣を持っている。
ただの竹刀だとは思う。しかし、使うのはタツナだ。
俺も含めて、イサムやセイコもそれぞれ前世の特技に応じたことができる。
だから、タツナが剣を使う以上、地面ごと吹っ飛ばすくらいの威力はあると見ていいだろう。
俺は黙ってスマホの録音機能のスイッチを入れた。
「……俺はこうやって出て来たんだ。まさかこのうえで家に襲撃するとかはしないよな?」
「私も騎士のはしくれ。そのような信義にもとることはしません」
「その言葉を忘れるなよ。移動!」
証拠もとったところで、俺は移動魔法で北海道の無人駅に移動した。
いや、こういう逃げる展開を予想していたわけではなく、連休中に物珍しさに寄っただけなんだけど。
これで今日一日は大丈夫だろう。タツナは自分で宣言したことを破ることはない。
とはいっても、いつまでもこうするわけにもいかない。
日曜日の夜には家に戻らないといけないからな。それを理解してタツナも家の近くで待っているはずだ。
だから、それまでの間にタツナをどうにか説得するしかない。
移動した後は端末で交渉だ。
「なあ、タツナ。おまえ、もしかして前世のことを恨んでいるのか?」
『答える理由を見出しません』
とりあえず何か言えば律儀に返してくるところはタツナの弱点でもあり、付け入るところでもあると思う。ここからどうにか突破口を見出したいが。
「俺は異端じゃないんだ」
『過去の行動から見ても、そうとは思えません』
「やっぱり前世のことを恨んでいるじゃないか」
はっきりとは言わないが、やはり根に持っているようだ。
前世の俺とタツナ。
実はその間には許婚関係があった。
といっても、前世では俺は70を過ぎていて、タツナは20前だ。
普通ならありうるはずがないのだが、4代前の祖先……すなわちケンジャ家の開祖とキシ家の開祖が「4代後の息子と娘を娶せよう」とか言い出したのだ。
それなら年齢を合わせるよう努力しろ、って話なのだが、そんな心がけは先祖共にはなかった。
ということで、4代経った頃には50以上歳の離れた許婚関係が成立していたというわけだ。
こういう場合は普通女の方から、「あんなジジイと結婚できるか」となるはずなのだが、タツナは堅物かつくそ真面目なので「先祖の言いつけがそうならば」と了承していたわけだ。
一方の俺は、さすがにそれもなぁと思っていた。
仮に俺が50歳くらいなら「こんな若い子でラッキー」と思ったかもしれないが、そこから更に20年重ねて相手が孫娘みたいな感じになるとなぁ、と。
だから知らんぷりしていたのだが、どうもそのあたりもタツナは「この高齢賢者は祖先の意向を無視している」と否定的に……、要は俺が神の道に反抗的だと捉えていたフシがある。
女神はそういう部分も分かっていたのかもしれない。
俺達に反撃しようとタツナを見つけ出してけしかけたのだろう。
とんでもない奴だ。魔王より酷い。
そういやダイマオーは何をしているんだろう?
北海道を歩いているとそんなことを考えてしまう。
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