第3話 大賢者、異端認定を受ける

 イサム、セイコ、ベンケイの3人が何故か寺で座禅なりさせられている。

 その3人から「次はおまえだ」というメッセージが届いた。


 何なんだ、このホラー映画みたいな展開は。

 とはいえ、賢者セイジとあるからには、俺の前世を知っている人間で、それはイサムとセイコを除くと女神しかいない。

 女神は最近、自分だけ取り残されてイライラしていたから、俺達に恨みがあるわけで何かしら反撃したいと思っているはずだ。

 ただ、疑問がある。


 ベンケイはともかく、イサムとセイコが女神の反撃で寺に閉じ込められることは考えづらい。

 それこそイサムなら「正当防衛だ」とか言って、女神を撃って逃げだしそうだ。

 もちろん、女神の財力で従者を増やして一時的に拘束することはできるかもしれないが、あんな風に2人並べて雑巾がけさせるのは至難のはずだ。

 この2人が泣きを入れつつも従っているというのが不可解だ。

 どうしたものか、女神に探りを入れてみるか。


 先に動き出したのは相手の方だった。


 俺の携帯電話が鳴る。知らない番号だが、恐らく女神の一派だろう。

「もしもし?」

『久しぶりですね。大賢者セイジ』

「……おまえは、キシ・タツナ!?」


 その慇懃な口調で思い出した。

 勇者パーティー最後の1人、竜騎士のキシ・タツナのことを。


 そうか!

 キシ・タツナが3人を捕まえたのか。


 キシ・タツナは勇者パーティー唯一の前衛職だった。

 そう、普通の勇者は前衛なのだが、イサムは銃専門なので後衛にいる。

 俺とセイコも当然後衛だ。

 だから、キシ・タツナが1人で前衛を張っていた。

 ということは、接近した状態で会えば、前衛と後衛の至近距離タイマンになり、当然前衛が勝つ。

 この要領で全員捕まったのだろう。

 ベンケイは無関係だが、あいつも鎧とか着ない上半身裸の忍者だからな。

 近接戦になればキシ・タツナが勝つはずだ。


「イサムとセイコ、ベンケイを捕まえたのはおまえか?

『貴方の指揮下で、この世界で神を冒涜していると聞きました。貴方達には悔い改めてもらう必要があります。大賢者……いえ、異端者セイジ』

「何!?」


 俺が異端者!?


「待て、タツナ! 誰がそんなことを言ったんだ!? 女神か? 女神から聞いたんじゃないか?」

『答える必要性を見出しません』

「待つんだ! 俺は異端では……」

『異端者とはいえ、家族まで巻き添えにすることは本意ではありません。明日の昼、外に出て来るように』

「だから話を……!」


 ブツッと音がして、電話が切れた。

「くっ……、やはり聞く耳をもたないか、あの堅物は……」


 あの馬鹿女神、こともあろうにキシ・タツナに対して「俺が神を冒涜した」なんてことを言ったのか?


 キシ・タツナの騎士道……それは彼女の思い込む神の道である。

 これに違反したと認定された者に対しては一切の慈悲がない。まさに消し去るのみである。

 しかも、そうじゃないと言うのなら、そうでないことを証明しろと言ってくる。生まれてから今までの録画映像をぶっ通しで見せろ、くらいの勢いだ。

 悪魔の証明だ。そんなことができるはずがない。


 あいつは堅物で、全く冗談を理解しない。

 異端であるかそうでないかの証拠など必要ない。

 あいつが異端だと思えば、すなわちそれが最終審判となる。

 イサムとセイコ(ついでにベンケイ)が従っている理由が分かった。

 異端審問状態のタツナに歯向かうなど、津波に水鉄砲で立ち向かうようなものだ。

 下手な行動をして「貴女は異端を応援するのですね?」と認定されれば、2人にとっても地獄だ。

 本心がどこにあるとしても、自己批判して黙って労務に服するしかない。


 タツナは恐ろしいことに「家族を巻き添えにしたくなければ」などと言ってきた。

 アイツなら「異端捜査」の名目で他人の家族を吹き飛ばすこともやりかねない。

 明日の昼か……。


 くそぅ、厄介なことになってきたなぁ。

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