第6話 決着は病院で?

 東京に戻った後、早速準備を始める。

 果たしてどこに行ったものか。

 まず根本的な問題としてそれほど予算がない。連休中に札幌で遊んでいたことあって、貯金の類はない。

 ただ、幸いというか動画再生の広告収入2万円が入ってきた。

 これが軍資金だから、少なくともショッピングなどは行けない。


 支出が予定できる映画からご飯、そこから散歩くらいだろうか。

 予算に制約があるのがバレバレだが、前世と同じならタツナは堅物で真面目だから、多分このあたりは問題視しないだろう。

 スケジュールが決まったところでタツナからメッセージが来た。

『申し訳ありません。母が入院することになったので、1週間の停戦を求めます』


 母が入院? そんなバカなことが!?

 あぁ、こちらの世界の母か。

 前世のタツナの母ちゃんはそれこそオーガかと思わんばかりの大きくて怪力の持ち主だったからな。タツナが父親似だったのは本人にとって幸いだった。長身と怪力は引き継いでいるが……

 あの母ちゃんなら俺達が総出でなければ負傷すらしない印象だが、こちらの世界の母親が同じとは限らない。


 家族の入院なら仕方ないか。

 1週間猶予ができるのは俺にとっても有難いし。

 いや、待てよ。

「病気のことは分からないし、他の友達がいるならいいけれど、もし良いなら一緒に見舞いに行くけど?」


 タツナはああいう堅い性格なので、親しい友人は少なそうな気がする。だから友達が一緒にいれば母親は喜ぶだろうし、嫌らしい計算になるがタツナに恩を売れる可能性がある。「俺を異端扱いするなんて、おまえの母さんが泣いてしまうぞ」という方向に持っていけるかもしれない。

 それに病院へのお見舞いなら、あまり予算がかからなくて済むというメリットもある。見舞いの花束くらいだろう。

『……分かりました。それでは明日の11時にこちらまで来てください』

 おっと、病院を指定してきたぞ。

 やはりお堅くてボッチだということを知られたくはないようだ。

 と、思わせておいて実は彼氏がいたりして、なんてオチがあるなら、俺にそこまで関わらないはずだし。


 翌日、移動魔法で近くの知っている駅まで赴き、数駅乗って目的地につく。

 途中で小さな花を買って、病院へと向かう。あまり派手なものを買って場違いだと捨てなければならなくて気まずいので、小さめの、場合によっては本人の部屋に飾れるようなものだ。

 時間の5分前に着いたら、既にタツナが待っていた。

「おはよう」

「おはようございます」

「状況が分からなかったが、手ぶらで来るのも悪いので一応お見舞いとして持ってきた。不要ならタツナが持ってかえって、飾るなり捨てるなり適当にしてくれ」

「いいえ、ありがとうございます。それでは……」

 と、入院棟に向かおうとした時、急に受付から物凄い怒鳴り声が聞こえた。


「おまえんところのヤブ医者のせいで左手が使えんようになったんじゃ! 見舞金くらい出せや!」

 うわー、左手に三角巾をあてた気の荒そうな爺さんが受付の看護師に怒鳴っている。

 周囲を見ると、ヒソヒソと「またやっているよ……」と言っている。

 頻繁にあんなことをしているのか。

 聞いていたタツナが怒ったのだろう。受付の方に向かおうとした。

 というか、今気づいたけれど、何で母親の見舞いに竹刀持ってきているんだ。

「まあ、待て」

「しかし……」

「怒ったとしても、荒っぽいマネはダメだ。入り口の自動ドアを開けたままにしておいてくれ」

「……?」

 タツナは自動ドアのところに行き、端の方を踏んだままにして開放状態を続ける。

 良い子は真似をしたらダメだぞ。


 その自動ドアの方に風魔法で爺さんを吹き飛ばした。

「うわっ!」

 そのまま空中から上の方に吹き上げてから、地面に落とす。

「うわーっ! 助けてくれーっ!」

 もちろん、最後は止める。

 そこで白々しく駆け寄っていく。

「大丈夫ですか!? おじいさん?」

 放心状態だった爺さんが、気を取り直してまた怒り出した。

「この病院はとんでもないところだ! わしを殺そうとしおった!」

「そうなんですか!? それは大変ですね。ところで……」

 俺は周囲にも聞こえるように大袈裟に話している。

「さっき左手が使えないと叫んでいましたけれど、今は思いっきり左手を使っていましたよね?」

 そう言って、携帯の動画を見せた。

 落ちそうになっていた爺さん、左手でなるべく身を庇おうとしっかり動かしている。

 もちろん、そう落ちるように仕向けたわけだが。

「……あっ」

 と戸惑う爺さんに小声でつぶやく。

「治ったんなら、さっさと帰ってくれ。次は本当に落とすぞ」

「……な」

 爺さんはギョッとした顔を向けた。一度睨むと、舌打ちをしながら帰っていった。


「もう来るなよ~」

 手を振って見送って、中に戻る。

「いつまで踏んでいるんだ?」

「あ、そうですね……」

 タツナが足をどけ、自動ドアが閉まった。

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