第10話 決着は突然に

『50対2www』

『ベンケイさん、容赦ない』

『賢者はこの状況を覆したら、本当に大賢者かもしれない』


 こんな感じのチャットが流れているらしい。

 もちろん、それを見る余裕は俺にはない。

 これだけ相手がいるとなれば、常に警戒しなければならないからだ。


 とりあえずセイコと背中合わせになって、お互い正面の180度に集中する。

 飛び掛かってきたら、合図をもらって俺の周囲にファイアーウォールを張る。それで警戒しつつ打開するしかないが、問題はファイアーウォールの中にいる限り、こちらから打開できないことだ。

 いつまでも張り続けていると、MP切れになるかもしれない。いや、どうなるか分からない。そんなに長く魔法を使い続けたことはないからな。


「フフフ、そりゃ!」

 ベンケイの合図でニンジャ達が何かを取り出した。

 うわ、ペイントボールを投げつけてきた!

「いやーっ! ペイントボールは嫌ですぅ! 負けですぅ!」

 うわ、セイコが戦意喪失してしまった!

 というか、あれだけ煽りまくって戦闘放棄が早すぎないか!?


『これで50対1だ』

『これじゃ魔法が使えても勝負にならないな』


 ち、ちくしょう……。

 こうなると移動魔法で逃げるしかないか?

 しかし、セイコを置いて逃げると、後が滅茶苦茶怖いな……


 とか言っていると、じりじりと距離を縮められてきた!

 くそ、これだけ包囲されているとファイアーウォールを使っても、忍者が飛び越えてきそうだ。

「フフフ、どうやら我々の勝ちで御座候」

「ち、ちくしょう……」

 ベンケイが高笑いをした。

「ブワッ、ブワッハッハッハッハッ! 拙者は腰抜け賢者や、煽り聖女、弱虫勇者より強いのでござるよ! 拙者こそが女神ちゅわんにふさわしいのでござる! 者共、行けい!」


 ベンケイの指示とともに、忍者達が一斉に飛び掛かってきた。

 チクショウ! 万事休すか!


「誰が弱虫だってぇぇぇ!?」


 と、突然叫び声がしたかと思うと、ダダダダダとものすごい連続音がした!

 飛び掛かっていた忍者達が一斉に悲鳴をあげて地面に落とされていく。


「な、何事で御座候!?」

「一体、何なのよ!?」


 ベンケイと女神が音の方向を向く。

 俺は2人から目を離さずに、視線だけそちらに向ける。


「ハレンチ忍者が、この勇者イサムに対して、随分と偉そうな口を叩くじゃねえか!」


 イサムだ!

 イサムが草むらに隠れていたんだ!

 いや、隠れていなかったかもしれないが、とにかくちっこいから気づかなかったんだ!

 まさかイサムに助けられるとは!


 ……あ、いや、ちょっと待て。

 イサムがマシンガンでモブ忍者達を打ち落として、今度はマグナムをベンケイに向けている。

「誰が弱虫だって、あぁ!?」

「ヒィィ! 銃で撃つなど、ありえないでござる!」


 さすがのベンケイもマジ泣きで抗議しているが、た、確かに……

 俺が助かったのは間違いないが、相手が死ぬとなるとちょっとシャレにならない……

 ちなみに女神の反応はない。多分恐怖で気絶したと思われる。


「うるせえ!」

 イサムがベンケイに向けてマグナムを撃った!

 ベンケイがドカンと跳ね返ってそのまま倒れ伏した。

 ベンケイなんだから立ってやられないと、と思ったけれど、マグナム弾で撃たれてそれは無理だろう。

 た、大変なことになってしまった……

 事件を起こしてしまった……


『あれ、マジで死んでない?』

『まさか』

『でも、エアガンであんな音にはならないぞ?』


「い、い、イサム、おまえ、なんてことを……」

「あぁ? 何だよ?」

「何も殺さなくても」

「ハァ? 殺すわけねえだろ? ヒグマが出ても大丈夫なように睡眠効果のある奴を装填していただけだ」

「えっ?」


 あぁ、セイコが「クマは安心」と言っていたのはイサムが対クマ用に待機していたわけか。

 それでいざという時用に用意していた睡眠弾を忍者とベンケイに撃った、と。

 それなら安心か。


「でも、空から落ちたから大怪我は必至ですぅ」

 うわぁぁ! 確かに! 15メートルくらい飛び上がっていた奴もいたもんな!

 そこから意識を失って落ちたなら重傷必至だ。首の骨を折って致命傷を負っていても不思議はない。


 慌てたところで、セイコが急に胸を張る。

「それでも大丈夫ですぅ! ワタシがカミの力と引き換えにカミの力を引き出すですぅ! 仮に死んでいても生き返るですぅ!」

 カミの力と引き換えにカミの力を引き出す?

 一体、何を言っているんだ?


「髪と引き換えに神の癒しの力を引き出すですぅ!」

 そう言って、倒れている忍者達からタオルを引き抜きつつ、まとめた。

 重傷っぽいのが4人、死んでいるかもしれないのが2人……。

「これならセイジの髪5千本と引き換えに治るですぅ!」

「ぶうえぇぇぇぇっ!?」

 髪5千本!?

 セイコ、おまえ、俺に死ねと言っているのか!?


「俺にとって、この再び巡り合えた髪がどれだけかけがえのないものなのか、おまえには分からないのか!?」

「分からないですぅ。ワタシの知るセイジはハゲだったですぅ。さっさとそうなるがいいですぅ」

「おまえは鬼なのか、悪魔なのか!? というか、イサムの髪にすればいいだろ!?」

「馬鹿言うんじゃないですぅ! 女の子の髪と引き換えなんて、どうしてセイジはそんな鬼畜なことが言えるですか!?」

「女の子もへったくれも……えっ?」


 ……え、女の子?

 どういうこと?


 ……イサムが女の子ってこと?



※200時間だと時間がズレるので、前章最終話のタイトルを「約200時間」にしました(^^;)

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