第9話 荒野の決闘

 日曜日の早朝、俺は再度新千歳空港駅に行き、エアポートで札幌まで行った。

 その後、夕方まで札幌市内で観光とグルメを楽しみ……5時にセイコに指定された場所に向かった。

 そこから車に乗り、遠く離れた山の方へと向かう。


 空が暗くなってきたぞ。

「本当に大丈夫なのか? 夜になったらクマが出ないか?」

「大丈夫ですぅ。私を信用するですぅ」

 正直、あまり信用できないのだが。

 ベンケイと女神にも場所は教えてある。

 正直、向こうはかなりの出費になると思うのだが、女神は金持ちそうだから大丈夫か。ベンケイは知らん。あれだけ細マッチョだから意外と金持ちなのかもしれない。


 たどりついたのは草が伸びた荒れ地だ。

「さて、私達のカメラをセットするですぅ」

 あぁ、そうだった。

 一応、この決闘の様子も配信するんだよな。


 7時前に2台の車が別々にやってきた。

 そこから女神とベンケイが降りてくる。どんな顔かと思ったが、忍者の覆面をしていて目のあたりしか見えない。

「フハハハハ! 腰抜け賢者よ、今日こそお主に吠え面をかかせてやるで御座候!」

 態度は相変わらずだ。

「アハハハハ! 馬鹿賢者! アタシに歯向かったことを後悔させてやるわ!」

「えぇぇ」

 従っていたわけではないけど、歯向かったつもりもないんだが?


「決闘とは言っても、女の子を殴ったり蹴ったりするのは反則ですぅ!」

「当然よ! アンタ達ごときが女神のアタシに手を触れるなんてあってはならないわ!」

 この女神、蹴っ飛ばしていいかな?


 セイコはタオルを腰のあたりに巻きつけた。

「タオルを取られたり失ったりした奴は負けですぅ!」

「合点承知の助!」


 なるほど。

 タオルを奪うかなくさせたらいいということは、風の魔法でも使ってうまいこと吹き飛ばすか、あるいは火の魔法で燃やせばいいわけか。

 これは俺にとって有利そうだぞ。

「時間になったら、それぞれカメラに向かって挨拶してそこからスタートですぅ!」

「「合点承知の助!」」


 ということで、8時になると4人がそれぞれ自分のカメラに向かって生配信開始の挨拶をする。


「ハッハッハ! 皆さん、ご機嫌よう! 私はファンタジアの大賢者だ。今日はいよいよベンケイとの決闘の時となったが、ルールは……」

「どうも、フォロワーの皆さん、ベンケイでござる。いよいよ拙者と腰抜け賢者の宿命の戦いが切って落とされるでござるよ! ルールは……」

 と、ルールについての説明をする。何ともシュールだな。

 女神とセイコも終わった……と思ったところで、道路の方に大型バスが泊まった。

「うん? お、おい、ちょっと待て!」

 何と、バスから50人くらいの忍者装束の連中がゾロゾロと降りてくるではないか!

 あいつら、ベンケイの仲間か?

「ちょ、ちょっと待てよ! 何なんだそいつらは!?」

「人数についての決まりなど何も話していないでござる! 応援を呼ぶのは自由でござる!」

 ベンケイがそう言ったかと思えば、女神も「オーッホッホッホ!」と高笑いだ。

「女神の財力を思い知ったかしら? 勝てばいいのよ! 勝てば!」


 な、何て汚い奴らだ。

 ベンケイがセイコに近づかないように吹き飛ばしつつ、女神を仕留めて、最後にベンケイを、と思っていたが、相手がこれだけ増援部隊を連れてきたのでは完全に計画が狂う。

 大魔法でも使って、まとめて吹き飛ばしてしまうか?

 しかし、それでは当たりどころが悪かったりすると、死傷事故になりかねない。この市街地から離れたところでは大変なことになってしまうだろう。


 チクショウ、どうすればいい……?

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