第8話 決戦は荒野で
とりあえず羽田から新千歳への交通費を調べてみたが、最安でも1万くらいはするし、土日運賃だからどう見積もっても2万くらいはしそうだ。
「はぁ……」
「どうしたの? 兄ちゃん? 誰かにフラれたの?」
廊下で溜息をついていると、妹の真樹が聞いてきた。
相変わらずコイツも兄に容赦ない妹だな。
「いや、来週、急に札幌に行かないといけなくなったんだが、交通費がないんだ」
「札幌まで何しに行くの?」
「いや、まあ、たいしたことではないんだが……」
「だったら行かなければいいんじゃない?」
「ぐっ」
くそ、小5のくせに的確な判断をしおって。
ただ、そうなんだよな。
考えてみれば、チャンネルの維持にそこまで必死になる必要もないんじゃないか?
改めて初心に帰ってみる感じだが、別に元の世界に戻る必要もないし、ここで楽しく過ごせばいいわけだからな。
もうチャンネルごと放置しておこうかな。
いや、ちょっと待て。
移動魔法を使えないか?
ファンタジアでは、一度訪れたことのある街には一瞬で移動することができた。
小学校の修学旅行で札幌に行ったことがある。もしかしたら、移動できないだろうか?
いや、しかし、札幌駅にいきなり現れたら大変なことになるな。
どうしたものか。
空港にするか。早朝なら人はいないだろうし。
よし、新千歳空港駅との連絡口だ。電車は6時以降にならないと走らないから、4時台に移動すれば誰もいないだろう。
翌朝、早朝4時に起きて新千歳空港へ移動だ。
出来るかな。新千歳空港の写真を開いて、ここに行ったと念じて移動!
一瞬、視界が暗転した。めまいがするような感覚がして、目を開くと……。
「……マ、マジか?」
目の前には新千歳空港駅の改札口だ。
本当に……移動できてしまった。
あ、まずい。入り口の防犯カメラと目が合った。
まあ、別にいいや。悪いことをしているわけではないし、移動魔法で戻れば追跡もできないだろうし。
よし、今度は学校に戻るとしよう。
「……成功だ!」
これだったら、新千歳空港から札幌駅までの特急切符を買うだけで済む。
1150円か! これならさすがに余裕だ。
『セイコ、俺、札幌行けそうだ』
『当然ですぅ。私には分かっていたですぅ』
『で、札幌駅に行けばいいのか?』
『冗談ではないですぅ! 女神と忍者との対決を人だかりのあるところでやるわけにはいかないですぅ』
まぁ、確かにそうだな。
女神はともかく、上半身裸のマッチョ忍者がいるのはヤバいな。
『この手の対決は荒野でやるものと相場が決まっているですぅ』
『荒野?』
『つまり、札幌周辺の山ですぅ。札幌駅まで来れば、車で送迎してやるですぅ』
『山か……、ちょっと怖いな。ヒグマとか大丈夫だろうか?』
昨今の情勢だと、ベンケイや女神よりもヒグマが怖いんだが。
『心配無用ですぅ! 4月1日から5月31日はヒグマ特別注意期間ですぅ! 冬眠から目覚め、子連れのヒグマが餌を探していて、ピクニックで登山する人間と鉢合わせになることがあるんですぅ』
心配無用じゃないだろ! 滅茶苦茶危ないじゃないか!
もしかして、日本語分かっていないんじゃないか?
『とにかく心配無用ですぅ! 賢者はベンケイに勝つことだけ考えればいいんですぅ!』
不安で仕方ないが、セイコは絶対に安全だと言う。
『分かった。信じているぞ』
そう答えるしかなかった。
その後、対戦地の情報がベンケイと女神にも伝えられた。
あとは当日を待つだけだが、本当に大丈夫なのだろうか?
正直、不毛な対戦までの間に、移動魔法を使った生配信とかしたいなぁ。
ただ、これをやるには協力者が必要だが、協力者を募るのが難しい。
女神と決裂してしまったので、室地さんや従者も使いづらいし(頼めば来てくれるとは思うが)、そうなると俺の事情を知る連中は北海道にしかいない。セイコに新千歳駅まで来いと言う訳にもいかないしな。
ということで、緊張感のない魔法などで日々を濁しつつ、決戦の日を待つだけとなった。
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