第4話 女神と忍者の共同戦線

 時間がやってきた。

 ベンケイは女神にいきなり交際を申し込むという。

 どうなるのか、俺にはさっぱり分からない。

 ベンケイも女神も一癖もふた癖もあるから、迂闊に入って余計な被弾を食らいたくはない。

 とりあえず見守るだけとなる。


 ベンケイは今日も元気だ。

 生配信で交際を申し込むということは、既に連絡はしているんだろうなぁ。

 そのあたりの感触で見込みがないと分からないものかなぁ。


『どうも、フォロワーの皆さん、ベンケイでござる』

 おなじみの挨拶から始まった。

『前回、腰抜け賢者が拙者とのコラボを断った故、拙者は女神ちゃんに交際を申し込むでござるよ』


 改めて聞くと、「どうしてそうなるんだ?」感が満載だが、まあ、言っても仕方がない。

 俺に出来ることは事態の推移を見守ることと、両者とも、俺に変な逆恨みはしないでほしいということだけだ。

『それでは、女神ちゃんに電話するでござるよ』


 電話?

 そんな恐ろしいこと、俺でもしたことないのに。

 電話番号自体は聞いたけれど、女神にいきなり電話なんて。

 どんな罵詈雑言言われるか分からないから、とてもできないものなのだが。


『もしもし?』

 おっ?

 電話に出た?

 ということは、下交渉は意外と順調に行った?

 しかし、嫌だよなぁ。チャンネル同士でネット電話出来るっていうのは。

 現代地球のこの、電話されて、出ないとこちらが悪いみたいなノリは好きじゃないんだよなぁ。

『女神ちゃーん、ベンケイです』

『あ、ども……』

 女神の返事が滅茶苦茶やる気がない。

 まあ、俺だって直接電話したくないけど、さ。

『拙者、賢者チャンネルで女神ちゃんを見て一目惚れしたで御座候。是非とも付き合いたいでござるよ』

『あ、うん。死んでくれる?』

『は……?』


 いや、ベンケイが固まっているけれど、俺だって「は?」だよ。

 そんな返事するなら最初に断れよ。


『アタシさぁ、アンタみたいな自分勝手な男、大嫌いなのよ。だから、死んでくれる?』

『え、えぇーっと、それは拙者と付き合わない、ということでござるか?』

『当たり前でしょ。鏡で自分を見てみなさいよ』


 ……いや、あのさぁ。

 アンタは女神かもしれないんだけど、それはあくまでファンタジアではそうなだけで、この日本ではそうじゃないんだぞ。そこまで酷い断り方していいのか? 逆恨み食らうぞ。

 俺やイサムみたいに何かしらの特技があればいいけど、女神のくせに特に何もないみたいだし。


『それはつまり、拙者よりあの腰抜け賢者の方がいいってことでござるかぁ!?』

 ベンケイがぶっとい涙を流して、尋ねている。

 そういう聞き方やめてくれよ!

 どんな返事を返しても、俺が悪い扱いになるだろ!


『はあ? どっちもクズでしょ』


 ムカつく……

 けど、中途半端に『賢者の方がマシね』とか言われても嫌だし、『アイツよりはマシだわ』と言われても更にムカつくから、このくらいの答えがいいのかもしれない。


 まあ、いずれにしてもベンケイは見事に玉砕してしまった。

 さすがにフォロワーもどうコメントしたら良いのか困っているようで、反応が全くない。

 というより、俺を信用しないのは仕方ないにしても、下交渉くらいして反応を探れよ。自分の生配信に合わせていきなりネット電話かけてなんて、自分勝手すぎないか?

 そんなことを言ってももう遅い。

 ベンケイは見事に玉砕してしまった。

 このまま、諦めてくれればいいのだが……


『女神ちゃん! あの卑劣な賢者に言いくるめられているでござるね!?』

 ベンケイはあくまで俺が諸悪の根源というスタイルを崩さず、号泣しながら、女神に更に問い詰めはじめた。

『拙者を信じてほしいでござる! 拙者、必ずあの賢者をボコボコにして女神ちゃんを助けてみせるで御座候!』

 何か目茶苦茶な言われ様だな……


『本当?』


 うん?


『もちろんでござる! 拙者、女神ちゃんに一目惚れしたでござる! 火の中水の中に飛び込む所存で御座候!』

『良かったぁ! アイツ、最近生意気なのよ。お灸をすえてくれない?』

『もちろんでござる!』


 えーっと、女神?


『アイツ、後発のくせにアタシより登録者多くて生意気なのよ』

『生意気でござる! 拙者のことも上から目線で見ていたでござる!』

『そうでしょ!? 生意気なのよ!』

『共同戦線張って、賢者を叩きのめすでござる!』

『賛成!』

『その後で、手を繋いでデートするでござる!』

『あぁ、それはまあ、今後の検討材料ということで……』


 ベンケイはそこで電話を切った。

 ベンケイのフォロワーが大盛り上がりだ。

「賢者は酷い奴だった!」、「ベンケイさん、懲らしめる時です」等など好き放題言っている。

『ハハハハハ! 愛の前にパワーアップした拙者、賢者を叩きのめすでござるよ!』

 ベンケイはベンケイで大盛り上がりだ。


 変な形で巻き添えをくらうのは避けられたが、女神とベンケイが俺を妬んで意気投合するという予想外の方向で巻き添えを食らうことになってしまった。

 やはり、女神を信用するのは間違いだったとともに、ここから更にベンケイのコラボ攻勢が来そうだ。

 頭の痛い話だ、全く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る