第3話 女神の好みと止まらない忍者
『明上先輩、こちらのチャンネルに先輩のファンだという人が来ていますが、どういう人を紹介したらいいですかね?』
翌朝、俺は女神にメッセージを入れた。
正面から行って大丈夫なのか、って?
大丈夫だろ。あいつ単純だし。
すぐに返信が来た。
『アタシのファン!? って、何で直接来ないのかしら?』
『いやいや、この間のヒロインぶりが受けたんですよ』
『えっ、そうなの? まぁ、前回のは、まさに迫真の演技だったものね』
演技……?
ちなみに女神チャンネルでは「エキストラとして参加していました」といい、参加していたというところを随分と強調している。
色々無様な姿をさらしていたが、あれは全て台本通りだった、自分の素ではない、ということを主張しているようだ。
『それはそうと、アタシのファンならとりあえずOKだけど、できれば可愛い子がいいわね』
女神の返事だ。
可愛い系だと?
細マッチョとはちょっと違うかも?
ベンケイの顔は分からんが、あのムキムキの体で顔だけ可愛いっていうのはちょっと無さそうな気がするからな。
『細マッチョはどうです? 割と人気あるみたいですけれど?』
『マッチョ系は嫌ねぇ。暑苦しそう。それにああいう連中って往々にしてナルシストも多いからダメなのよ。生理的に受け付けないわね』
そこまで言う!?
生理的に受け付けないとか、キモいとかは絶対に言ったらいけない言葉なんだぞ!
ともあれ、細マッチョは撃沈だ。
『あとはやっぱり権力ね。権力がある人がいいわ』
金持ちを飛び越えて、権力を求めるあたりが年季入っている感じだよなぁ。
まあ、見た目は若い美女だが、何といっても女神なわけだし年齢は軽く万を……
『馬鹿賢者、あんた、今変なことを考えていない?』
『滅相もございません』
……びっくりした、まさか気づくとは。
女神だけあって? 自分の陰口とか悪口には鋭いな。
しかし、可愛い子でかつ権力持ちなんて、そんな奴世界中探してもいないだろ……
ともあれ、このままだと完全にベンケイはアウトオブ眼中になるな。
『まあ、多少タイプじゃなかったとしても、アタシの言うことに完全に従って、何でもしてくれる人ならしばらく付き合う分には悪くないわね』
なるほど、女神の言うことを何でも従って、言うことを聞くのならしばらくはOKと。
これはベンケイも、満たすことができそうだな。
しかし、全部言うこと聞いても、しばらく付き合うだけってあたりが最悪の人間性なんだが……
とりあえず細マッチョはタイプではない。
権力を持った、可愛い子がタイプである。
何でもしてくれる相手なら、とりあえず付き合ってはくれる。
このあたりの情報を教えてやるか。
俺はベンケイにメッセージを送った。
『女神に聞いてみると、こういうことなのでちょっと苦しいかもしれませんね』
さて、どういう反応を示してくるか。
すぐに返信が返ってきた。女神もだけど、返事が早いよなぁ。いつもチェックしているのかと聞きたくなってくる。
『ハハーン、お主、拙者が女神ちゃんに告白するのを恐れて、そんなことを言っているのでござるな』
「……」
ああ、こういう反応になるのか。
まあ、確かに多少メッセージのやりとりをしただけで赤の他人だ。赤の他人の都合の悪いことを信じるかというと、信じないだろうな。
『コラボする度胸のない腰抜け賢者は、拙者の女神ちゃんへの告白をハンカチ噛みしめて泣きながら見ているで御座候。三日待つと言ったが、お主の情けない態度に拙者、激怒したでござる。今日の亥の刻の生配信で告白するでござるよ!』
えぇーっ!?
生配信で告白するの?
何でそこまで向こう見ずなんだ、おまえは……。
しかし、ベンケイは、俺が女神を失いたくなくて止めようとしていると勘違いしているから、な。
この考えの隔たりは正直大きすぎる。止めても聞かないだろう。
落ち着いてみたら、ベンケイは憎めない奴ではあるが、俺の事を散々馬鹿にしている嫌な奴でもある。
女神はもっと酷い奴だが、嫌な奴であるベンケイが玉砕して「ざまぁ」となるのも、それはそれで悪くはないか……
もちろん、女神が突然乱心して「OK」出すのなら、それはそれでも良いのだが……
俺にとってはどの方向に転がっても悪くはない。
また、様子を見ることにしよう。
どんな展開になるのか、ちょっと楽しみなのは確かだな。
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