第2話 忍者の勝利宣言

 夜、家に帰るとベンケイからメッセージが届いていた。

『今宵亥の刻いのこくに勝利宣言をするで御座候。考え直すなら今のうちでござる』

 ござる、なのか御座候なのかはっきりしてくれよ。


 参ったな、こうも一方的に絡まれるとは。

 勝利宣言自体はどうでもいいんだが、フォロワーの反応が気になるな。

 こういうので無視を決め込むと「こいつ、負けを認めたんだ」ってことになって予想以上に登録者数が減ったりするものなのだろうか。


 うーん……。

 まあ、その時はその時か。

 こういう形で減ってしまうなら、それは仕方ない。


 とはいえ、一応、どんな形で勝利宣言をするのか、確認だけしておくか。

 ひょっとしたら、こんなことをする時点でもう奴の術中にはまっているのかもしれないが。


 亥の刻というから、午後9時だ。

 奴のチャンネルが始まった。

 上半身裸で細マッチョな体形を晒している。

 俺の知っている忍者とは色々違うな。ファンタジアにも忍者はいたが、もうちょっと違ったし、ここ地球の日本で勉強した忍者もこいつとは違うんだが……


『どうも、フォロワーの皆さん、ベンケイでござる』

 何故か両手を合掌して頭を下げる挨拶から始まった。

『早速でござるが、拙者、今、巷で話題になっている大賢者にコラボを申し込んだで御座候』

 ベンケイのフォロワー達が「本当か?」、「受けてもらえたの?」と期待に満ちた反応を向けている。こういうのを見ると、「断った」とは言いづらいな。

『残念ながら、賢者は拙者の想像以上に腰抜けだったでござる』

 と、俺とのやりとりが入ったスマホ画面を拡大した。


『奴は拙者に勝てないと見て、逃げたのでござる! ブワッ、ブワッ! ブワッハッハハハッ!』

 謎の笑い声をあげて高らかに勝利を宣言している。

 ムカつくが、ここで反応したら相手の思うつぼだ。


 奴は一通り笑うと、何故かマッチョがよくやるポージングをかまして、また笑いだす。

『改めて忍者が最強であること、勇者はおろか賢者も歯が立たないことを証明できたで御座候』

 イサムが聞いたら、「ざけんなよ、コラァ!?」とか言い出しそうだし、マジで死人が出そうだ。

 奴がいないことは幸いとせざるをえない。


『さて、拙者とのコラボを逃げた腰抜け賢者にあのような美女はもったいないでござる』


 ……うん?


『拙者は心が広いので、もう三日だけチャンスをやるで御座候! その間にコラボの意思を示さない場合、拙者は女神ちゃんに交際を申し込むでござる!』


 フォロワーが「うおー、交際宣言」、「漢だ」と反応している。


 な、何だと……

 ベンケイ、女神に交際を申し込むだと……?


 是非やってくれ!

 是非成功してくれ!

 応援エールを送ってやりたいくらいだ!


 いや、真面目にベンケイの顔は分からんが、見た目は細マッチョのたくましい感じだ。

 女神は顔もボディもまあ、女神だけあってそこだけは凄いから、意外とお似合いなんじゃないか?


 しかし、こいつ、どうやって女神にコンタクトとるつもりなんだ?

 まあ、女神チャンネルもある程度は有名だから、ベンケイのフォロワーの中に知っている奴がいるか。

 よしよし、頑張ってくれ……


 でも、交際を申し込んだとして、女神が受けるかな?


 できれば成功してほしいが、正直、見通しは明るくない。

 ……恐らく、「ハァ? アンタ何なの? アタシと付き合うなんて何様のつもり?」とかそういう反応を示しそうな気がする。

 実際、高校でも既に何人か玉砕しているという噂を聞いているからな。

 主に有人から。

 しかも、俺が反対しなかったから交際を申し込んだなんて言われると、俺もトバッチリを受ける可能性がある。


 俺はどうすべきか?


 当たり前だが、この展開で俺が反対して、ベンケイとコラボするなんてことはありえない。

 となると、最低限、門前払いを食らわない男となれるように、ベンケイを磨いてやるべきだ。

 三日以内に女神と付き合える男になれるような助言をしてやる必要がある。


 しかし、どうやって?

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