③初コラボの大騒動
第1話 自称忍者と自称賢者
結局、家に帰ったのは12時過ぎ。
そこから風呂入って寝て、起きると朝7時半過ぎだ。
「うわ! 遅刻だ!」
朝食を食べる時間もなく、当然、チャンネルをチェックする時間もない。
急いで学校にかけつける。
俺達の周辺は大変だったが、学校には何の変化もない。平和な日常が続いている。
イサムはちゃんと北海道に帰ったのだろうか。
あの生活スタイルだと、ファンタジアではともかく現代日本では生きていけないだろうから、帰っていることだろう、きっと。
いつものように午前の授業を終えて、昼休み。
ようやく時間が出来たのでチャンネルのチェックをする。
登録者は依然順調に増えていて登録者は4万を超えてきた。
増えるのはいいんだけど、こちらの想定と違う形で増えているから不気味なんだよなぁ。
おっ、何か新着メッセージも来ている。
メッセージを開封してみた。別のチャンネル運営者からの誘いのようだ。
『拙者、SHINOBIのベンケイと申す者でござる。拙者の忍術こそ日本一であると信じるところ、大賢者を名乗る貴殿が急に関心を集めている状況を心苦しく
……何だ、こいつは。
忍? アルファベットにしているのはどういう意味なんだ?
しかも忍者なのにベンケイか。半蔵とか佐助とか名乗るべきじゃないか?
ついでに末尾は、日本語として正しいのか?
『貴殿の魔法と拙者の忍術、どちらが日本一か決めたく御座候。つきましてはコラボを希望するでござる』
……コラボ。
コラボかぁ、魔法と忍術のコラボとだけ聞くと面白いかもしれないが、魔法を他の奴に直接見せるのはいかがなものか。
とりあえず御座候のチャンネルをチェックしてやるか。
チャンネル名は『弁慶の忍者道』。
タイトルからして何か矛盾するものを感じるが、それは置いておこう。
登録者数は19000人、俺の方が多いとはいえ、極端に違うわけではない。コラボ相手としては悪くなさそうに見える。
もちろん、肝心なのは中身だ。
ベンケイと名乗る男は顔こそアバターで隠されていて俺と同じだが、身体はやたらといかつく、体操選手のように鍛えられている。
その身体をもって、アトラクションを突破していくのが、このチャンネルの特徴のようだ。
あぁ、こいつ、テレビのアクションバラエティの『HANZO』に参加しているんだな。あれって海外では忍者として売り出しているから、ベンケイだけど忍者なのか。
本人は忍術と言っているが、術というものは何もない。
とにかく滅茶苦茶鍛えていて、腕だけで身体を支えたり逆立ちして進んだり、自らの筋肉を頼りにアトラクションをクリアしたりするスタイルだ。
「……これはちょっと違うかなぁ」
忍術と言っても、火遁の術とか、そういうものを使うわけでは一切ない。
凄い人だとは思うが、俺の魔法とは完全に毛色が違う。
筋肉と魔法は相性が悪い。
丁重に断ろう。
『お誘いありがとうございます。すごい筋肉で感心しました。ただ、私の目指すものとは系統が違うと思いますので、お互いの道を行く方が良いと思います』
しばらくすると返信が来た。
『自称勇者の挑戦を受けておきながら、忍者を避けることは納得いかないで御座候。コラボを断るというのなら忍者が勇者や賢者より上であることを高らかに宣言するでござるが、それでも良いかで御座候』
何だか面倒くさい奴だな。
まあ、別にいいよ。
『どうぞ、どうぞ、こういうことで上下はないと思いますので、好きにしてください』
女神があんなどうしようもない奴なんだし、肩書でマウント取り合うなんて不毛なことだ。
そこから返信は無かった。
多分、諦めたのだろうと思って、夕方になる頃には、この自称忍者のことをほぼ忘れていた。
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