第12話 200時間後に女勇者と気づく賢者

 全部が終わると10時近くになっていた。

 家には「遅れる」と連絡をしているが、さすがに帰らないといけない。

 イサムはホテルの予約もしていなかったらしいので、仕方なく近くのビジネスホテルを予約してやった。金はもちろん女神持ちだ。文句があるなら、明日再襲撃しても見て見ぬフリをするだけだ。

 ただ、予約したホテルまでは連れていくことになる。俺が帰宅するのは11時くらいになりそう……


 ホテルまでの道すがら、再度イサムを宥める。

「……女神はどうしようもない奴だが、そんな奴だと知らなかった俺達もダメだったと思うしかないさ。あと、世界をぶっ壊したのはイサムの責任なんだから」

 ミジンコ転生は辛かったのかもしれないが、それは甘んじるしかないだろう。

 イサムからの返事はない。色々な思いが去来しているようだ。

「まあ、困ったら相談に乗ってやるから」

「……セイジ」

「お、何だ?」

「……おまえを巻き添えにする気はなかったんだ」

「お、そうか?」


 いや、思い切りまとめて殺す気だったように思うが……

 とはいえ、解決した今、蒸し返して不機嫌にさせても後々面倒になるだけだ。ここはイサムに合わせてやるのが年配者だろう。


「……セイジ、お、オレのこと、嫌いになったか?」

「……は?」


 思わず大きな声をあげそうになってしまった。

 何だ、コイツ、俺が敵に女神側に立ったから、自分のことを嫌いになったかもしれないと思ったのか。

 そういう単純なものじゃないけれど、そう思ってしまったんだな。

 こういう可愛いところがあるヤツなんだよな。

「ハハハ、まあ、時々びっくりさせられるけど、最年少なんだしな、仕方ないと思っているさ。イサムが少々悪さしたくらいで嫌いになったりはしないさ」

 そう言って、肩をポンポンと叩く。


 そうだ、こいつを有人あたりとつるませればいいかもしれないな。

 イサムはガンヲタク過ぎて、女の子と絡むことがない。

 かつて勇者パーティーとして活動していた時に聖女のセイコや竜騎士のキシ・タツナがそばにいたのにデートしようとかそういうことは全くなかったからな。

 有人とつるむことで、女子生徒とか女子芸能人とか教えてもらって、もうちょっと健全な方向に行くんじゃないだろうか。


 そうこう考えているうちにビジネスホテルについた。

 ホテルの受付は、明らかに学生っぽいイサムを見て、「未成年ですか?」と言ってくるが、身分証などを見せて説明をする。

「色々あって帰れなくなったんですよ。明日朝に北海道に戻るので、問題ないでしょ? 何だったら警察に確認してもらってもいいですよ」

 さっき、警察に身分証などは見せたからな。

 そのうえで、俺達は配信問題児かもしれないが法的にはセーフというお墨付きは受けている。


「……分かりました」

 俺が自信満々に言うことで、ホテルのフロントもそこからは疑いなく進めてくれる。

 部屋を確保して戻ったところで別れることになった。


「じゃあな」

「あぁ、セイジ。ありがとう……」


 ようやく全てから解放された。

 とりあえず、帰宅前にチャンネルの様子を見ておくか。

 うわ、登録者は3万を超えた。女神のチャンネルを超えてしまったな。

 コメントを見ても。

『訳が分からんところもあるが面白い』

『地味に現実事件とリンクしていそうでハラハラする』

『方向性がないけれど、嘘か真かの魔法が楽しめる』


 とりあえず好評なようだ。

 スパチャなどの収益も大きなものはないが、気軽に投げてくれた者が何人かいたようで1万円くらいになっている。

 いいのか悪いのかは分からんが、イサムがとんでもないことをしたおかげでエンターテインメントとしては面白くなったから、だろうな。


 ただ、次回以降の方向性が難しいなぁ。

 マジなイサムを交えたバトルもの見せた後で、「床のコインを浮かべます~」では期待外れマックスって感じになりそうだ……

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