第11話 生配信が終わり

『やべえ、何が起きたのかはっきり分からないが、このチャンネルすげぇ』

『この展開は予想できなかった』

『すげぇな。配信素人なのに演劇がマジモンに見えた』

『ヒロインが足引っ張りまくるのはホラーっぽいな。スタイルドーン! っていうのもホラー映画みたいだし』


 いや、マジモンなのよ……

 本当に殺し合い寸前の状態だったから、迫力あったのかもしれないけど。

 しかし、女神、そんな殺し合いの最中に「トイレ行きたい」とか言い出すかね、全く。


『でも、魔法あったっけ?』

『最後に眠り魔法入れていただろ?』

『あれはリアリティがちょっと……』


 余計なお世話だよ。

 ただまあ、スリープは確かに使ったのか使っていないのか、映像では分からんよな。


『今日は敵役のエアガン強化だろ?』

『そっちか。あのエアガンは確かにリアルだよな。壁に本当に穴が空いているように見えた』


 いや、本当に空いているんだ……


『今日は予想と全然違ったけれど、めちゃ面白かった。次回も面白いもの見せてくれ』

『お、ナイススパチャ』

『ナイススパチャ』


 うおぉ、3000円のカンパが!?

 それを皮切りに500円とか300円とか、おひねりのような感覚でポンポン飛んでいく。

 すげぇ、ちょっと嬉しいけれど、イサムとの命の張り合いを考えると報酬としては安すぎるよなぁ。

 というか、この壁とか天井の修理、どうするんだろう。これだけでン十万くらいかかりそうな気が……


 とりあえず、締めるか。


「ゴホン、今日もまた予期せぬアクシデントで、楽しい魔法とは行かなかったが、楽しんでもらえたのなら幸いだ。あと、スパチャありがとう! 次の生配信が決まったら、追ってお知らせする。明日以降も動画は投稿するので、奮って見てもらいたい。それでは!」


 それで撮影を切った。


「ふぅ……」


 とりあえず室地さんや従者が起きるまでにイサムをどうにかしないとまずいな。

「先輩、イサムを運ぶんで手伝ってもらえます?」

「な、何でアタシが運ぶのよ?」

 女神はおびえている感じだ。情けないなぁ。

 でも、イサムが明らかに殺意向けていたから理解はできるが。

「でも、このまま目覚めても厄介ですし、室地さん達がいてもややこしいことになりますよ?」

「……わ、分かったわ。でも、手足は縛っておくべきじゃない?」


 うーん、どうしたものだろう。

 確かに目覚めて暴れられても物騒だが、銃を取り上げておけば大丈夫じゃないかな。返してほしければ大人しくしろと言えば、何よりも銃が好きな男だし、黙っているだろう。


「すいませーん」


 と、外から声が聞こえてきた。

 やばいな、リアル観客みたいなのが来たのか?

 違った。


「◎×警察署の者なのですけれど、この建物で物凄い音がしているということで……」


 もっとヤバいのが来た!

 この室内の惨状と、室地さんと従者達の様子を見られたら、事件だと思われてしまう!

 と言って、拒否すると怪しまれるし。


「……どうぞ」

 中に招き入れるしかないが、当然ながら入った瞬間に「これは!?」と声をあげた。

 更に室内に入って、弾痕とエアガンを見て、目が一気に仕事モードになった。

「凶悪犯を見つけた」

 そんな顔をしている。


「これは何なんだね?」

 威圧的な口調になってきたところでイサムが目覚めた。


「おっ? あっ!?」

 無意識に自分の銃に手を伸ばそうとして、警察官に睨まれる。

「スリープ」

 何か言うと厄介だし、もう一度寝かしておこう。


 そのうえで、弁明タイムがスタートする。土下座タイムと言ってもいいかもしれない。

「いや、ただのエアガンなんですって!」

 エアガンであるのは間違いないはずなので、それで押し切ることにした。

 警察もちょっと調べて、「うん?」と首を傾げる。

「確かにエアガンのようだが……」

 部屋の弾痕を眺めて、再度首を傾げたる。


「いや~、これがですね。配信でちょっとリアルっぽくやるべく、ノミとかで削ったものでして……」

「そ、そ、そうなのよ! 全部配信のためのもので!」

 こんな感じで、女神に加えて気を取り戻した室地さんや従者達も交えて二時間くらい、ひたすら配信でやったことですで押し通して、どうにか説得した。


「……全く、最近の若者は周囲の迷惑も顧みず、配信、配信と……」


 そんな文句を露わに帰っていった警察官を見送り、全員で「はぁ~」と肩をなでおろした。

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