第10話 生配信中の乱入者③
イサムが右手のマシンガンを構えてきた。
「死ねぇぇぇ!」
「マジックバリア!」
至近距離から撃たれる無数の弾丸が魔法の障壁に阻まれて、虚しく跳ね返る。
いや、虚しく……ってことはなく、天井やら壁に弾痕がついていく。
この壁やら天井の修理代、誰が出すんだろう?
そうこうしているうちに、女神は四つん這いの姿勢で駆け、洗面所の方に逃げ込んだ。
……逃げられたようでムカつくが、残っていても邪魔にしかならないから、一応良しとするか。
部屋には俺とイサムだけになった。従者達は全員イサムにのされたようだし、室地さんも部屋に入ってきた時にやられている。
「なぁ、イサム。女神はともかくとして、他の人達を死なせたりしていないよな?」
「当たり前だ。オレは勇者だ。つまらない命を奪ったりはしねぇよ。全員峰打ちだ」
「峰打ちっていうのは、剣でやるんだぞ? おまえの場合、手刀とか銃だから、峰打ちとは言わねえよ」
「……そういう変に理屈っぽいところは本当にセイジの爺そっくりだな」
余計なお世話だ。
イサムは右手にマグナム銃を持ち替えた。
威力はマシンガンよりマグナムの方が上なのだろう。
マグナムの強い奴は象を倒すとも言われている。イサムが使うやつはもっと強いだろう。
こいつの直撃を受けると、ディフェンスバフがあっても相当なダメージになる。
これを受ける前に、攻撃魔法を決めなければいけないが、それが不発になると隙を突かれる。
ただし、逆も同じだ。イサムが撃つ時は隙が出来る。
どちらも先手を打ちたいが、外すとカウンターを受ける。だから、どう動くか読まなければならない。
お互いにジリジリと左右に動く。
「ね、ねぇねぇ、セイジ……」
そこに邪魔が入る。洗面所に逃げ込んだ女神が弱弱しく声をかけてきた。
「ちょっと、お手洗い行きたいんだけど……」
はぁぁ!?
「この緊迫した展開分かんないんですか!? 一時間くらい我慢してくださいよ!」
「仕方ないでしょ! 行きたいものは行きたいんだから!」
このスタジオ、洗面所と化粧室が別々になっているんだよなぁ。
というか、これってめっちゃ不利だ。
女神が出て来たら、イサムはターゲットを変えて女神を撃つかもしれない。
さすがに見殺しにするのは色々まずい。
つまり、俺は自分自身と、女神を守らないといけなくなる。
もちろん、バリアのターゲットを俺と女神双方にすることもできるが、分散される分バリアが弱くなる。
イサムの強力な弾丸に対するバリア効果が無力化する可能性がある。
くそ、今すぐ動くしかない。
よし、下だ!
銃を相手にする場合、一番良い方法は伏せることだと何かに書いてあった。低い姿勢で飛び込むぞ。
「ハッ! その手が読めないオレだと思ったかぁ!?」
イサムはマシンガンから手を放して、左手をアッパー気味に打ってきた!
従者達を一撃で倒してきたし、イサムは格闘術も相当なものなのだろう。
だが、実はこれこそが狙いだ!
「スリープ!」
睡眠魔法は距離が近ければ近いほど、効き目が強くなる。
数歩でも離れていれば勇者であるイサム相手に通用する魔法ではないが、俺が突っ込み、イサムがカウンターを狙うくらいの至近距離、顔と顔が合わさるくらいの至近距離ならば効き目がある!
「し、しまっ……」
イサムはガックリとその場に倒れ伏し、スースーと寝息を立て始めた。
「ふぅ……」
全く、迷惑な奴だった。
というか、生配信が完全にオジャンになってしまったか……
そう思って、ふとテーブルを見ると、従者Cが置いていたカメラが、バッチリこちらを捉えていた。
「えっ……」
もしかして、今までのシーン。
全部、配信されていた……?
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