第9話 生配信中の乱入者②

「見つけたぜ、女神ぃ……」

 イサムの口から女神という言葉が出た。


 女神を知っていた?

 まあ、確かに外見はそっくりか。

 何で気づいたんだと思うが、この前、コンビニ強盗の件で顔出しされていたからな。

 女神は短絡的に「フォローが増えた~!」と喜んでいたが、やはり顔なんて出すものじゃないや。


 というか、イサムが言っていた復讐の相手というのは女神のことだったのか。

 あれだな、大主神にミジンコに転生させられたことを恨んでいたわけか。

 でも、ファンタジア大陸を滅ぼしたのはイサムのせいだから、結構逆恨みな気もするんだが。

 もちろん、女神が世界を守る責任を果たしていなかったとも言えるが……


 のんびり考えている暇はない。

「ひえー!?」

 女神が慌てて俺の後ろに隠れて、しがみついてきた。

「うわっ!」

 いや、性格はとにかくスタイル抜群だし、胸の感触がぎゅうううっと来て、それは結構ラッキーなんだが、ここでしがみつかれると俺が動けない!

 というか、これ、俺が盾になっている状態じゃないか!?

 女神なのに人を盾にするのはどうなんだ?


「テメェにゃ恨みはねえが、一緒に死ね!」

 イサムが左手のマグナム銃を構えて撃ってきた。

 いや、「死ね」ってエアガンで死ぬわけが……。


 直後、俺の頬の横を熱線が掠めて、後ろの壁にドゴーンという穴が開く。

「きゃーっ!」

 女神がますますしがみついてくる。


「……」


「……ちっ、左で撃ったから外しちまった」

「ちょっと待てよ! イサム、おまえ、本物の銃を持ってるのか!?」

 エアガンです、って書いてあっただろ!

 話が違うぞ! 話が!

 当たっていたら、間違いなく死んでいたじゃないか!

 急いでディフェンスバフしておかないと!


 イサムがイッた視線のまま、にへら~と病んだような笑みを浮かべる。

「テメェ、馬鹿か? この国では本物の銃を使うのは違法なんだよ」

「エアガンで壁に穴が開くわけないだろ!」

「……オレくらいの勇者になればなぁ、エアガンの弾にモノホンの破壊力を持たせることなど訳ねぇんだよ」

 何だって……?

 賢者の俺が魔法を使えるのと同じく、こいつも勇者としての能力があるということか。

 ……としたら、何で女神だけ何もないんだ?


 まあ、とりあえずイサムを宥めよう。


「イサム、おまえの気持ちは分かるが、女神を殺しても解決はしない」

 そもそもファンタジア大陸を滅ぼした主犯はおまえなんだし。

「そうよ! 馬鹿賢者の言う通りよ!」

 うわー、真後ろで甲高く叫ぶのは勘弁してくれ。

 というか、盾にしているくせに「馬鹿賢者」はないだろ!

「……先輩、いい加減離れてもらいません? 今はディフェンスバフつけているので、銃弾受けても死にはしませんよ」

「嫌よ! アタシの美貌に傷がついたらどうすんのよ?」


 ……何だか、イサムに差し出したくなってきたな。


「というか、テメェは誰なんだよ? 女神のコレかぁ?」

 と、俺に向けて小指を立てて来る。

 イサム、おまえ、おっさんみたいな仕草でそういうのをやるのはやめようぜ。

 一体、幾つなんだよ?

 というか、それ以前に……


「おい、イサム。おまえ、俺が分からないのか?」

「オレの知り合いにテメェみたいなモブはいねえなぁ……」

 モブって言うな!

 確かに外見は普通かもしれんが。

「俺だよ、大賢者のセイジ」


 俺の言葉に、イサムはようやく感情を取り戻したような顔になった。

 というか、明らかに馬鹿にしている顔だ。


「はぁ? テメェ、馬鹿言ってんじゃねえよ? セイジは禿で白い髭生やしたジジィだ」

 そういう認識だったのかよ!

 あまりに酷すぎるぞ!

「いや、転生して若返ったんだって」

「あぁ!?」

 因縁つけるような声を出して、イサムはねめつけるような視線を向けてくる。


 その後、イサムはニタ~ッと蛇のような笑みを浮かべた。

「……モノホンだろうとパチモンだろうとどっちだって関係ねぇよ。テメェが本当にセイジだと言うなら、オレを倒して証明してみせろよ」


 女神もどうしようもないが、勇者も負けず劣らずどうしようもない奴だった。

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