第8話 生配信中の乱入者①
翌日、日曜日。
朝から車に乗って都内へと戻る。
車内では特にやることがない。女神はチャンネルのアクセスなどを気にしている。マメに調べてもそんなに変わらないだろ。
あ、ちなみに車の中は、室地さんが運転、従者Bが控えドライバーとして助手席にいる。
二列目を女神が1人で占領しており、三列目に俺と従者3人がぎゅうぎゅう詰めになっている。
俺は自分のチャンネルをチェックするのがちょっと怖いので、クロスを見ている。
と、勇者イサムが『都内に来た』とクロスしている。
写真は羽田空港のようだ。どうやら北海道から上京してきたらしい。
どうしたものか。
前世でパーティーを組んでいたとはいえ、今の俺とイサムは全くの赤の他人同士だ。わざわざ会いに行くというのも変だ。向こうはこちらを多分認識していない。
俺と女神は前世の記憶を保持しているが、イサムがそうとも限らないからな。
少し様子を見ることにしよう。そう思ったが、次のクロスで考えを変えざるを得なくなった。
『とうとう見つけたぞ。いよいよ復讐する時だ』
「……」
これは明らかに危険そうだ。
凶悪犯罪をやるとんでもない奴が、犯行声明を出しているようなものだ。
「先輩、先輩」
「何よ?」
「イサムが何か物騒なことを言っています」
「イサムが?」
女神にもイサムのクロスを確認してもらう。
「何なのこれ?」
「分からないですけれど、何か個人的に恨みをもっている奴がいて、晴らしに行くようです」
あっ、もしかして、ダイマオーを見つけたのか?
前世のイサムはダイマオーと宿命のライバルだったし、転生先でも絶対ぶっ飛ばしてやると思っているかもしれない。
いや、しかし、できるのか?
ファンタジア時代のイサムなら銀河の一つや二つくらい簡単に吹っ飛ばせる能力を持っていたが、この地球の日本では無理だろう。エアガンも馬鹿にはならないが、さすがに命を奪うのは無理じゃないかな。
ただ、俺が魔法を使えるわけで、イサムにも何らかの不思議な力があったとしてもおかしくはない。
今日の生配信が終わったら、明日以降動向をきちんと確認する必要がありそうだ。
……のだが。
「うわ、もう18時過ぎか……」
帰りの道路がかなり渋滞しており、都内に戻ってきた時には18時を過ぎていた。
このままだと18時半くらいに解散で、家に着くのは19時を過ぎてしまう。予告時間に間に合わなくなりそうだ。
「それなら、スタジオを使えばよろしいのでは?」
従者Cがそう言って、スタジオの鍵を渡してくれた。
「えっ、いいんですか?」
「構いませんよ。我々も20時からありますし」
あ、そういえば女神も20時から生配信するとか言っていたな。
今回はまたコスプレ路線になるとかで、何かしら後ろに積んでいるみたいだが。
よし、スタジオの中で本でも浮き上げるような、穏やか~な魔法をやろう。
視聴者に拍子抜けされるかもしれないが、いくら何でも色々ありすぎるからな。
18時半にスタジオについて、早速生配信の準備をする。
と言っても、本を用意して、撮影カメラをセットするだけの非常に簡単なものであるが。
時間が来た。
時間前から、結構コメントが来ている。
『今日はどうなるんだ?』
『昨日のワゴンも、本当にそういう事件あったらしいし、期待したいところだな』
やはり、事件的な意味での期待も大きいようだ。
「ハッハッハ! 皆さん、ご機嫌よう! 私はファンタジアの大賢者だ。これから、皆さんに異世界の魔法を披露したいが、昨日、予想外の出来事があったので、今日は控え目なもので許してくれい」
『控え目?』
『何だろう?』
「この部屋には本やらコインやら色々なものが落ちている。これらを魔法で……」
俺の発言は突然、バーン! という発砲音のようなもので遮られた。
続けざまにバーンと扉が蹴られる。
『何だ?』
『これが魔法か?』
『あるいはまた予想外のトラブルか?』
「何事だ? うわっ!?」
入り口に向かった従者達の悲鳴と、ドサッ、バサッと倒れるような音がした。
コツコツと足音がして、小柄な男が入ってくる。
右手にサブマシンガン、左手にリボルバーを持っている。
イサムだ。完全にイッた目をしている。
「見つけたぜ、女神ぃ……」
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