第7話 生配信②

 交通量の多いところではないので、道路に出ても走る車はほとんどない。

 うわ、確かにワゴン車がガードレールを乗り越えて、車体が7割くらい乗り出している。対向車もいないから飛ばしてハンドル操作を誤ってしまったんだろうか。


 仕方ないな……。

 このまま落ちるのを見落とすわけにもいかないし、風の魔法でさっさと浮き上げて、車道に戻そう。

 あ、車の中から運転手が出て来てこちらを見るとまずいから。

「スリープ!」

 運転手達は寝かせておこう。


 これで良し。戻って、配信のやり直しだ。

 ……と思ったら、従者Dがしっかりカメラを向けている。

「……え、ひょっとして、今のも撮って……」

「あ、はい。特に切るなとか言われなかったので……」

「……」

 そうか、そういうものなのか。

「ちょっと車助けに行くから切っておいてね」と言っておくべきだったのか。

 元の場所に戻って、コメント欄を見ると……


『睡眠魔法? そんなのもあるのか?』

『これは……さすがにマジものなん?』

『分からん。今回の動画はいつもの場所から離れたところで撮影しているっぽいけれど……』

『すまん、正直何が起きたのか分からんのだが、川に落ちそうな車を元に戻して、運転手眠らせたってこと?』

『そういう設定なのか、本当に起きたハプニングなのか分からんあたりがもどかしい』


 ものすごい勢いでコメントが流れていて、リアルタイムでもコメントが流れ続けている。


 いや、これ、どうすればいいんだ?

 ……と、とりあえず一旦切るか。

「す、すまん、視聴者の皆! 予想外のことが起きたので、今日は一回終わらせてもらう」


『え、唐突に終わるの?』

『あのワゴン車、予想外の事故だったってことか?』

『でも、魔法みたいなものはやっていたから、一応OKではあるのか?』

『撮影続けていたこと自体気づいてなかったっぽいな。配信者は素人だな』


 うるさいわ、素人で悪かったな。


「明日の19時から、もう一度行うつもりだ。それではまた会おう!」


 と、無理矢理終わらせる形で終わらせた。


「ふう」

 一旦息をつくと、室地さんや撮影していた従者D以外の従者達が目を点にしている。

 これも困った話だな。

 一応、ちょっとした手品みたいなことをすると説明していたけれど、いきなり離れたワゴン車を風で持ち上げたのが手品なんてもので済むはずないからな。

 と言って、どう言えばいいものか分からないようだ。

 こちらも「実は大賢者でしたー」なんて言えるわけでもないし、非常に重い雰囲気が流れている。


「ちょっと馬鹿セイジ!」

 そうした空気を取り払ったのは女神だった。

「明日もやるって言うけど、明日は東京に戻るわよ。19時にここでやりたいなら自分で東京まで帰りなさいよ」

「あ、それは困ります」

「それなら、東京に戻った後、自分で撮影することね」

「ら、ラジャ……」

 いつもの我儘な物言いではあるが、確かにこの雰囲気で明日も皆さんに任せるのは更に色々疑念を呼び込みそうだ。

 自分で何とかしろ、というのはある意味その通りだ。


 女神にしてはナイスな発言だったが、そういう気遣いをしていたのか、単純に普通に我儘を言ったらたまたま良い感じになったのかは分からない。

 おそらく後者だろうな。


 とりあえず、明日の生配信は自分の部屋にするか。

 部屋の中でポルターガイストっぽい感じにやって、茶を濁すか。

 魔法を大々的に使い過ぎると、変な形で知名度が増しそうで、中々やりづらい。


 結局のところどういう評価になったのも気になるところで確認してみる。

 強制終了した今日の配信は、そのドタバタぶりで「何か妙に本物っぽい」という印象を与えたようだ。

 登録者は更に増えている。

 18000を超えてきた。この勢いだと明日には女神チャンネルを抜くかもしれない。

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